強制処分と任意処分の重要判例3選解説と論述のポイント【刑訴#1】

『強制処分の重要判例を知りたい』

『強制処分と任意処分の区別の論じ方ポイントがわからない』

『GPS判決の論述のポイントは?』

かもっち

今回は、刑事訴訟法の重要テーマである「強制処分(強制捜査)」について解説させていただきます。

あひるっぺ

刑事訴訟法の最重要テーマだね!

かもっち

今回は強制処分に関する必ずおさえておきたい重要判例3件と論述のポイントを解説するぞ!

司法試験・予備試験では、毎年のように「捜査分野」からの出題があり、その多くが「強制捜査」からの出題です。

本記事では、捜査分野の中でも特に強制捜査に着目し、その重要判例及び論述のポイントを解説していきます。

記事の公判では、実践的な論証例も紹介しています!

法書ログでは、刑事訴訟法の重要判例・論点解説記事として「高輪グリーンマンション殺人事件の解説記事」も公開していますので、あわせてご確認ください。

強制捜査とは?

強制捜査
強制の処分」(刑訴法197条1項ただし書)を用いる捜査をいい、それ以外の捜査を任意捜査のこと

「強制の処分」は、刑事訴訟法に特別の根拠規定がなければ行うことができず(強制処分法定主義)、原則として、裁判官が事前審査をしたうえで発付する令状が必要とされます(令状主義)。

問題となる捜査が任意捜査か強制捜査か否かはその適法性の考え方に大きく影響を及ぼすため、司法試験・予備試験の合格のためには、強制捜査の理解が特に重要になります。

【主義の解説
強制処分法定主義:行政機関や法執行機関が個人や法人に対して処分を行う際は法律に明確に基づいて行動しなければならないという原則
これは、行政機関や法執行機関が個人や法人に対して処分を行う際に、法律に明確に基づいて行動しなければならないという原則です。法律に明文化されていない場合、行政の裁量で処分を行うことはできません。
令状主義:捜査や逮捕などの行動を行う際に、裁判所からの令状が必要であるという原則
これは、警察や捜査機関が個人の私生活に干渉する際に、合法的な権限を持っていることを確保するための原則です。令状は裁判官から発行され、特定の条件や理由に基づいて行動が許可されます。

必ず押さえておきたい強制処分の重要判例

重要判例を十分に理解にすることで、学説への理解もより深まります

近年の司法試験では、条文や判例の他に学説も問われる傾向にありますが、そのような傾向を考慮しても、いまだに学説より条文や判例が重要なことに変わりはありません。

そこで、今回は強制捜査の中でも特に重要な判例を解説していきます。

重要判例①取調べ時に逃げ去ることを懸念し制止した事案

事案

機動警察隊が、道路交通法違反者の逃亡を懸念し、制止した(最高裁昭和51年3月16日第三小法廷決定)

重要判旨

ここにいう強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する…

重要判例の中でも特に理解して頂きたい判例が昭和51年判決です。本件判決はどのような捜査が強制捜査にあたるのか、その考え方を示した」ため重要です。

解説

本判決は、まず、有形力の行使を伴う捜査の全てが強制捜査に該当するわけでないということを述べています。

そして、「強制捜査かどうか」の判断には、①個人の意思を抑圧し②身体、住居、財産等に制約を加える行為か否かが大きな注目点になることが述べられています

後に述べますが、ここでは相手方の意思の制約及び利益の制約等に着目しており、その必要性・緊急性等は一切考慮していないことに注意してください。

重要判例②承諾なしにエックス線で荷物を確認した事案

事案

捜査機関が、荷送人や荷受人の承諾がないのに、運送中の荷物にエックス線を照射して、内容物を確認した(最高裁平成21年9月28日第三小法廷決定)

重要判旨

本件エックス線検査は、荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が、捜査目的を達成するため、荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが、その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。

本件判決では「強制処分に当たるかはプライバシー侵害の程度が重要になっている」ことを示したため重要な判例です。

解説

エックス線検査によって、荷物の内容物を相当程度具体的に特定することが出来ることから、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシーを大きく侵害するとして、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと判断しました。

一審及び原審は、エックス線検査によって内容物が具体的にどのようなものであるかを特定することは到底不可能であるとして、強制処分ではないと判断していたことから、処分がプライバシーを侵害する側面があるとしても、その侵害がどの程度のものなのかが特に重要になっていると言えるでしょう。

なお、強制処分である検証といえる程度の捜査手段が行われたのかを問題とするので、実際にどのような侵害結果が生じたのかは問題となりません。

重要判例③許可や令状なく車にGPSを装着し情報を取得した事案

事案

捜査機関が、集団窃盗犯事犯において、その対象者の許可を得ず、令状なく車にGPS機器を装着し、その移動情報を取得した(最高裁平成29年3月15日大法廷判決)

