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郵便法違憲判決事件(最大判平成14.9.11)をどこよりも分かりやすく解説

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郵便法違憲判決事件(最大判平成14.9.11)は、憲法17条の国及び公共団体の賠償責任に関するリーディングケースとなった判例です。

当時、郵便事業を運営していた国の賠償責任を限定する郵便法の規定が、憲法17条に違反するとの判断がなされました。

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まず、事件の概要から確認しましょう!

▼憲法重要判例30選▼

No判決日事件名
1最大判昭53.10.4マクリーン事件
2最大判昭45.6.24八幡製鉄政治献金事件
3最大判昭48.12.12三菱樹脂事件
4最一小判平成1.3.2塩見訴訟
5最大判昭和49.11.6猿払事件
6最大判昭和58.6.22よど号ハイジャック記事抹消事件
7最大判昭和44.12.24京都府学連事件
8最三小決平成29.1.31グーグル検索結果削除請求事件
9最大判平成27.12.16女子再婚禁止期間事件
10最二小判平成23.5.30君が代起立斉唱事件
11最二小判平成8.3.8エホバの証人剣道受講拒否事件
12最大判昭和52.7.13津地鎮祭事件
13最大判昭和59.12.12札幌税関検査事件
14最大判昭和61.6.11北方ジャーナル事件
15最大決昭和44.11.26博多駅事件
16最大判平成1.3.8レペタ事件
17最三小判平成7.3.7泉佐野市民会館事件
18最大判昭和38.5.22東大ポポロ事件
19最大判昭和50.4.30薬事法距離制限事件
20最大判昭和62.4.22森林法事件
21最大判平成4.7.1成田新法事件
22最大判平成14.9.11郵便法違憲判決
23最三小判昭和56.6.15戸別訪問禁止事件
24最大判昭和51.4.14議員定数不均衡訴訟
25最大判昭和57.7.7堀木訴訟
26最大判昭51.5.21旭川学力テスト事件
27最大判昭43.12.4三井美唄炭鉱労組事件
28最三小判昭和56.4.7板まんだら事件
29最三小判昭和52.3.15富山大学単位不認定事件
30最大判昭和34.12.16砂川事件
目次

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「郵便法違憲判決事件」の概要

概要を見ていきます。

≪「郵便法違憲判決事件」の概要≫
Xは、Aに対して有する債権の弁済を求めていたものの、Aが支払わないため、AのB銀行C支店の預金口座に対する債権差押命令の申立てを行いました。

裁判所はこれを受けて、債権差押命令を発し、その正本が特別送達によりB銀行C支店に送達されました。

郵便局員は、その郵便物をB銀行C支店に直接手渡すべきところ、誤ってB銀行C支店の私書箱に投函してしまいました。

そのため、B銀行C支店への送達が遅れてしまい、その間にAがB銀行C支店から預金を引き出してしまったために、XはAのB銀行C支店の預金口座から弁済を受けることができませんでした。

そこでXは、本件送達が郵便局員の過失により遅延したことで、差押債権券面額相当額の損害を被ったとして、当時、郵便事業を運営していた国を相手に国家賠償請求訴訟を提起しました。

「郵便法による損害賠償」に関する規定

当時の郵便法では、次のような規定がありました。

  • 法又は法に基づく郵政省令に従って差し出された郵便物に関して、書留とした郵便物の全部又は一部を亡失し、又はき損したときに限って、一定の金額の範囲内で損害を賠償する(郵便法68条)
  • 上記の損害賠償の請求をすることができる者は、当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人に限定する(郵便法73条)

つまり、国が郵便物に関して損害賠償義務を負う場合を限定している上、損害賠償請求ができる者も限定しているということです。

本件に当てはめると、債権差押命令の正本は、遅れたとはいえ、裁判所から銀行に届いているので、亡失、き損したわけではありません。

そのため、Xが国に対して損害賠償請求を求めることはできないということになりそうです。

「郵便法68条・73条」と「憲法17条」の関係

憲法17条には、以下のように定められています。

憲法 第十七条
何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

これを受けて国家賠償法が設けられており、公権力の行使に当る公務員が故意又は過失により違法に他人に損害を加えた場合などは国又は公共団体が損害賠償責任を負う旨が定められています。

