【図解あり】薬事法距離制限事件どこよりも分かりやすく解説【論述のポイント】憲法重要判例#3

『薬事法距離制限事件の事案の概要は?』

『精神的自由と経済的自由への規制の違いについて最高裁は何と言った?』

『薬事法距離制限事件の理解のポイントが知りたい』

かもっち

今回は、憲法の重要判例である「薬事法距離制限事件」について理解のポイントを解説するぞ

あひるっぺ

「職業選択の自由」で必ず学習する判例だね
事案の概要は有名だけど、最高裁は何を言ったんだっけ?

かもっち

あひるっぺ、思い出せるくらいに復習をしてね!
今回解説することは基本的事項だ!
「最低限これだけ押さえて欲しい!」ってことを解説しているよ。

薬事法距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)は、憲法22条の「職業選択の自由」に関する判例です。様々な判断基準を示した非常に影響力の大きな判例でした。

今回はその「薬事法距離制限事件」(最大判昭和50年4月30日)についてどこよりも分かりやすく解説します。

法書ログでは、本記事のほかに憲法重要判例解説記事を公開しているから、合わせて確認してみてください。

直近では、「サラリーマン税金訴訟事件」や「エホバの証人剣道受講拒否事件」の解説記事を公開しています。

サラリーマン税金訴訟をどこよりも分かりやすく解説【憲法重要判例#1】 – 法書ログ (hosyolog.com)

エホバの証人剣道受講拒否事件をどこよりも分かりやすく解説【憲法重要判例#2】 – 法書ログ (hosyolog.com)

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憲法と薬事法距離制限事件の関係

憲法22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

「職業」というと、会社員などの職種を意味するように思ってしまいます。しかし、ここで言う「職業」というのは「営業の自由」の意味を含みます

薬事法距離制限事件ではこの点を含めて「職業選択の自由」にはどのような意味があるのかが示されました。

薬事法距離制限事件の理解の前提となる知識

今回事前に知っておいて欲しい考え方は以下の二つです。解説内で出てきますので、是非ポイントとして押さえておいてください。

・二重の基準論:異なる状況に対して異なる基準を適用する理論
・規制目的二分論:法律がどのような目的で制定されたかによって、その法律の解釈や適用が異なるという考え

二重の基準論

「憲法」は様々な自由を保障する一方で、公共の福祉等を理由とする規制を認めています。この「自由を保障するが規制も認める」という考えは、異なる状況に対して異なる基準を適用するという「二重の基準論」という考えが元になっています。

薬事法距離制限事件では、「経済的自由」と「公共の福祉」という2つの点が問題になり、その二つの基準を基に「二重の基準論」について最高裁の見解が示されました。

規制目的二分論

法律で規制が認められるとしても、その規制か合憲かどうか判断しなければなりません。その時に「規制目的二分論」という考え方を基に判断します。「規制目的二分論」というのは法律がどのような目的で制定されたかによって、その法律の解釈や適用が異なるという考えです。

薬事法距離制限事件では、職業活動の種類を「消極目的規制と積極目的規制」に分けて判断し、その二つの基準を基に最高裁は「規制目的二分論」についての見解を示しました。

薬事法距離制限事件は最高裁が違憲とした12件のうちのひとつ

最高裁は先ほどの考えを基に、薬事法距離制限事件を違憲としました。過去に違憲とされた事例は少なく、参考にここでご紹介いたします。これらの事例は、判決後に、政府と国会がどのように対処したのかも注目されました。この記事の後半で薬事法距離制限事件についても対応をご紹介しているので、ご参考になさってみてください。

かもっち

最高裁が法律を違憲と判断した事例は、令和5年10月までの時点で12件しかありません!

薬事法距離制限事件はそのうちの一つです!

あひるっぺ

最新は12件目に出た「性同一性障害特例法違憲決定事件(最大決令和5年10月25日)なんだね

【参考】違憲判決(法令違憲)

①尊属殺人重罰規定
②薬事法距離制限規定 ←今回はココ
③衆議院議員定数配分規定 その1
④衆議院議員定数配分規定 その2
⑤森林法共有林分割制限規定
⑥郵便法免責規定
⑦在外邦人の選挙権制限規定
⑧非嫡出子の国籍取得制限規定
⑨非嫡出子の法定相続分規定
⑩女性の再婚禁止期間規定
⑪在外邦人の国民審査権制限規定
⑫性別変更要件の生殖機能喪失規定(性同一性障害特例法違憲決定事件)最新

薬事法距離制限事件の概要

広島県でスーパーマーケットを経営していたX社は、A市内の商店街で経営している店舗内に新たに薬局を設けることにしました。そこで、当時の薬事法に基づいて、医薬品の一般販売業許可申請を広島県知事Yに対して行いました。

