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(挨拶おわり)
科照会事件は、市区町村が弁護士会からの照会に応じて、前科等の情報を開示することが、プライバシーの侵害に当たるのかどうかが問題になった事件です。
最高裁がどのように判断したのか確認しましょう。



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憲法上、プライバシー権という権利は存在しません。
ただ、憲法上明記されていない権利についても、憲法13条の幸福追求権を根拠に、新しい人権として認める動きがあります。
プライバシー権も幸福追求権に基づき、早くから提唱されていた権利で、今では、定着しています。
もっとも、プライバシー権とは何かに関しては、統一された定義があるわけではありません。
学説は、「自己に関する情報をコントロールする権利」と解する説が有力となっています。
一方、判例では、「私事をみだりに公開されない権利」と捉えた上で判決を下す事例が多いです。
前科照会事件では、最高裁は、主文でプライバシーという用語は使っていませんが、原告には前科をみだりに公開されない権利があるとの前提で判決を下しています。
原告Xは、自動車教習学校A社の技能指導員でしたが、解雇されたため、不当解雇であるとして訴えを提起しました。
一方、A社から受任した弁護士は弁護士法23条の2の規定に基づいて、所属する京都弁護士会に対して、Xの「前科および犯罪経歴について」照会の申し出を行いました。
その際、照会を必要とする理由として、「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」と記載していました。
京都弁護士会は、京都市の区役所に照会。これを受けて区役所の区長は、犯罪人名簿に基づき、Xの前科として、道路交通法違反11犯、業務上過失傷害1犯、暴行1犯の前科がある旨の回答を行いました。
A社の幹部は関係事件の審理終了後に、事件関係者や傍聴人等の前で、Xの前科を適示したうえで、Xが前科を秘匿して入社したことは経歴詐称に当たると指摘しました。
これに対して、Xは京都市の区長が前科を回答したことはプライバシーの侵害に当たるとして、京都市を被告として国家賠償法1条1項に基づき、損害賠償請求を求める訴えを提起しました。
第一審は、Xの請求を棄却しました。弁護士法に基づく弁護士会からの照会である以上、京都市の区長は原則として照会に応じる必要があると判断したためです。
控訴審は、Xの請求を一部認容しました。
との理由によります。
そこで、京都市側が上告しました。
弁護士が受任している事件について、所属弁護士会を介して公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる制度です。
公務所又は公私の団体がこれを拒絶できるかどうかについては弁護士法には規定がありませんが、判例では回答を拒絶すべき場合がある旨が示されています。
犯罪人名簿に関する根拠法は、現在ありません。ただ、法務省の訓令「犯歴事務規程」に従い、本籍市区町村が作成し管理しています。その目的は、身分証明及び選挙人名簿の調製事務の適正な処理に寄与することとされています。
結論から言うと、最高裁は控訴審の判断を支持し、京都市側の上告を棄却しています。ではどのように判断したのか見ていきましょう。
最高裁は前科等がプライバシーに当たるのかどうかは明示していません。
ただ、前科等は、「人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と述べており、前科をみだりに公開されない権利がある旨を示しています。
なお、伊藤正己裁判官は補足意見の中で、「他人に知られたくない個人の情報は、それがたとえ真実に合致するものであつても、その者のプライバシーとして法律上の保護を受け、これをみだりに公開することは許されず、違法に他人のプライバシーを侵害することは不法行為を構成する」として、「プライバシー」という言葉に言及しています。
さらに、「前科等は、個人のプライバシーのうちでも最も他人に知られたくないものの一つ」であると述べています。
最高裁は、犯罪人名簿が、「本来選挙資格の調査のために作成保管する」ものであるとして、みだりに漏洩してはならないとしています。
その上で、市区町村長が照会に回答できる場合として、
これらの要件を満たす場合に限ると述べました。
前科照会事件では、弁護士の照会申出書には「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」と書かれていただけなので、最高裁が示した上記の基準を満たしていません。
このような場合に、市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じて、前科等のすべてを報告することは、「公権力の違法な行使にあたる」と解しました。
そこで、京都市側の上告を棄却する判決を下しています。
ところで、この事件は、国家賠償法1条1項に基づき、京都市に対して損害賠償請求を求める訴えです。
国家賠償法1条1項の条文を確認しましょう。
国家賠償法1条1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
公務員が「公権力の行使」に当たり、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合に、国又は公共団体が賠償責任を負うという条文です。
では、「公権力の行使」とは何かが問題となります。
この点については、様々な最高裁判例により具体例が示されていますが、定義としては、「国又は公共団体の作用のうち、純粋な私経済作用と国家賠償法2条により救済される営造物の設置又は管理作用を除くすべての作用」を意味すると解するのがおおむねの判例の立場になっています。
公権力の行使というと、警察官の職務執行をイメージする方が多いと思いますが、そのような実力行使に限定されるわけではなく、公務員の幅広い職務が公権力の行使に当たりうるということです。
最高裁は、今回の京都市の区長による前科等の開示も「公権力の違法な行使にあたる」と判断しています。
最高裁は、前科照会事件で「プライバシーの権利」とはっきり述べてはいませんが、前科をみだりに公開されない権利がある旨を示しました。
前科等の情報の扱いには慎重さが求められることから、弁護士法23条の2に基づく照会に対して市区町村長が前科等を回答できる場合も限定的にとらえています。
行政法の論点としては、市区町村長が前科等を回答することも「公権力の行使」に当たる旨を示しました。
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