もっとも、国家賠償法5条には「他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる」と規定されています。

国家賠償法 第五条
国又は公共団体の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによる。

郵便法68条、73条の規定も国家賠償法の特別法に当たるため、郵便事故の事例ではこちらが優先適用されると考えられます。

ただ、同規定では国の賠償責任を限定しているので、違憲ではないかという問題が生じます。

最高裁に上告されるまでの流れ

第一審は、郵便法68条、73条の規定は、国家賠償法や民法に優先して排他的に適用されると判断しました。そして、これらの規定により国の責任を限定することは憲法17条に違反しないと述べました。

これに対して、Xが控訴しました。

控訴審でも同様の判断がなされて、Xの控訴が棄却されました。

そこで、Xは下記の主張を行い、上告しました。

≪Xの主張≫

  • 郵便法68条、73条の規定が憲法17条に違反している。
  • 郵便業務従事者の故意重過失による場合も郵便法68条、73条を適用することは憲法17条に違反する。

郵便法違憲判決事件最高裁の考え方

かもっち

では、最高裁がどのように考えたのかを見ていきましょう!

「憲法17条」の性格について

「憲法17条」がどのような性格の法律なのかについては、様々な学説が提唱されています。

主な考え方は次の3つです。

  • プログラム規定説:国家無答責原則を否定しているにすぎないとする説。
  • 抽象的権利説:憲法17条は抽象的な権利に過ぎず権利の具体化を立法府に課しているとする説。
  • 具体的権利説:法律の規定がなくても憲法17条を根拠に国に損害賠償請求を求めることができるとする説。

「郵便法違憲判決事件」では、最高裁は上記のいずれの立場であるかは明確にしませんでしたが、次のように述べていました。

・憲法17条が保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利は、法律による具体化が予定されている。
・国又は公共団体が損害賠償責任を負うケースは、立法府の政策判断に委ねられている。

国又は公共団体の損害賠償責任を免除し又は制限することの可否

最高裁は「公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し又は制限することも可能である」としています。

ただ、立法府に無制限の裁量権を認めているわけではなく、是認されるかどうかは次の点を総合的に考慮して判断すべきとしています。

  • 立法目的の正当性
  • 立法目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性

本件へのあてはめ

郵便法68条、73条の規定は、上記の判断枠組みで是認されるのでしょうか?

最高裁は、郵便法の立法目的については、次のように判断しています。

郵便法は「郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進すること」を目的としている。

そして、郵便法68条、73条によって、国の賠償義務を限定することで、料金の値上げなどにつながることを防ぎ、上記目的を達成しようとしているわけで、最高裁もその目的は正当と判断しました。

国の責任を免責又は制限することの合理性及び必要性

では、郵便法の立法目的達成の手段として、68条、73条により、国の責任を免責又は制限することの合理性及び必要性についてはどうでしょうか?

最高裁は「書留郵便物」と「特別送達郵便物」で区別して判断しています。


「書留郵便物」については、郵便業務従事者の「軽過失」による郵便事故であれば、郵便法68条、73条に基づき国の損害賠償責任を免除し又は制限することは、やむを得ないものであり、憲法17条に違反するものではない。と判断しています。

一方、郵便業務従事者の「故意又は重大な過失」による「書留郵便物」の郵便事故についてまで免責又は責任制限を認めることは、合理性があるとは認め難い。と判断しました。

「特別送達郵便物」については、その特殊性に照らすと郵便業務従事者の「軽過失」による郵便事故について、郵便法68条、73条に基づき国の損害賠償責任を免除し又は制限することは合理性、必要性を見出しがたいとしています。

