謝罪広告事件(最大判昭和31年7月4日)をどこよりも分かりやすく解説

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(挨拶おわり)


『謝罪広告事件の概要は?』

『謝罪広告事件のポイントは?』

『謝罪広告事件をさらに理解するためには?』

憲法には、精神的自由に関する条文が複数設けられていますが、精神的自由について原理的な定めを設けているのが、憲法19条です。

「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」とありますが、では、「思想及び良心」とは何を意味しているのかが問題となります。謝罪広告事件(最大判昭和31年7月4日)はその点について争われた事件でした。

目次

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1.精神的自由に関する憲法の規定

精神的自由は、次の理由により絶対的に保障されています。

①人間の尊厳を支える基礎である。
②民主主義存立の不可欠の前提である。

そこで憲法でも、精神的自由については念入りに定めており、大きく分けて3つの規定を設けています。ここでいったんまとめてみましょう。

①精神的自由に関する個別的な規定

憲法20条 信教の自由
憲法23条 学問の自由

②外部に伝達することの自由

憲法21条 表現の自由

③精神的自由の原理的規定

憲法19条 思想及び良心の自由

憲法19条は、精神的自由を包括的に保障しようとする規定で、精神的自由の原理的規定として位置づけられています。

「思想及び良心」には、信教や学問、表現することの自由はもちろんのこと、その他のあらゆる精神的自由が含まれていると解釈されています。

2.「思想」と「良心」の違いは?

憲法19条は、「思想及び良心」を並立させていますが、「思想」と「良心」はどう違うのかという問題があります。

この点については、様々な学説があり、例えば、良心は信仰の自由を意味すると解する説もあります。つまり、思想と良心は区別する考え方です。

しかし、通説は、「思想」と「良心」を厳密に区別することはなく、セットでとらえています。

3.「思想及び良心」の範囲は?

ここからが本題です。憲法19条が、思想及び良心の自由という形で、精神的自由の原理的規定を設けて、絶対的に保障しているにしても、どこまで認められているのか。つまり、精神的自由の保障の範囲が問題となります。

謝罪広告事件は、この保障の範囲をめぐって、議論が交わされました。

主な学説として次の二つを押さえましょう。

◆主な学説
①限定説:「思想及び良心」の範囲を限定する考え方
②広義説:「思想及び良心」の範囲を広くとらえる考え方

3.1 限定説

「思想及び良心」の範囲を限定する考え方です。

「思想及び良心」とは、人格形成に関連のある活動のみを意味しており、例えば、世界観、人生観、思想体系、政治的意見などを意味とすると考えることになります。

つまり、謝罪の意思表示の基礎である事物の是非や善悪の判断等には憲法19条の保障は及ばないことになります。

また、黙秘権などの沈黙の自由は、憲法21条1項の表現の自由、13条の幸福追求権などにより保障される問題であると解します。

限定説の根拠は、憲法20条で信教の自由、憲法23条で学問の自由と、個別的な規定が置かれていることからして、憲法が保障する精神的自由もこれらの自由と関連するものに限定されるだろうというものです。

限定説に対しては、人格形成に関連するかどうかの判断が難しいとの批判があります。

3.2 広義説

「思想及び良心」の範囲を広くとらえる考え方です。

「思想及び良心」とは、内心の自由一般を意味していて、人の内心におけるものの見方や考え方のみならず、事物に関する是非分別の判断も含むと解します。

つまり、謝罪の意思表示の基礎である事物の是非や善悪の判断等も憲法19条によって保障されると考えます。

広義説の根拠は、信教や学問の自由とは別に、憲法19条に「思想及び良心」と精神的自由を広く保障する規定を置いているのだから、保障対象も広範、包括的にとらえるべきだというものです。

広義説に対しては、人格形成に関連しない活動も含めてしまうと、精神的自由の価値が希薄になるとの批判がなされています。

4.謝罪広告事件(最大判昭和31年7月4日)の概要

被告Yは、衆議院選挙の政見放送で、対立候補Xについて触れ、Xが副知事在職中に発電所の発電機設置に関して斡旋料を受け取っていたとの主張を展開しました。

これに対して、Xは事実無根であるとし、Yが虚偽の事実を流布したことで自身の名誉が毀損されたと主張。Xの名誉回復のための措置として、Yに対して「上記公表事実は、真実に相違しており、貴下の名誉を傷つけ、ご迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」という内容の謝罪広告を新聞紙に掲載するように求めました。

