無令状捜索差押えの論述のポイントと重要判例解説 刑訴#4

『逮捕に伴う無令状捜索差押の論述の仕方が分からない』

『逮捕に伴う無令状捜索差押の重要判例は?』

『最低限押さえておくべき論述のポイントを知りたい』

 無令状捜索・差押えは、捜査分野の中でも特に難解なテーマの一つであり、苦手とされている方も少なくありません。しかし、司法試験・予備試験において頻出のテーマであり、今後も出題が予想されます。

 そこで、今回は無令状捜索・差押えの重要判例と論述ポイントについて述べていきます。

法書ログでは、重要判例・論点解説記事を公開しています。

直近では、「職務質問・所持品検査の重要判例と論述のポイント」や「強制処分該当性の論述のポイント」等の記事を公開しています。あわせてお読みください。

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逮捕に伴う無令状捜索差押の考え方・学説

 令状主義の立場から、原則として捜索・差押えを行うには令状を必要とします。しかし、法は令状主義の例外として、令状を必要としない捜索・差押えを規定しています。

 それが、いわゆる逮捕に伴う捜索・差押え(刑訴法220条参照)です。

無令状にかかわらず、捜索・差押えが認められている趣旨は、考え方が多岐にわたりますが、まず理解しておかなければいけない説が二つあります。

一つ目が、一般的に逮捕の現場には、被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高いことのみを根拠とする「相当説」です。

そして二つ目が、相当説の根拠に加えて、被逮捕者によって被疑事実に関連する証拠が破壊・隠滅されることを防止し、証拠保全を図ることを根拠とする「緊急処分説」です。

上にあげた二つの説は必須知識であり、自分なりに基本書等で調べて、理解を深めておきましょう。

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司法試験にも出題されている必須知識です!

逮捕に伴う無令状捜索差押の重要判例解説

続いて逮捕に伴う無令状捜索差押の重要判例を見ていきましょう。

いずれも重要判例ですから司法試験の受験生は必ず押さえなければならない判例です。

無令状捜索差押の重要判例①「最判昭和36年6月7日」

麻薬取締官らが、麻薬を譲渡した疑いでXを緊急逮捕するためX方に赴いたが、Xが不在であったため、在宅中のXの娘であるYに承諾を得て、捜索・差押えをし、捜索終了間際に帰宅したXを逮捕した事案。

判旨①:「逮捕する場合において」と…は、単なる時点より幅のある逮捕する際をいうのであり、…逮捕との時間的接着を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は、これを問わないというものと解すべきであ(る)。

判旨②:被疑者がたまたま他出不在であっても、帰宅次第緊急逮捕する態勢の下に捜索、差押がなされ、且つ、これと時間的に接着して逮捕がなされる限り、その捜索、差押は、なお、緊急逮捕する場合その現場でなされたとするのを妨げ(ない)。

法は、無令状捜索差押えを、「逮捕する場合において」認めており、一定の時間的限界を設けています。本判決は、その時間的限界を明らかにしています。

 そして、「逮捕する場合において」とは、逮捕時点ではなく、一定の幅を認める逮捕をする際をいうと判示しており、緩やかに判断しているといえます。

 また、逮捕着手時の前後関係は問わないとしており、必ずしも捜索差押えの際に、逮捕に着手している必要はないと判示しています。

 これらの判旨から、判例は、緊急処分説(相当説の根拠に加え、証拠が破壊・隠滅されることを防止し、証拠保全を図ることを根拠とする見解)ではなく、相当説(逮捕の現場には、被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高いことのみを根拠とする見解)によっていると言えるでしょう。

 しかし、この判決には、捜索終了前にXが帰宅するか否かという偶然事情によって、その捜索・差押えの適法か否かが左右されるのは不当であるとの批判があることに留意しましょう。

 類似の問題が出題された場合には、まず自分の見解を明示したうえで、上述の批判があることを理解していると採点者が分かるような記述を心掛けましょう。

無令状捜索差押の重要判例②「最決平成8年1月19日」

本判決は、無令状捜索差押えについての最重要判例の一つです。事実関係、判旨の深い理解を心掛けましょう。

警察官は、凶器準備集合及び傷害の準現行犯人としてX・Y・Zを逮捕した。

警察官は、Xを逮捕した際に、Xが腕に籠手を装着していたことを現認していたが、逮捕場所が店舗裏搬入口付近であったこと、Xが抵抗してさらに混乱を生じるおそれがあることから、逮捕場所から約500m離れた警察署に連行し、約5分をかけて到着後、籠手を差し押さえた。

また、Yらについても、警察官は逮捕時にバッグ等を所持していたことを現認していたが、逮捕場所が道幅の狭い道路上であり、また、逮捕場所でバッグ等を取り上げようとしたところ、Yらの抵抗があったことから、警察車両にYらを乗せて逮捕場所から約3km離れた警察署に連行し、逮捕時点から約1時間後に、差し押さえた事案。

