訴因変更の要否の重要判例と論述のポイント

『訴因変更の要否の論述の仕方が分からない』

『訴因変更の要否の重要判例は?』

『最低限押さえておくべき論述のポイントを知りたい』

訴因変更の要否は、司法試験・予備試験において頻出のテーマですが、難解なテーマの一つであり、理解が難しいです。

しかし、本稿で解説する平成13年判決をしっかりと理解しポイントを押さえれば、得意なテーマにできます。

そこで、今回は訴因変更の要否の重要判例と論述ポイントについて解説していきます。

法書ログでは、重要判例・論点解説記事を公開しています。

直近では、「職務質問・所持品検査の重要判例と論述のポイント」、「強制処分該当性の論述のポイント」、「無令状捜索差押の重要判例と論述のポイント」等の記事を公開しています。あわせてお読みください。

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訴因変更の要否とは

刑事訴訟法において、訴因に関する問題は、訴因の特定、訴因変更の可否、訴因変更の要否など多岐にわたります。そこで、まず初めに訴因変更の要否とはどのような問題なのか説明します。

訴因変更の要否とは、裁判所が認定しようとしている事実と、検察官が主張している訴因との間にずれがある場合に、どの程度の食い違いであれば、訴因を変更することなく、訴因と異なる事実を認定してよいかという問題です。

訴因とは、検察官が主張する犯罪構成要件に該当する具体的犯罪事実をいうところ、裁判所の審判対象は訴因に限定されるので(訴因対象説)、検察官が主張する事実と裁判所が認定する事実との間に実質的ないし重要な差異が生じれば、原則として訴因変更が必要と解されます(事実記載説)(酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)295-296頁参照)。

よって、訴因変更の要否の問題を考えるにあたっては、ここにいう実質的・重要な差異とは具体的にどのような場合を指すのかを示す必要があります。

訴因の定義や事実記載説については、基本知識ですので、しっかりと押さえておきましょう。

訴因変更の要否の重要判例「最高裁平成13年4月11日第三小法廷決定」

被告人Xは、Yと共謀して、Aを殺害し、死体を遺棄したとして起訴された。殺人事件に関して、検察官は訴因を「Xは、Yと共謀の上、Xが、Aの頸部を絞めつけるなどして、殺害した」旨の内容に変更した。

第1審は、訴因変更の手続を経ることなく、「Xは、Yと共謀の上、Y又はXあるいはその両名において、扼殺、絞殺又はこれに類する方法でAを殺害した」旨の事実を認定した。

X側が訴訟手続の法令違反を理由に控訴するが棄却。これに対してX側が上告した。

判旨①:「実行行為者につき第1審判決が訴因変更手続を経ずに訴因と異なる認定をしたことに違法はないかについて検討する。訴因と認定事実とを対比すると、前記のとおり、犯行の態様と結果に実質的な差異がない上、共謀をした共犯者の範囲にも変わりはなく、そのうちのだれが実行行為者であるかという点が異なるのみである。」

「そもそも、殺人罪の共同正犯の訴因としては、その実行行為者がだれであるかが明示されていないからといって、それだけで直ちに訴因の記載として罪となるべき事実の特定に欠けるものとはいえないと考えられるから、訴因において実行行為者が明示された場合にそれと異なる認定をするとしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更が必要となるとはいえないものと解される。」

判旨②:「とはいえ、実行行為者がだれであるかは、一般的に、被告人の防御にとって重要な事項であるから、当該訴因の成否について争いがある場合等においては、争点の明確化な どのため、検察官において実行行為者を明示するのが望ましいということができ、検察官が訴因においてその実行行為者の明示をした以上、判決においてそれと実質的に異なる認定をするには、原則として、訴因変更手続を要するものと解するのが相当である。」

判旨③:「しかしながら、実行行為者の明示は、前記のとおり訴因の記載として不可欠な事項ではないから、少なくとも、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし、被告人に不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、判決で認定される事実が訴因に記載された事実と比べて被告人にとってより不利益であるとはいえない場合には、例外的に、訴因変更手続を経ることなく訴因と異なる実行行為者を認定することも違法ではないものと解すべきである。」