ちょうど、その時期に薬事法が改正され、薬局の設置場所が配置上適正であることが許可条件として盛り込まれました。具体的な基準については都道府県条例で定めるものとされました。これを受けて、広島県でも条例により、薬局同士の距離を100メートルとする配置基準を定めました。

広島県知事Yは、この条例の配置基準に基づき、X社が申請した店舗の100メートル内に既存の薬局があるとして、不許可処分を行いました。

そこで、X社が行政処分の取り消しを求めて訴えを起こした事件です。

薬事法距離制限事件の問題点

主に以下の点が問題とされました。次の項目で問題の整理と解説を行っていきます。

①職業選択の自由の意味について
②精神的自由と経済的自由への規制の違いについて
③職業選択の自由に対する規制
④薬事法の距離制限規定の立法事実

薬事法距離制限事件に対する最高裁の考え方

①職業選択の自由の意味について

憲法22条
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。

憲法22条をそのまま読むと、職業を「選択する」自由のみを意味しているように読めます。

「職業を『遂行する』自由は含まないのか」という点が論点となっていました。

最高裁の判断

最高裁はこの点について、以下の解釈を示しました。

「職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちその職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請される」と述べた上で、「狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含している

②精神的自由と経済的自由への規制の違いについて

学説では「二重の基準論」と言い、次のような考え方が示されていました。

憲法が保障する自由には大きく経済的自由と精神的自由がある。一方で、これらの自由への規制も認めており、経済的自由への規制は政府による裁量を認める一方、精神的自由は保護の必要性が高いことからその規制内容を裁判所が厳格に審査すべき

最高裁の判断

「二重の基準論」を採用すべきかについて、最高裁は次のように述べました。

職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、公権力による規制の要請がつよい

つまり、経済的自由への規制は政府による裁量を認める方針を示しました。

憲法22条1項に、「公共の福祉に反しない限り」という留保が設けられていることも、その根拠になるとしています。

③職業選択の自由に対する規制

職業選択の自由は「経済的自由」の一つなので、最高裁の見解によれば、政府による規制を認める余地があることになります。

もちろん、裁判所は「その規制が合憲かどうか?」を判断しなければならないわけですが、職業は多種多様ですから、判断基準も職業により異なります。

学説では、規制目的二分論が展開されていました。

a、消極目的規制(消極的・警察的規制)

基本的に民間の活動に任せるものの必要な場合は、政府が規制に乗り出すと言うものです。

例えば、次のような規制です。

・許可制
国民の健康、善良な風俗、その他の警察目的により一定の職業を行うには行政庁の許可を必要とするもの。薬事法、食品衛生法、風営法、古物営業法など。

・資格制
一定の有資格者に限り、その職業に就けるもの。医師、薬剤師など。

・登録制
行政庁の公簿に記載することを要するもの。建設業、毒物劇物営業など。

・届出制
届出を必要とするもの。理容業など。

こうした規制が、合憲かどうかの判断基準は、「厳格な合理性の基準」を用います。

つまり、「立法目的が重要かどうか」、「立法目的達成手段が立法目的と実質的な関連性を有するかどうか」を判断します。

b、積極目的規制(積極的・政策的規制)

政府が積極的に規制に乗り出す場合です。

・国の独占事業
私人が業として行うことが禁じられているもの。例えば、国家収入の確保を目的とするタバコ、塩の専売制。安価公平な郵便制度のための郵便事業独占など。(※いずれも現在は民営化している)

・特許制
公衆の生活に必要なものであることから自由競争に適しない事業について、経営能力を有する者のみに特許を付与するもの。例えば、電気、ガス、鉄道、バスなどのインフラ。

・政策的な事由による規制

国の税収確保、供給過剰の防止、中小企業の保護などの政策目的から許可制とし、市場への新規参入を規制するもの。例えば酒税法、小売商業調整特別措置法。

こうした規制が合憲かどうかは、「明白性の基準」が用いられます。

つまり、「当該規制措置が著しく不合理であることが明白である場合に限り、違憲とする基準」です。

最高裁の判断

以上のような「規制目的二分論を採用するかどうか?」が注目されましたが、最高裁は次のように判示しました。

1、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべき

最高裁は、職業の自由への規制措置は、立法府の権限と責務であり、裁判所は…

「規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべき」

であると述べています。合理性の基準は、規制目的二分論の前提となる判断基準です。

2、薬事法距離制限規定は許可制に該当する

最高裁は、「薬事法距離制限規定が許可制に該当する」として、消極目的規制の合憲性判断基準について述べています。上記で示したように、「厳格な合理性の基準を採用しているかどうか?」が注目されたわけです。

最高裁は次のように述べました。

・合憲と言えるためには、原則として「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する」

・また、許可制よりも緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制では「目的を十分に達成することができないと認められることを要する

