職務質問・所持品検査の重要判例と論述のポイント 刑訴#3

『職務質問の重要判例と論述のポイントは?』

『所持品検査の重要判例と論述のポイントは?』

『職務質問、所持品検査の理解のポイントが知りたい』

職務質問及び所持品検査は、司法試験・予備試験ともに頻出のテーマですが、受験生の方の理解が薄い部分でもあります。

そこで今回は、職務質問及び所持品検査についての重要判例と論述ポイントを説明していきます。

法書ログでは、重要判例・論点解説記事を公開しています。

直近では「強制処分該当性の論述ポイント」について解説をしています。あわせて参考にしてください。

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職務質問・所持品検査の重要判例

それでは、職務質問・所持品検査の重要判例を解説させていただきます。

まずは、最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定の理解のポイントについて解説いたします。

重要判例①被告人を現場に6時間半以上留まらせた事案(職務質問)

事案

警察官が、覚せい剤使用の疑いがある被告人に職務質問を行ったが、被告人がその最中落ち着きがなく車のハンドルを切るなどの動作をしたため、被告人の車の窓から手を入れ、エンジンキーを引き抜いて取り上げたりするなどして、現場に6時間半以上留まらせた(最高裁平成6年9月16日第三小法廷決定)

判旨

「職務質問を開始した当時、被告人には覚せい剤使用の嫌疑があったほか、幻覚の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、前記の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、警察官職務執行法二条一項に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為である…」

「これに対し、その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が被告人による運転を阻止し、約六時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。」

解説

警察官は、職務質問の際に有形力を行使することを認められていますが、その行為は強制処分にあたる行為であってはなりません(警職法2条3項)。強制処分該当性の判断において、その必要性や緊急性は考慮要素とはならないので、判旨が必要性等を考慮していることから、エンジンキーを引き抜く行為及び被告人を6時間半留めさせた行為は強制処分には該当しないと判断していることが分かります。

そのうえで、警職法1条2項は、職務質問においても比例原則を定めていることから、本件事案において警察官の行為が相当であったのかを検討しています。

警察官の行為が被告人のどのような自由を侵害していて、その行為の必要性や緊急性が本件事案ではどのような事情があったのかを理解しておく必要があります。本件では、幻覚の存在や、認識能力の低下、積雪があったこと、それに伴う周囲への危険が挙げられるでしょう。

重要判例②承諾なく所持品を確認した事例(所持品検査)

事案

警察官が承諾なく、職務質問の対象者が所持していたボウリングバッグのチャックを開けた。引き続いて、同人が所持するアタッシェケースをドライバーでこじ開け、一瞥した(最高裁昭和53年6月20日第三小法廷判決)

判旨

①「警職法は…所持品の検査については明文の規定を設けていないが、 所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。」

②「所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。」

③「しかしながら、…所持人の承諾のない限り所持品検査は一 切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。」

④「捜索に至らない程度の行為であつても…所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。」

(以上、丸数字は筆者)

解説

昭和53年判決は、いわゆる所持品検査について述べたものであり、最重要判決の一つです。そのため、判決文の暗記のみならず、深く理解しておく必要があります。

警職法2条は、職務質問については定めているものの、職務質問の際にしばしば行われる、対象者が所持する物の点検については定めていません。いかなる必要性や緊急性が認められようとも、法的根拠が必要です。

この点について、本判決は、所持品検査は職務質問に「付随」して行うことできるとし、法的根拠を示しています(①部分)。

また、任意手段である職務質問の「付随行為」として許容されるのであるから、所持人の承諾を得ることが原則であるとして、原則として承諾が必要であることを示しました。原則論をまずここでおさえましょう(②部分)。

そして、行政警察活動等の趣旨に鑑み、承諾がない場合でも、「捜索に至らない程度の行為は」「強制にわたらない限り」許容される場合があるとし、例外があることも示しています(③部分)。

例外ケースに当てはまる場合であっても、必要性・緊急性等に鑑み、相当性が認められる限度においてのみ許容されるとし、例外ケースに絞りをかけています(④部分)。

司法試験・予備試験で所持品検査が出題された場合には、本判決と同じ思考プロセスを踏みましょう。

本判決と同じ思考プロセス

第一に、所持品検査は職務質問の付随行為として許容される旨を示す

第二に、所持品検査は原則として承諾が必要である旨を示す
(その上で本件では承諾がない等としたうえで)