重要判旨

重要判旨①
GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。

重要判旨②
憲法35条は、「住居,書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。

重要判旨③
合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる

本判決は「今まで議論がなされていたGPS捜査について判断を下した」ため重要な判例です。その判決文の重要部分について抜粋しました。以下、解説していきます。

解説

判旨①
GPS捜査の特殊性について述べています。
確かに、公道上を移動する車両にGPS装置を装着しても、その移動情報は公道上つまり、プライバシー保護に対する期待の程度が薄弱な性質のものにとどまり、強制処分に当たる程度のものとは言えないとも思えます。

GPS捜査は、その移動情報を網羅的、継続的に把握することで、「個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるもの」についての情報も取得することが出来ます。この様な捜査の特殊性に鑑みて、GPS捜査が制約する相手方の利益が重要なものではないとの異論を否定していると言えるでしょう。

判旨②
憲法35条の保障対象について述べています。
ここでは、「憲法35条の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる」としており、その対象範囲を、憲法の文言上のものに限定せず、それらに準ずる私的領域にまで拡大していることに着目するべきでしょう。

ここでは「これらに準ずる」としており、ある程度限定付けされていることに注意する必要があります。

判旨③
GPS捜査の様に相手方の明示的な反対意思がない場合にも、意思の抑圧が認められることについて述べています。ここでは、「合理的に推認される個人の意思に反して」いる場合には、相手方の明示的な意思の抑圧がなくとも、その意思が侵害されているという点においては、価値的には何ら変わらないという考えから、このような判断がなされたといえます

まとめますと、本事案では「GPS捜査は、個人の意思に反してプライバシーが侵害されてしまう捜査手法であるため、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制処分に当たる」とされました。

強制捜査関連重要判例のまとめ

強制処分と任意処分の区別の論じ方

司法試験等を解くうえ「対象捜査が強制捜査か任意捜査かを区別する能力」は必須です。

対象捜査が強制捜査か任意捜査かを区別する際に用いる「規範」については、自身が書きやすい基準を使用すればよいです。
最判51年判決の基準を用いるのか、その他学説を用いるのか、という点は試験の採点において差が出るポイントではないからです。

試験で得点するために大切なことは「あてはめ」です。「あてはめ」とは、法律の条文や規則を特定の事実状況に適用することを言います。多くの答案はここで他の受験生と差がつきます。問題文の情報をどのように用い、どのように評価するかが、得点のための大きな鍵になっているといえるでしょう。

以下、強制処分についてあてはめをする際のポイントを述べていきます。

強制処分についてあてはめをする際のポイント

ポイント①必要性、緊急性は考慮してはならない

強制処分に該当するか否かを検討するに際して、初学者の方がよく間違えやすいところが、必要性、緊急性を考慮してしまうというものです。

というのも、強制処分に該当するか否かは、類型的に判断されるもので、その事例における必要性、緊急性は一切考慮してはいけないのです。

この点を、司法試験等で守らないと大きく減点されると思われるので、よく注意しましょう。

ポイント②侵害利益、侵害の程度は明確に

侵害された利益をまず考えた上で、その侵害の程度を考えていくというのが書きやすい手順だと個人的に考えていますが、その侵害された利益を漠然と挙げるだけでなく、明確に上ることが重要です。例えば、単にプライバシー権とするだけでなく、そのケースにおけるどのような利益、権利の侵害があるのかを述べる必要があります。

そして、侵害の程度についても、単に侵害や制約があるとするのではなく、その程度が軽いのか重いのか、その問題に記載されている事実を用い、その事実に評価を加えることで、答案に説得力が出てくるでしょう。

ポイント③強制処分法定主義と令状主義の違いを理解する

本件捜査が強制処分に該当するとしても、なぜ違法になるのかを明確に述べる必要があります。

具体的には、令状がない強制処分を行った場合は、上述の通り、令状主義違反と強制処分法定主義違反が考えられます。受験生の中でも、この二つの違いを明確に理解していない人が少なくありません。

強制処分に該当するとの結論に満足し油断するのではなく、その適法違法の理由を最後まで詳細に述べましょう。

小括(記事はまだまだ続きます)

本記事では、強制処分について、その重要判例と論述のポイントを述べてきました。今回は、特に重要な強制処分と任意処分との区別について熱く論じましたが、この部分の深い理解なしに、他の強制処分、任意処分についての理解は難しいと思います。

そこで、今回挙げた重要判例及び論述ポイントの理解を深めて、刑事訴訟法の勉強を進めましょう。

本記事が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

参考文献

・酒巻匡『刑事訴訟法〔第2版〕』(2020)有斐閣

・安村勉「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』63頁(2017)有斐閣

・斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(2019)日本評論社

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