法書ログライター様執筆記事です。
会社法106条は、準共有状態にある株式の権利行使についての規定です。同条には、本文とただし書の解釈における重要判例がそれぞれ存在し、また、事例問題として問われた場合での処理に苦手意識を持つ方も多いと思います。
さらに、令和3年の民法改正が同条の適用に影響を与えるとも指摘され注目を集めている上、令和5年度司法試験民事系第2問設問1小問2において出題されているほど、重要な規定です。
司法試験でも出題されているんですね!
事例問題では106条の適用場面として、原告適格の検討と、請求の当否の判断における議決権行使の適法性の検討が求められるケースが少なくありません。
このような適用場面をイメージして以下の解説を見ていきましょう。
目次
会社法106条本文の解説
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(共有者による権利の行使)
第106条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社法106条本文の趣旨
同条本文の趣旨は、権利行使者だけによる株主として権利の行使を可能にすることによって、共有者各自が個別に権利行使することによる共有者・会社間の混乱を回避するという、会社の事務処理上の便宜を図る点にあります(準共有者による一体的な権利行使の確保、準共有者間の内部関係の不明確性からの会社の保護)。
以下に見ていく判例において、「会社の事務処理上の便宜」の内実は、このことを意味します。
会社法106条本文の構造
株式は「所有権以外の財産権」であるので(民法264条本文)、被相続人が有していた株式は、共同相続によって相続人の準共有に属します(民法264条、898条)。
準共有に属する権利を行使する場合、原則として、民法の共有の規定(民法249条以下)が準用されるため、これに従った行使が必要となります(民法264条本文)。しかし、「法令に特別の定めがある場合」は、当該「特別の定め」に従った行使で足ります(民法264条ただし書)。
まずは、民法上の共有に関する規定と会社法106条の関係をおさえよう。
論述試験でも、端的に条文操作を示せるとよいでしょう!
そして、会社法106条本文の規定は民法264条ただし書の「特別の定め」にあたるため(最高裁平成27年2月19日第一小法廷判決参照、百選11事件)、準共有株式についての権利行使は106条本文に従って行われることになります。同条本文は、権利行使者の指定及び通知をすることによる準共有株式の権利行使を規定しています。
会社法106条のワンポイント
会社法106条本文は、会社に対する権利行使は権利行使者を通じて行わなければならないという会社に対する権利行使の実行の方法を規定しているにすぎず、準共有者内部における意思決定の方法まで規定しているわけではないことに注意が必要です(仲卓真「株式の共有―株式の準共有を中心に」法学教室516号(2023)10頁以下)。
権利行使者の指定方法
権利行使者の指定方法について、準共有者間の準共有持分の過半数に従い決定されます。
準共有者の全員一致を要するとすると、一人でも反対することにより準共有者全員の権利行使が不可能になり会社の運営に支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた同条本文の趣旨にも反する結果となるからです(最高裁平成9年1月28日第三小法廷判決、百選10事件)。
また、このような過半数説を支持する学説からは、権利行使者の指定は、準共有関係内部における意思決定について準用される民法252条1項にいう「共有物の管理に関する事項」に該当することを理由としています。
「株式についての権利」とは?
権利行使者を通じて行使される「株式についての権利」とは、株主たる地位に基づいて提起できる訴訟の提起や、株主総会における議決権の行使が典型例です。
前者については、「株主等」として明示的に制限されている株主総会決議取消訴訟(831条)のみならず、制限のない株主総会決議不存在・無効確認訴訟(830条)なども含まれます。
この意味で、当該訴訟で原告となる資格を有するか、という点で原告適格の判断に際して106条本文が適用されます。
後者について、株主総会決議の成立には、議決権を行使することができる株主の議決権の一定数の出席(定足数要件)と議決権行使による一定数以上の数の賛成(議決権数要件)をみたす必要があります。権利行使者の指定・通知を欠く場合、「権利」である議決権の行使ができないため定足数としてカウントされません。
このことを看過して成立した決議は、決議方法の法令違反(831条1項1号)に該当することがあります。この意味で、議決権行使の適法性の判断に際して、106条本文の検討が必要となります。
そもそも原告適格ってなんだっけ?
原告適格とは、平たく言えば、訴訟の当事者である原告として訴訟追行をするための資格のことだよ。
訴訟を提起したとしても、原告適格が認められない場合、決議の法令違反の内容がどうであれ、請求は却下となってしまうんだ。
権利行使者としての指定・通知がなくとも権利を行使できる特段の事情とは?
準共有株式の共同相続人の一人が会社に対して株主総会決議不存在確認訴訟を提起した事案において、判例は、株式の準共有者は「権利行使者としての指定を受けてその旨を通知していないときは、特段の事情がない限り、原告適格を有しない」としています(最高裁平成2年12月4日第三小法廷判決、百選9事件)。
まずは、原則の確認が大切だよ!
