【初学者】窃盗罪の「占有」の有無の判断方法と論述のポイント

法書ログライター様執筆記事です。

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(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

(遺失物等横領)
第二百五十四条 遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。

今回は窃盗罪における占有の有無についての解説です。

要するに、「ドロボー」と「ネコババ」の違いです。

この二つは、もちろんどちらも犯罪ですが、刑の重さがまるで違います

したがって重要な違いなのですが、その判断基準は明確なものではありません。みんな大好き総合判断です。

そこで、本記事では、占有の有無に関して判断した重要判例をベースに、その判断の指標を解説していきます。

「占有」とはなにか

まずは、窃盗罪における「占有」とは何かについて解説します。

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窃盗罪の「占有」

窃盗罪の保護法益は物の占有です。もちろん、究極的には占有を保護することを通じて、所有権を守っている側面もあります。しかし、物の占有が移転しない限りは、窃盗罪は成立しません。

言い換えれば、窃盗罪が成立するためには、まず誰かの占有下になければなりません。

では、占有とは、具体的になんでしょうか。

昭和32年11月8日判決要旨

最高裁昭和32年11月8日判決は、占有について以下のとおり言及しています。

・刑法上の占有は「人が物を実力的に支配する関係」である。

・その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が占有者の支配力の及ぶ場所に存在するを以て足りると解すべきである。

・その物がなお占有者の支配内にあるというを得るか否かは通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によつて決するの外はない。

占有概念の淵

昭和32年判例は、窃盗罪における占有を、「物が支配力の及ぶ範囲にあること」としています。

その典型は、その物を手に持っている、握っている場合(握持)です。握持している物をすり取れば、間違いなく窃盗罪が成立します。

また、自分のすぐそばに置いて監視している場合も、明らかに支配力が及んでいると言っていいでしょう。

その物を家に置いたまま出かけた場合にはどうでしょうか。それで盗まれて窃盗が成立しないのも変ですね。

ではフードコートに鞄を置いてトイレに行ったとしたらどうでしょう。トイレに行っている間に盗まれたら。これも窃盗と言えそうです。

ただ、鞄を置いたまま忘れて帰ってしまったならどうでしょう。泥棒かネコババか。

どこからが遺失物横領なのか、昭和32年判例は「社会通念によって判断するほかない」としました。

そこで、ここから、その判断方法を解説していきます。

占有の有無の判断方法

それでは、続いて「占有の有無の判断方法」について解説します。

全体方針

まず、最終的な目標は、具体的な事実を評価して、その物に支配力を及ぼし得るか否かを結論することです。

具体的には、

・すぐにでも握持など事実的支配を及ぼせるか。

・他者に占有を奪われたときにすぐにでも対抗できるか。

そのためには、以下のような順番で検討していくことになります。

・実際に握持・監視をしているか。

・その物の置かれている場所が排他的支配にあるかを検討する。

・公共の場所に置かれている場合には、種々の事情を総合して検討する。

場所的状況

物のあった場所が、物の権利者の排他的支配に属するような場合には、占有は肯定されます。典型例は自分の家の中にある場合です。

家の中のように、完全に排他的支配を及ぼし得る場所であれば、具体的な所在がわからなくとも、占有が及んでいると考えられます。

逆に、公道などの公共の場所に置かれた場合に、その物との近接性などの総合考慮が必要になります。

実際に公共の場所に置き忘れた物について、占有が問題になった事例があります。

占有の有無の重要判例:平成16年8月25日

公共の場所に置き忘れた物について、占有が問題になった事例(最高裁平成16年8月25日)を紹介します。

事案の概要

被害者Vがベンチの上にポシェットを置いて話し込んでいるのを隣のベンチから見ていた被告人Xは、Vがそれを置き忘れたならば窃取しようと考えた。Vは友人を駅の改札口まで送るためにベンチを立ったが、この時本件ポシェットは置き忘れた。

XはVの動向をうかがい、当該ベンチから27mほど離れた時点で、本件ポシェットを持ち去った。

一方のVは、200mほど歩いた時点で本件ポシェットの置き忘れに気づき、走って戻ったが、

判旨

被告人が本件ポシェットを領得したのは、被害者がこれを置き忘れてベンチから約27mしか離れていない場所まで歩いて行った時点であったことなど本件の事実関係の下では、その時点において、被害者が本件ポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても、被害者の本件ポシェットに対する占有はなお失われておらず、被告人の本件領得行為は窃盗罪に当たる