平成13年判決は、訴因変更の要否の基準について、判断枠組みを示した重要判決です。この判断枠組みをしっかりと押さえましょう。

まず、判旨①は、殺人罪の共同正犯の訴因としては、実行行為者が誰であるか否かは、罪となるべき事実の特定に必要不可欠な要素ではなく、訴因と異なる認定をしても、審判対象の画定という見地からは、訴因変更は必要ないとしています。

ここでは、被告人の防御上の観点からではなく、審判対象の画定の見地から判断がなされていることが読み取れます。

訴因の記載には、罪となるべき事実に不可欠な事項とそれ以外の事項が存在するところ、前者にずれが生じれば、被告人の防御の観点とは関係なく、訴因変更が必要であるとする基準です。

また、判旨②では、判旨①とは異なり、被告人の防御上の観点から、訴因変更が必要な場合について述べています。

この点は、対象とされた事実が、審判対象の画定の見地から必要不可欠のものでないとしても、被告人の防御上の観点から重要な事項である場合には、訴因変更なく当該事実を認めることは、被告人側に不意打ちであり、防御上の著しい不利益を被るといえるから、この場合にも訴因変更を要するという趣旨といえるでしょう。

そして、判旨③では、判旨②の基準が当てはまらない場合を述べています。

つまり、判旨②による基準では、訴因変更を要する場合であっても、本来は訴因の記載に必要不可欠ではない事実であることに鑑み、被告人の防御上の観点から、不意打ちを与えるものではないと認められ、かつ、被告人に不利益でない場合には訴因変更を要しないとしています。 

判旨③では、被告人の防御上の観点を具体的に検討しているところがポイントです。

平成13年判決は、このように重要部分を分けた上で、段階的に考えると理解が深まります。

訴因変更の要否の論述のポイント4選

つづいて訴因変更の要否の論述ポイント4選を紹介させていただきます。

論述のポイント①判例の理解を深める

訴因変更の要否については、具体的防禦説や抽象的防禦説など学説の説明も同時になされることが多々あります。

しかし、平成13年判決という訴因変更の要否における最重要判例が存在する以上、学説の対立などの理解に時間を割くより、判例の理解を深める方が試験対策には得策と言えるでしょう。

本記事が挙げている重要な判旨部分を理解したうえで、充実したあてはめができれば高評価が十分狙えるはずです。

論述のポイント②問題提起をしっかりと

公判分野における訴因の論点は多岐にわたります。

そこで、問われている論点が訴因変更の要否であることをしっかりと示す必要があります。そうすることで、複雑な訴因の論点についても、何を書けばいいのか自分でも自覚できますし、採点者に好印象を与えることもできます。

また、この際に条文の引用も忘れないようにしましょう。

論述のポイント③規範部分で満足しない

ほとんどの論点においては、規範部分で他の受験者と差はつかず、そのあてはめで差が付きます。これは、訴因変更の要否のような、メジャーな論点だと特に顕著です。

そこで、規範を完璧に暗記するのは当然のこと、その規範部分を理解したうえで、その理解していることを採点者に伝わるようなあてはめをすることが必要不可欠です。

訴因変更の要否についていえば、罪となるべき事実の特定に必要不可欠なものとは具体的にどのようなものをいうのかを(判旨①参照)、時には刑法の知識を用いて説得的に論じる必要があります。

また、被告人に不意打ちではなく、かつ、不利益ではない場合を論じる場合には(判旨③参照)、被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らして論じる必要があり、当該事案では、どのような審理経過を経ているのかを厚く論じる必要があります。

論述のポイント④縮小認定について

少し発展的なテーマとなりますが、いわゆる縮小認定にあたる場合については、訴因変更は必要ないと解されています。

この場合についても、訴因変更の要否の問題と関係していることには変わりはないのですが、縮小認定の場合には、平成13年判決の考え方と異なることに注意が必要です。

つまり、訴因変更は、訴因に記載されている事実と実質的に異なる事実を認定する場合に問題となるところ、縮小認定の場合には、検察官が黙示的・予備的に主張していたといえる事実を認定しているので、異なる事実の認定とはいえず、通常の訴因変更の要否の問題とは異なります。

縮小認定について論述する際には、自分がどのような立場から検討しているのか、特に注意が必要です。

おわりに

今回は、訴因変更の要否の重要判例と論述のポイントについて述べてきました。

まずは重要判例を完璧にして、しっかりとした土台作りをしましょう。

酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)。

上田信太朗「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』102-103頁(有斐閣、2017)。

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