このように「厳格な合理性の基準」を採用することを示しました。おおむね、規制目的二分論に沿った判断基準を示したわけです。

④薬事法の距離制限規定の立法事実

法律は、社会的な背景があって制定されるものです。

薬事法の距離制限規定も、当時、薬局の偏在等について何らかの問題があったために、国会で議論が行われた結果、法規制が必要とされて、法改正により盛り込まれたわけです。

被告(国側)は、裁判でもこの点について主張するわけですが、憲法訴訟では「立法事実」と言います。

薬事法の距離制限規定の立法事実は次のようなものでした。

・薬事法は、不良医薬品の供給(不良調剤を含む。)から国民の健康と安全とを守ることを目的とする。

・以下のような事実関係が生じる懸念がある。

 薬局等の偏在競争激化
 →一部薬局等の経営の不安定
 →不良医薬品の供給の危険又は医薬品乱用の助長
 →国民の生命、健康への危険が生じる

そこで、

1、薬局等の乱設による過当競争により不良医薬品の供給の危険が生じるのを防止する。
2、無薬局地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進する。

という目的で、薬事法の改正で距離制限規定を設けた。

立法事実に対する最高裁の判断

上記の立法事実につき、最高裁は次のように判示しました。

・薬事法の許可制は、不良医薬品の供給(不良調剤を含む。)から国民の健康と安全とを守るためのものであるが、公共の福祉に適合しており、必要かつ合理的措置として肯認できる。

・しかし、距離制限規定は不良医薬品の供給の防止の目的と直接の関連性がない

・また、上記の立法事実は、単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたく、距離制限規定の必要性と合理性を肯定できない。

・よって、薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法の規定は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法22条1項に違反し、無効である。

薬事法距離制限事件を踏まえた論述例

薬事法距離制限事件を踏まえた大まかな論述例としては、以下が考えられます。

職業の重要性

②もっとも、職業は、社会的相互関連性が大きく、公権力による規制の要請が強い

③職業は、種々様々であって、立法裁量の範囲は、具体的な規制の目的、対象、方法などの性質と内容によって異なる。

許可制は、職業選択の自由そのものに制約を課すもので、職業の自由に対する強力な制限である

規制目的は、重要な公共の利益に限られ、規制手段は、目的達成のために必要であり、かつ、合理的なものに限られる。また、許可制よりも緩やかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制では「目的を十分に達成することができないと認められることを要する。

まず、①及び②については、汎用性があるため、論証をストックしておきましょう。職業の重要性に関しては、憲法の基本書や薬事法判決の言い回しを参考に、論証を作成しておくと良いかと思います。

次に、「許可制は、職業選択の自由そのものを制約を課すもので、職業の自由に対する強力な制限である」は規制の強度に対する評価ですが、非常に大切な点です。

試験では、問題となっている規制が「許可制」に該当するのかの検討が必須となります。仮に、許可制といえないのであれば、薬事法判決の⑤の判断枠組みは直ちには及ばないことになります。

この辺りは、答案に厚みを持たせることができる点です。例えば、形式的には「許可制」と言えない場合であっても、実質的には、職業選択の自由を制約するものであれば、薬事法判決の射程が及ぶとして、薬事法判決と同様の判断枠組みを採用しても良いでしょう。

また、目的手段審査の段階で、薬事法判決は、立法事実に関して、「単なる観念上の想定」ではダメであり、「確実な根拠に基づく合理的な判断」でなければいけないと述べている点も重要です。目的手段審査のあてはめでは、関連性、必要性の検討は十分に行いましょう。薬事法判決と同様のロジックで、判断枠組みを定立しておきながら、さらっと関連性、必要性を認定しまうと、薬事法判決をきちんと勉強していないなと思われてしまいます。

以上の点を意識すれば、守りの答案は作成できるのではないかと思います。

違憲判決後の政府と国会の対応

最高裁が法律を違憲と判断するためには、必ず大法廷で行わなければならないと定められています(裁判所法10条)。この事件でも、大法廷が開かれ、薬事法距離制限規定を違憲(法令違憲)と判断しました。

最高裁が法令違憲の判断を下した場合は、その法令の効力がどうなるのかについては、様々な学説があります。

裁判所が違憲判決後に新たな解釈を示してしまうと、新たな法律を制定したのと同様の意味になり、国会の立法権を侵害する可能性もあるため、難しい問題になります(憲法81条関係)。学説上は様々な議論がありますが、実際の処理としては、政府と国会が直ちに対応することが多いようです。

薬事法距離制限規定についても、まず行政庁が「行政指導」の形で、当該規定を執行しない方針を示しました。その上で、国会で当該規定を廃止する法改正を行いました。

まとめ

今回は、薬事法距離制限事件についての重要判例の「論証のポイント」について解説しました。

本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

参考文献

憲法判例百選1 有斐閣

司法試験&予備試験 完全整理択一六法 憲法 東京リーガルマインド LEC総合研究所 司法試験部

『司法試験の答案作成を極めよう!』

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