かもっち

最高裁の判断をまとめると、次のようになります。

≪国の損害賠償責任を免除し又は制限することの可否≫

軽過失故意又は重大な過失
書留郵便物×
特別送達郵便物××

よって、郵便業務従事者の「軽過失」による書留郵便物の郵便事故以外のものについて、国の免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであると判断しました。

「郵便法違憲判決事件」最高裁の結論

最高裁は、上記のように郵便法68条、73条について部分無効の判断を下したうえで、原判決を破棄し、高裁に差し戻しました。

なお、最高裁判決の後で、内閣が判示に沿う形で郵便法改正案を国会に提出し、速やかに審議が行われて改正法が可決されました。

現行の郵便法では、次のように規定されています。

郵便法 第五十条(損害賠償の範囲)抜粋
会社は、この法律若しくはこの法律に基づく総務省令の規定又は郵便約款に従つて差し出された郵便物が次の各号のいずれかに該当する場合には、その損害を賠償する。

一 書留とした郵便物の全部又は一部を亡失し、又はき損したとき。
二 引換金を取り立てないで代金引換とした郵便物を交付したとき。

③ 会社は、郵便の業務に従事する者の故意又は重大な過失により、第一項各号に規定する郵便物その他この法律若しくはこの法律に基づく総務省令又は郵便約款の定めるところにより引受け及び配達の記録をする郵便物(次項において「記録郵便物」という。)に係る郵便の役務をその本旨に従つて提供せず、又は提供することができなかつたときは、これによつて生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、その損害の全部又は一部についてこの法律の他の規定により賠償を受けることができるときは、その全部又は一部については、この限りでない。

④ 記録郵便物に係る郵便の役務のうち特別送達の取扱いその他総務省令で定めるものに関する前項の規定の適用については、同項中「重大な過失」とあるのは、「過失」とする。

まとめ

郵便法違憲判決事件では、国の賠償責任を限定する郵便法の規定が憲法17条に違反しており、部分的に無効と判断された事例です。

この判決を受けて郵便法も改正されました。

かもっち

憲法17条の国及び公共団体の賠償責任に関するリーディングケースなのでしっかり押さえておきましょう!

判決文を読んでみよう!

余裕がある方は、判決文の抜粋を掲載しているので、実際の判決文を読んでみよう。判決文全文は、最高裁HPで公開されています。

■憲法17条について

憲法17条は,「何人も,公務員の不法行為により,損害を受けたときは,法律の定めるところにより,国又は公共団体に,その賠償を求めることができる。」と規定し,その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については,法律による具体化を予定している。これは,公務員の行為が権力的な作用に属するものから非権力的な作用に属するものにまで及び,公務員の行為の国民へのかかわり方には種々多様なものがあり得ることから,国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とした上,公務員のどのような行為によりいかなる要件で損害賠償責任を負うかを立法府の政策判断にゆだねたものであって,立法府に無制限の裁量権を付与するといった法律に対する白紙委任を認めているものではない。そして,公務員の不法行為による国又は公共団体の損害賠償責任を免除し,又は制限する法律の規定が同条に適合するものとして是認されるものであるかどうかは,当該行為の態様,これによって侵害される法的利益の種類及び侵害の程度,免責又は責任制限の範囲及び程度等に応じ,当該規定の目的の正当性並びにその目的達成の手段として免責又は責任制限を認めることの合理性及び必要性を総合的に考慮して判断すべきである。

■法68条,73条の目的について

(1) 法68条は,法又は法に基づく総務省令(平成11年法律第160号による郵便法の改正前は,郵政省令。以下同じ。)に従って差し出された郵便物に関して,① 書留とした郵便物の全部又は一部を亡失し,又はき損したとき,② 引換金を取り立てないで代金引換とした郵便物を交付したとき,③ 小包郵便物(書留としたもの及び総務省令で定めるものを除く。)の全部又は一部を亡失し,又はき損したときに限って,一定の金額の範囲内で損害を賠償することとし,法73条は,損害賠償の請求をすることができる者を当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人に限定している。