判旨①:刑訴法220条1項2号によれば、搜査官は被疑者を逮捕する場合において必要があるときは逮捕の現場で捜索、差押え等の処分をすることができるところ、右の処分が逮捕した被疑者の身体又は所持品に対する捜索、差押えである場合においては、逮捕現場付近の状況に照らし、被疑者の名誉等を害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるおそれがあるといった事情のため、その場で直ちに捜索、差押えを実施することが適当でないときには、速やかに被疑者を捜索、差押えの実施に適する最寄りの場所まで連行した上、これらの処分を実施することも、同号にいう「逮捕の現場」における捜索、差押えと同視することができ、適法な処分と解するのが相当である。

判旨②(あてはめ):本件の事実関係の下では、被告人3名に対する各差押えの手続は、いずれも、逮捕の場で直ちにその実施をすることが適当でなかったため、できる限り速やかに各被告人をその差押えを実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で行われたものということができ、刑訴法220条1項2号にいう「逮捕の現場」における差押えと同視することができる…。

本判決は、X・Y・Zそれぞれに対する差押えについての適法性について判示したものです。

Xらは、準現行犯逮捕されており、本件差押えは、逮捕に伴う差押えとして扱われます。

しかし、Xに対する差押え、Yらに対する差押えともに、逮捕場所とは異なる場で行われ

います。そこで、各差押えが、「逮捕の現場」でなされたといえるか問題となります。

この点について本判決は、逮捕現場で直ちに捜索差押えをすることが、適当でない場合には、速やかに被疑者を実施に適する最寄りの場所まで連行した上、処分を実施することも、逮捕の現場における捜索差押えと同視することが出来ると判示しています。

ここでのポイントは、逮捕現場での捜索差押えが適当でない場合であれば、どのような連行後の差押えについても許容されるというわけではないということです。つまり、本判決は、「速やかに」、「実施に適する」、「最寄りの場所」といった、限定付けをしており、行われた差押えの適法性を判断するに際しては、上に挙げられたポイントに注目する必要があります。

また、「同視」することができると判示するのみで、通常の無令状捜索差押えとは一線を画すと評価していることについても留意が必要です。

無令状捜索差押の論述のポイント

つづいて判例を踏まえて無令状捜索差押の論述のポイントを解説させていただきます。

論述のポイント①「条文の適示を忘れずに」

無令状捜索差押えに限られたポイントではないですが、特に無令状捜索差押えでは注意が必要です。

いわゆる時間的範囲、場所的範囲が問われている場合についても、前者では「逮捕する場合」、後者では「逮捕の現場」との条文の引用を忘れないようにしましょう。

また、細かい条文(刑訴法102条2項等)についても、令状に基づく捜索差押えの場合と同様、検討を忘れずにしましょう。

論述のポイント②「自己の立場を明確に」

近年の司法試験では、判例の立場にとどまらず学説等も問われます。逮捕に伴う捜索差押えでは、上述の通り、相当説や緊急処分説等、学説が多岐にわたります。

まずは、判例の立場をしっかりと理解したうえで、余裕ができたら他説の学習に進みましょう。

そして、異なる見解がある場合には、自分がどの見解に立ち、なぜその立場をとるのかを簡潔に述べる必要があります。

この際、規範部分の論述に満足するのではなく、自己の立場から検討した場合に、本件事案ではどのような論理過程を経て結論が導き出されることとなるのか、明瞭に示す必要があることに気を付けましょう。特に、設問に事実が多い司法試験では注意が必要です。 

論述のポイント③「学説の対立を過信しない」 

逮捕に伴う捜索差押えでは、相当説と緊急処分説の違いについて理解しておく必要があることは既に述べたとおりです。

しかし、どちらの立場に立つか否かで、自動的に適切な結論が導き出されるわけではありません。

例えば、緊急処分説に立つ論者であっても、「逮捕する場合」や「逮捕の現場」の解釈が相当説と類似の評価している方もいます(例えば修正された緊急処分説等)。

設問に対して、自己の見解が導く結論が不当な結論になる場合があります。そのような場合に重要になるのが、応用力や修正力です。

このような応用力等を身に着けるには、基礎を完璧にしたうえで、司法試験等の応用的な問題を解く必要があります。その際に重要なのが、わからない場合にすぐ調べるのではなく、自分なりに考えることです。そうすることで、自ずとこのような力が鍛えられます。

さいごに

本稿では、無令状捜索差押えの重要判例と論述のポイントについて述べてきました。特に本テーマは、刑事訴訟法の中でも学説が多岐にわたり、難しい論点です。

そこで、本稿を読むことで、まずは基礎を固め、しっかりとした土台作りをしましょう。

本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

◆参考文献

酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)。

・斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社、2019)。

・松田岳士「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』54-55頁(有斐閣、2017)。

  

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