先ほど確認した通り、権利行使者としての指定・通知がなければ、準共有株式についての権利を行使することができないのが原則です。
しかし、上記判例は、権利行使者としての指定・通知を欠く場合であっても、「右株式が会社の発行済株式の全部に相当し、共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されているときは、他の共同相続人は、右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有する」と判示しています。
その理由として、会社法106条本文による権利行使者の指定及び通知の欠缺を理由に原告適格を争う一方で、本案において総会決議の有効な成立を主張する会社の行為は、同条本文の規定の趣旨を同一訴訟手続内で恣意的に使い分けるものとして、訴訟上の防御権を濫用し著しく信義に反して許されない、と述べています(荒谷裕子「相続による株式の共有―総会決議不存在確認訴訟の原告適格」会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)23頁、百選9事件解説)。
このような理由からすると、権利行使者の指定および通知が存在しなければ成立しえない株主総会決議の成立を主張する一方で、権利行使者の指定または通知がないことを理由に準共有者が当該決議の瑕疵を争うための原告適格を否定する、という矛盾した主張を会社がしているという事情が、「特段の事情」にあたるとされます(仲卓真「株式の共有―株式の準共有を中心に」法学教室516号(2023)11頁以下)。
このような特段の事情が認められる具体的な事案として、次のものが考えられます。
準共有株式について権利行使者の指定・通知はされていないところ、株主総会において、議長が準共有者の一人に対して準共有株式の全部について議決権を行使することに同意し(106条1項ただし書)、会社がこれを理由に定足数をみたすとして決議を成立させ、他の共有者がその決議の取消訴訟を提起したという事案が考えられます。
当該準共有株式に係る議決権行使がなければ定足数不足で当該決議は成立しない状況であれば、当該訴えにおいて、議決権行使がなければ成立し得ない決議について106条ただし書による同意を理由に決議の成立を主張する一方で、権利行使者の指定・通知がなく(106条本文)、かつ、当該準共有者による提訴に会社が同意していないこと(106条ただし書)を理由に原告適格を否定する、という主張を会社がすることは、訴訟上の信義則に反する特段の事情にあたると考えられます(山下徹哉「民事系科目論文式試験〔第2問〕解説・解答例」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー司法試験の問題と解説2023』157頁(日本評論社,2023))。
会社法106条ただし書の解説
(共有者による権利の行使)
第106条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社法106条ただし書の趣旨
同条ただし書の趣旨は、株式会社が準共有者の一人に対して、準共有株式に係る権利行使について同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたもの、とされています(最高裁平成27年2月19日第一小法廷、百選11事件)。
趣旨については、自分の言葉で説明ができるように理解しておこう!
会社法106条ただし書の構造
会社法106条本文は、上記の通り、民法264条ただし書の「特別の定め」にあたります。
他方、会社法106条ただし書は、会社の同意があれば同条本文の規定の適用を排除する趣旨であるので、民法264条本文により民法の共有の規定が準用されます。
その結果、株式の準共有者が、民法の規定(民法251条、252条)に従って準共有株式の権利を行使した場合には、権利行使者の指定・通知(会社法106条本文)によらなくても、会社が同意すれば当該権利の行使を有効とする、という効果が生じます(最高裁平成27年2月19日第一小法廷、百選11事件参照)。
すなわち、準共有株式の権利行使が、共有物の変更(民法252条1項)、共有物の管理(民法252条1項本文)、共有物の保存(同条1項かっこ書)にあたること、それが各規定に従った適法な準共有者間の決定であること、当該権利行使に対する会社の同意があること、の要件をみたした場合に当該権利行使が会社法106条ただし書により適法になります。
そして、ここにいう権利行使は、同条本文と同様に、訴訟の提起や議決権の行使が典型例です。
議決権の行使にかかる議案の内容と会社の同意(106条ただし書)
準共有株式にかかる議決権行使が会社の同意によって適法となるかが問題となった事案において、判例は「議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる」と判示しました(最高裁平成27年2月19日第一小法廷、百選11事件)。
当該判例の事案において議決権の行使の対象となった議案は、
①取締役の選任(329条1項)
②代表取締役の選定(362条2項3号、同条3項。なお、非公開会社において株主総会決議によって代表取締役を選定する定款条項を定めることは有効です(最高裁平成29年2月21日第三小法廷決定、百選41事件参照)
③本店所在地を変更する旨の定款の変更(466条)及び本店の移転
でした。
最高裁は、「これらが可決されることにより直ちに本件準共有株式が処分され、又はその内容が変更されるなどの特段の事情は認められないから、本件議決権行使は、本件準共有株式の管理に関する行為として、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものというべきである。」と判断しました。
すなわち、①~③を内容とする議決権の行使は、管理に関する行為にあたり、民法252条1項本文により持分の過半数の決定を要することになります。
他方で「直ちに本件準共有株式が処分され、又はその内容が変更されるなどの特段の事情」がある場合とは、会社の解散(471条)、事業譲渡(467条)、組織再編、株式併合(180条)に関する議案に対して、準共有株式の全部につき、権利行使者でない準共有者が議決権を行使した場合に、当該議決権行使によって当該議案が成立したときが挙げられます(高橋ほか『会社法〔第3版〕』90頁(弘文堂,2020))。
最後に
今回は、会社法の重要論点である「株式の準共有」について解説しました。
初学者の方は、まずは民法264条と会社法106条の関係をおさえよう。そのうえで、会社法がなぜ株式の準共有に関して、特別な定めを規定をしているのかその趣旨を理解してください。
事例問題の対策の観点では、「株式の準共有」がどういった場面で問題となるのかを意識すると理解がしやすいかと思います。
株式の準共有は、会社法の中でも特に難しいテーマの一つだと思います。
繰り返し復習をしてください!
▽今回の参考文献▽
仲卓真「株式の共有―株式の準共有を中心に」法学教室516号(2023)
会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)
山下徹哉「民事系科目論文式試験〔第2問〕解説・解答例」法学セミナー編集部『別冊法学セミナー司法試験の問題と解説2023』
高橋ほか『会社法〔第3版〕』(弘文堂,2020)
田中亘『会社法〔第4版〕』(東京大学出版会,2023)
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