法68条,73条は,その規定の文言に照らすと,郵便事業を運営する国は,法68条1項各号に列記されている場合に生じた損害を,同条2項に規定する金額の範囲内で,差出人又はその承諾を得た受取人に対して賠償するが,それ以外の場合には,債務不履行責任であると不法行為責任であるとを問わず,一切損害賠償をしないことを規定したものと解することができる。

(2) 法は,「郵便の役務をなるべく安い料金で,あまねく,公平に提供することによって,公共の福祉を増進すること」を目的として制定されたものであり(法1条),法68条,73条が規定する免責又は責任制限もこの目的を達成するために設けられたものであると解される。すなわち,郵便官署は,限られた人員と費用の制約の中で,日々大量に取り扱う郵便物を,送達距離の長短,交通手段の地域差にかかわらず,円滑迅速に,しかも,なるべく安い料金で,あまねく,公平に処理することが要請されているのである。

仮に,その処理の過程で郵便物に生じ得る事故について,すべて民法や国家賠償法の定める原則に従って損害賠償をしなければならないとすれば,それによる金銭負担が多額となる可能性があるだけでなく,千差万別の事故態様,損害について,損害が生じたと主張する者らに個々に対応し,債務不履行又は不法行為に該当する事実や損害額を確定するために,多くの労力と費用を要することにもなるから,その結果,料金の値上げにつながり,上記目的の達成が害されるおそれがある。

したがって,上記目的の下に運営される郵便制度が極めて重要な社会基盤の一つであることを考慮すると,法68条,73条が郵便物に関する損害賠償の対象及び範囲に限定を加えた目的は,正当なものであるということができる。

 ■本件における法68条,73条の合憲性について

(1) 上告人は,上告人を債権者とする債権差押命令を郵便業務従事者が特別送達郵便物として第三債務者へ送達するに際して,これを郵便局内に設置された第三債務者の私書箱に投かんしたために送達が遅れ,その結果,債権差押えの目的を達することができなかったと主張して,被上告人に対し,損害賠償を求めている。

特別送達は,民訴法103条から106条まで及び109条に掲げる方法により送達すべき書類を内容とする通常郵便物について実施する郵便物の特殊取扱いであり,郵政事業庁(平成11年法律第160号による郵便法の改正前は,郵政省。以下同じ。)において,当該郵便物を民訴法の上記規定に従って送達し,その事実を証明するものである(法57条1項,66条)。そして,特別送達の取扱いは,書留とする郵便物についてするものとされている(法57条2項)。

したがって,本件の郵便物については,まず書留郵便物として法68条,73条が適用されることとなるが,上記各条によれば,書留郵便物については,その亡失又はき損につき,差出人又はその承諾を得た受取人が法68条2項に規定する限度での賠償を請求し得るにすぎず,上告人が主張する前記事実関係は,上記各条により国が損害賠償責任を負う場合には当たらない。

(2) 書留は,郵政事業庁において,当該郵便物の引受けから配達に至るまでの記録をし(法58条1項),又は一定の郵便物について当該郵便物の引受け及び配達について記録することにより(同条4項),郵便物が適正な手順に従い確実に配達されるようにした特殊取扱いであり,差出人がこれに対し特別の料金を負担するものである。そして,書留郵便物が適正かつ確実に配達されることに対する信頼は,書留の取扱いを選択した差出人はもとより,書留郵便物の利用に関係を有する者にとっても法的に保護されるべき利益であるということができる。

ところで,上記のような記録をすることが定められている書留郵便物については,通常の職務規範に従って業務執行がされている限り,書留郵便物の亡失,配達遅延等の事故発生の多くは,防止できるであろう。しかし,書留郵便物も大量であり,限られた人員と費用の制約の中で処理されなければならないものであるから,郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づく損害の発生は避けることのできない事柄である。