第三に、例外ケースに当てはまるかを検討
(捜索にあたらないか、強制にわたらないといえるか等と検討)

最後に、例外にあてはまるとしても、本件では相当性が認められるかを検討

以上のようなプロセスを踏めば、問題文の事実も整理して評価することが可能です。

職務質問の論述のポイント

職務質問の論述のポイントを解説させていただきます。

論述はまず「条文の指摘」から出発する

条文から出発することは、職務質問に限られたことではなく、司法試験一般にいえることですが、職務質問の根拠条文は刑事訴訟法には存在せず、警察官職務執行法にあります。そのため、しっかりと警職法2条1項等を指摘したうえで、論述するように日頃から注意する必要があります。

問題文にある事実を適切に評価する

「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」(警職法2条1項)という条文を適示したうえで、問題文に記載されている事実を適切に評価することが肝要です。その際には、対象者の服装、態度、携行品等や、職務質問を行う時間、場所、状況等に着目しましょう。

所持品検査を論じる時は職務質問についても論じる

所持品検査が職務質問に付随するものである以上、所持品検査を論じる際には、まず職務質問について論じる必要があることに注意しましょう。

所持品検査の論述のポイント

次に、所持品検査の論述のポイントを解説させていただきます。

過去の重要判決を理解しておく

論述する際には、過去にあった重要判例を理解し、論述の際には同様の判断プロセスを踏む必要があります。

所持品検査については、今回ご紹介した「昭和53年判決(重要判例②)」という重要判例があります。そのため、しっかりと、この重要判例を理解し、論述の際に同様の判断プロセスを踏む必要があります。

本判決がどのような事実をどのように評価したうえで結論を導き出しているのかに注目し、判決文を読むことが有益です。余裕がある方は、事案まで読み込むと良いでしょう。

所持品検査のパターンを見定め評価する

所持品検査にはいくらかの種類があるので、論述ではその態様を指摘し、評価する必要があります。

警察官が対象者にその内容物を聞く場合や、所持品を外から触れる場合、所持品の中に手を入れて内容を確認する場合等いろいろなパターンが考えられます。

所持品検査にはいくらかの種類があることを念頭に置いたうえで、事案における所持品検査がどの態様のものかを指摘し、評価しましょう。

例えば、警察官が手を入れて確認するといっても、カバンに手を入れるのか、ポケットに手を入れるのか、下着の中に手を入れるのかでは、対象者の利益侵害という点からみても、評価が大きく異なってくるでしょう。

所持品検査における相当性を検討する

様々な状況を考慮し、許容される所持品検査かどうか、相当性の検討を行わなければなりません。

所持品検査について、昭和53年判決(重要判例②)で、以下のような指摘がありました。

「捜索に至らない程度の行為であつても…所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。」

所持品検査の許容される場合の考慮事項を挙げています。しかし、ここで挙げられている必要性や緊急性等は単に機械的に検討すればよいというわけではありません。

警職法1条2項が規定するように、手段は「目的のために必要な最小の限度において用いる」必要があるため、まずは、検討対象である所持品検査の目的を具体的に設定したうえで、その目的の手段として必要最小限度の行為であったかを検討する必要があります(斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』44-48頁参照(日本評論社、2019))。

おわりに

今回は、職務質問・所持品検査についての重要判例と論証のポイントについて解説しました。

本テーマは、手薄にしている方が意外と少なくありません。しかし、今後、司法試験・予備試験に出題される可能性は大いにあります。本稿を読み、基礎をしっかりと固めましょう。

本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

<参考文献>

酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)

斎藤司『刑事訴訟法の思考プロセス』(日本評論社、2019)

長沼範良「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』10-11頁(有斐閣、2017)

「職務質問・所持品検査の重要判例と論述のポイント 刑訴#3」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 無令状捜索差押えの論述のポイントと重要判例解説 刑訴#4 – 法書ログ

  2. ピンバック: 訴因変更の要否の重要判例と論述のポイント – 法書ログ

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