占有の有無の重要判例の解説

平成16年判決は、公園のベンチの上に置き忘れられたポシェットの置き引きについての事案です。

したがって、特に排他的支配が及んでいるような場所でなく、多数の者が出入りするような場所での事案であるといえます。

このような場合に、占有が認められるのはどのような場合でしょうか。

場所的時間的近接性

手で持っていたり、身に着けていたりという事実的支配がない場合にも、場所的にそれほど離れていないのであれば、すぐに支配を及ぼすことができます。

平成16年判決では、本件ポシェットの場合は、置いたまま離れても27mほどであればまだ占有が認められるとしています。

確かに、27mなら、走れば10秒もかからないので、すぐに支配を回復できるといえるでしょう。

とはいえ、これは、その場所の障害物の有無などによっても変わるでしょう。平成16年判決では、公園の中という見晴らしの良い場所でした。

一方で、距離的にそこまで離れていない場合でも、階を跨いだことで占有が否定された事例もあります。(平成3年高裁)

被害者の認識

被害者が物の置き忘れに気づいていないという事情や、物の場所を見失ったという事情があれば、それは占有の存在に否定的な要素となります。

このような事情があると、事実的支配を回復する妨げになるからです。つまり、事実的支配の可能性が減るのです。

平成16年判決でも、被害者が本件ポシェットを失念していたことを、占有を否定する方向に向かう要素と考えています。

しかし、この事例では、忘れていた時間がわずかであったりして、すぐにでも本件ポシェットを把持しうることから、占有を認めています。

物の特性

物の大きさや形、重さなど、その物の移動させやすさも、占有の有無に影響します。一般に、小さくて動かしやすい場合には、他者が持ち去りやすいので、占有を認めづらくなります。

また、珍しい事例として、帰巣本能がある動物の場合では、敷地外に出たとしても占有が保たれていたとする例もあります。

占有の意思

上記のような事実が、事実的占有の考慮要素です。一方、占有意思も「占有」の考慮要素になります。

これは、事実的占有が弱い場合に補充的に考慮されるものです。

支配力の及ぼし方が弱い場合であっても、占有の意思が強く推認されるような状況があれば占有が認められることもあります。

まとめ

「占有」とは、実力的な支配力を及ぼすことです。

占有の判断要素は「支配の事実」と「占有意思」です。

その検討のためには、まず、握持・監視など実力的支配を及ぼしているかを考えます。もしそれが認められるのであれば、無条件に占有が認められます。

握持・監視などしていないというのであれば、それはその物が安置されていることを意味します。そこで次に、その物が置かれている場所について考えます。

もしも、その場所が自宅の中など、排他的支配下にあるのであれば、その場合にも無条件で認められます。(柵のない自宅の庭は排他的支配下にあるとまでは言えませんが、通常、そこにある物に干渉するのに精神的障壁があるため、占有は認められます。また、自転車置き場に施錠せずに自転車を置いた場合などその場所と物とが特別な関係にある場合にも認められます)

一方で、公共の場所に物が置かれているのであれば、原則として占有は否定されます。

ここから、具体的事実のあてはめによる総合考慮がはじまります。

・物との時間的場所的な近接性

・その場所の見晴らし

・その物の特性

・被害者が物の位置や存在を覚えていたか

これらの事実から、具体的に、

握持・監視を取り戻すのにどれくらいの時間がかかるか、どれくらい容易か

を考え、容易かつ直ちにできるといえれば、占有が認められます。

▽参考文献▽

・大塚裕史『応用刑法II 各論』(日本評論社、2023)

・大塚裕史ほか『基本刑法II 各論[第3版]』(日本評論社、2019)

・『アガルートの司法試験・予備試験合格論証集 刑法・刑事訴訟法』アガルートアカデミー編著(サンクチュアリ出版、2020)

・佐伯仁志・橋爪隆編『刑法判例百選II[第8版]各論』(有斐閣、2020)

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