限られた人員と費用の制約の中で日々大量の郵便物をなるべく安い料金で,あまねく,公平に処理しなければならないという郵便事業の特質は,書留郵便物についても異なるものではないから,法1条に定める目的を達成するため,郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じたにとどまる場合には,法68条,73条に基づき国の損害賠償責任を免除し,又は制限することは,やむを得ないものであり,憲法17条に違反するものではないということができる。

しかしながら,上記のような記録をすることが定められている書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは,通常の職務規範に従って業務執行がされている限り,ごく例外的な場合にとどまるはずであって,このような事態は,書留の制度に対する信頼を著しく損なうものといわなければならない。そうすると,このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し,又は制限しなければ法1条に定める目的を達成することができないとは到底考えられず,郵便業務従事者の故意又は重大な過失による不法行為についてまで免責又は責任制限を認める規定に合理性があるとは認め難い。

なお,運送事業等の遂行に関連して,一定の政策目的を達成するために,事業者の損害賠償責任を軽減している法令は,商法,国際海上物品運送法,鉄道営業法,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律,油濁損害賠償保障法など相当数存在する。

これらの法令は,いずれも,事業者側に故意又は重大な過失ないしこれに準ずる主観的要件が存在する場合には,責任制限の規定が適用されないとしているが,このような法令の定めによって事業の遂行に支障が生じているという事実が指摘されているわけではない。このことからみても,書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,被害者の犠牲において事業者を保護し,その責任を免除し,又は制限しなければ法1条の目的を達成できないとする理由は,見いだし難いといわなければならない。

以上によれば,【要旨1】法68条,73条の規定のうち,書留郵便物について,郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に,不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず,同条に違反し,無効であるというべきである。

(3) 特別送達は,民訴法第1編第5章第3節に定める訴訟法上の送達の実施方法であり(民訴法99条),国民の権利を実現する手続の進行に不可欠なものであるから,特別送達郵便物については,適正な手順に従い確実に受送達者に送達されることが特に強く要請される。そして,特別送達郵便物は,書留郵便物全体のうちのごく一部にとどまることがうかがわれる上に,書留料金に加えた特別の料金が必要とされている。

また,裁判関係の書類についていえば,特別送達郵便物の差出人は送達事務取扱者である裁判所書記官であり(同法98条2項),その適正かつ確実な送達に直接の利害関係を有する訴訟当事者等は自らかかわることのできる他の送付の手段を全く有していないという特殊性がある。さらに,特別送達の対象となる書類については,裁判所書記官(同法100条),執行官(同法99条1項),廷吏(裁判所法63条3項)等が送達を実施することもあるが,その際に過誤が生じ,関係者に損害が生じた場合,それが送達を実施した公務員の軽過失によって生じたものであっても,被害者は,国に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求し得ることになる。

これら特別送達郵便物の特殊性に照らすと,法68条,73条に規定する免責又は責任制限を設けることの根拠である法1条に定める目的自体は前記のとおり正当であるが,特別送達郵便物については,郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって,直ちに,その目的の達成が害されるということはできず,上記各条に規定する免責又は責任制限に合理性,必要性があるということは困難であり,そのような免責又は責任制限の規定を設けたことは,憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわなければならない。

そうすると,【要旨2】(2)に説示したところに加え,法68条,73条の規定のうち,特別送達郵便物について郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に,国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は,憲法17条に違反し,無効であるというべきである。

■結論

原判決は,法68条,73条の規定は憲法17条に違反せず,上告人が請求原因として主張する事実関係自体が法68条,73条に規定する国が損害賠償責任を負う場合に当たらないことを理由に,本件の事実関係についての審理を尽くすことなく,上告人の請求を棄却すべきものとした。

しかしながら,前記のとおり,上記各条の規定のうち,特別送達郵便物について,郵便業務従事者の故意又は過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に,国の損害賠償責任を免除し,又は制限している部分は違憲無効であるから,上記各条の存在を理由に上告人の請求を棄却すべきものとした原審の判断は,憲法17条の解釈を誤ったものである。論旨はその趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。

参考文献

憲法判例百選2 有斐閣

判決文は最高裁サイトより引用しています

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