しかし、Yは、Xの名誉を毀損する不法行為を犯した覚えはなく、「陳謝」「謝罪」といったYの意図しない言説を新聞紙に掲載させられることは、良心の自由の侵害に当たると主張して争い、事件が最高裁大法廷に持ち込まれました。

5.最高裁の考え方

最高裁は判決のほか、個々の裁判官が様々な補足意見を出しました。主な考え方をまとめておきましょう。

5.1 最高裁多数意見の考え方

最高裁多数意見は、「思想及び良心」の範囲についての判断基準を示していません。

ただ、「謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる原判決は、Yに屈辱的若くは苦役的労苦を科し、又はYの有する倫理的な意思、良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない」として、そもそも憲法19条に抵触する問題ではないとしています。

その上で、Yが自ら謝罪広告を掲載しない場合は、裁判所による強制執行。具体的には、民事執行法171条の代替執行により、Y名義で謝罪広告を掲載することも、民法723条の「適当な処分」であるとして、Yの主張を退けました。

5.2 裁判官の補足意見

この裁判では裁判官が様々な補足意見を出しました。代表的な考え方をまとめておきましょう。

◆田中耕太郎裁判官補足意見(判決を肯定する立場)

・憲法19条の「良心」とは、沿革的には宗教上の信仰と同意義に用いられていたが、現在では、「宗教上の信仰に限らずひろく世界観や主義や思想や主張をもつこと」を意味する。

・ただ、謝罪広告事件は、憲法19条の良心とは関係ない。なぜなら、判決によって、履行を強制される場合、命じられた者はいやいやながら命令に従う場合が多く、これを良心の自由の侵害と捉えるなら、確信犯人の処罰や債務の履行も強制できなくなるからである。

・仮に、加害者に屈辱的、奴隷的な義務を課するような不適当な謝罪方法であるなら、個人の尊重に関する憲法13条の問題であり、憲法19条とは無関係である。

◆藤田八郎裁判官補足意見(判決に反対する立場)

・Yが陳謝する意思を持っていないことは弁論の全経過から極めて明瞭であり、そのYに対して、国家が裁判という権力作用によって、謝罪を命じることは、良心の自由を侵すものである。

・なぜなら、良心の自由は、単に事物に関する是非弁別の内心的自由だけでなく、是非弁別の判断に関する事項を外部に表現する又は表現しないことの自由も含むからである。

・民法723条の「適当な処分」として、訴訟の当事者に対し判決により、謝罪広告の新聞紙への掲載を命じて来た慣例があるが、現行憲法の下では、もはや許されないと考えるべきである。

6.謝罪広告事件(最大判昭和31年7月4日)の最高裁判決の意義

この判決が出される前は、謝罪広告を判決で命じて代替執行することが、憲法19条の思想及び良心の自由に抵触するのではないかとの問題提起がなされたことはありませんでした。

最高裁多数意見では、憲法問題に深入りしなかったものの補足意見の中で、謝罪広告と憲法19条の関係について言及した点が画期的とされています。

この判決を契機に、謝罪広告の在り方について、議論が展開されるようになった点においても大きな意味のある判決でした。

7.謝罪広告事件(最大判昭和31年7月4日)のその後の影響

謝罪広告事件で最高裁が示した判断はその後の類似の裁判でも踏襲されています。

代表的な事例が、ポスト・ノーティス命令の合憲性について争われた事件です。

ポスト・ノーティス命令とは、不当労働行為を行った使用者に対して、従業員の見やすい場所に、労働委員会から不当労働行為を認定されたことと「ここに深く反省するとともに今後再びかかる行為を繰り返さないことを誓約します。」といった謝罪広告の掲示するように命じるものです。

最高裁は、ポスト・ノーティス命令は、使用者に反省等の意思表明を強制するものではなく、再発防止を目的としているにすぎず、「深く反省する」、「誓約します」などの文言は同種行為を繰り返さない旨の約束文言を強調する意味を有するにすぎないとして、憲法19条の問題ではないと判示しています。(最判平成2年3月6日)

8.まとめ

最高裁の考え方の傾向をまとめると次のようになります。

・謝罪広告は、憲法19条の良心の自由の問題ではない。
・謝罪広告を命じることは被害者の名誉回復などのために「適当な処分」と言えるし、代替執行することもできる。

試験対策としては、最高裁多数意見の考え方を押さえたうえで、裁判官の補足意見や「思想及び良心」の範囲についての二つの学説を押さえてください。

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