「司法試験委員会は受験生に何を求めているのか」
「行政法の勉強はどのような点を意識して勉強をするべきなのか」
「行政法の論文答案ではどのような点を意識して起案するべきなのか」
今回は、採点時間まとめの行政法編です。これまで採点実感を元に、刑法、民法、会社法の学習上の留意点を整理してきました。
本記事を読まれている方々は司法試験合格に向けて日々勉強をされている方々で、行政法の勉強について情報収集をされている方々かと思います。
司法試験の論文過去問をまだ解いたことがない方やもう10年分の過去問を解いた方もいるかもしれません。
採点実感なんかちゃんと読んだことないや
あひるっぺ、採点実感は司法試験委員会の公式意見だ!
司法試験委員会が論文式試験を出題し、その後、採点した結果、所感が記されており、勉強法のヒントが沢山記載されているんだ。
この機会に、採点実感を読んでみるといいよ!
『現状』
「採点実感をきちんと分析したことがない
「司法試験委員会が行政法の論述で求めていることが分からない」
「行政法の勉強で特に意識するべきポイントが分からない」
『理想』
「司法試験委員会が行政法の論述で特に意識してほしい点が分かるため、行政法の対策方法に悩まない」
「司法試験委員会が受験生に求める能力が抽象的にわかっているため、普段の勉強から意識して勉強することができる」
そこで今回は、刑法を取り上げて、司法試験委員が公表している採点実感の過去の7年分【行政法編】を参考に、採点実感で言及されている「今後の法科大学院教育に求めるもの」を基に、刑法について、受験生に求められている能力、司法試験本番に身に着けるべき能力、問題分析の際に留意すべき点等を整理していきたいと思います。
なお、「今後の法科大学院教育に求めるもの」のため、内容は抽象的です。そのため、ほぼ過去問のネタバレにはならないかと思います。但し、年度ごとに整理しているため、この年度に行政裁量が出題された等のレベル感ではネタバレを含みます。真っ白な状態で過去問に取り組みたい方は、過去問演習が済んでから読むようにしてください。
抽象的であるからこそ、普段の勉強の際に意識がしやすく学習の成果が変わってくるかと思います。ちょっとした事の差が最終的な大きな差になります。
それでは、令和4年から平成28年度の司法試験の行政法の採点実感を基に、受験生に求められている能力や日頃の勉強で気をつけるべき点などを整理していきたいと思います。
目次
令和4年司法試験行政法の分析
令和4年度司法試験行政法の分析です。
令和4年司法試験行政法で求められた能力等
- 行政法の基本的な概念と仕組み、および重要な最高裁判例の内容と射程を確実に理解することが必要である。
- 理論的な知識だけでなく、それらの知識を基にした事例問題の演習を行う。
- ただ判例の知識を得るだけでなく、重要な判例が示した法理や規範を具体的な事例の中で使いこなす能力を育成することが求められる。
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「重要な最高裁判例の内容と射程を確実に理解する」
行政法も判例の理解が重要な科目です。特に重要とされる判例について射程を論じることが出来るように、判例の判旨に加えて事実関係を押さえておきましょう。
「知識を基にした事例問題の演習」
事例演習の重要性が強調されています。行政法の場合、事例に掲載されている法令を読んで、自ら解釈を示したり、通達を読み込んだりと他の科目にはないスキルが必要となります。
その分、事例演習を繰り返して出題に慣れておく必要があります。
「事例の中で使いこなす能力」
インプットした規範を使いこなす能力は他の科目と同様に行政法でも重要とされています。知識をインプットする際には、事例ではどのように適用できるのか考える癖をつけておくと良いと思います。
おすすめの演習書は?
令和3年司法試験の行政法の分析
令和3年度司法試験行政法の分析です。
令和3年司法試験行政法で求められた能力等
- 行政法の基本に重きを置いた教育が求められています。具体的なケースについて、その状況に適した規範を提示し、事実を正確に適用する能力を養うことが重要とされています。
- 行政法の基本的な概念と仕組みをしっかりと理解し、重要な最高裁判例の内容と射程を正確に把握することが必要です。また、事例問題の演習を行い、関連する法令を読み、問題となっている制度の仕組みを正確に理解することが求められています。
- 設問に対する答案では、指摘された判例についての理解があるものが多い一方で、個別の主張の検討については満足のいく答案が少ないようです。そのため、行政法の基本的な知識に基づき、関係する法制度を的確に分析し、その上で適切な法解釈を行う能力を伸ばすことが、法科大学院教育における重要な課題とされています。
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「行政法の基本に重きを置いた教育」
ここでも基本の重要性が強調されています。司法試験委員会からすると、受験生の答案の中には、行政法の基本を理解していないと見受けられるものがあるようですね。
基本が理解していない方にありがちなのが、いきなり高難度の基本書に手を付けたり、身の丈にあった勉強をしてこない人がいます。
関連する法令を読み、問題となっている制度の仕組みを正確に理解する
行政法は個別法の読み取りが難しい。個別法の読みとりは、事例演習を通じて学ぶが一番です。
基本的なところを理解できていない方は、下記の書籍を参考にしてみてもよいでしょう。
令和2年司法試験の行政法の分析
令和2年度司法試験行政法の分析です。
令和2年司法試験行政法で求められた能力等
- 主要な判例についての理解を深めることが重要であり、その内容と射程について正確に理解をすることが求められる。しかし、単に判例の知識を詰め込むだけの教育は必要ないとされている。
- 実体的な違法性の検討において、裁量論だけに焦点を当てるのではなく、個別法に沿った解釈論を組み立てる能力を養うことが重要とされている。裁量論は重要ではあるが、個別法に沿った解釈論も同じくらい重要であると考えられる。
- 法科大学院教育では、基本的な法的な概念と仕組みを理解し、その上で事例問題の演習を行い、関係する事実を把握し、それを規範に当てはめる能力を養うことが期待されている。
- 紛争事案が複雑化しているため、法曹実務家には現実の紛争解決に有効な法理論を身につけ、それを適切に適用することが求められている。そのためには、法理の基本に立ち返って深く理解することが必要とされている。
- 答案全体から見て、法律家としての思考が表現されているものが少ないとされている。そのため、事実をただ拾うのではなく、法的にどのような意味を持つのか、どの法令のどの文言との関係で問題となるのかを考え、表現する教育が求められている。
- 「申請に対する不作為」を手続的瑕疵と捉え、それが処分の取消事由に該当するかという論点について検討した答案が多かった。このような理解については、法科大学院の教育でも十分に触れられていない可能性が指摘されている。
- 行政裁量についての誤解が見受けられ、それが法律解釈の問題の一部であるという基本的な理解がないことが指摘されている。そのため、行政法総論の学習や教育の在り方全体を見直す必要があると提案されている。具体的な事例に対する考察がない、または裁量の逸脱や濫用に関する一般論に終始する答案が多く見られたことから、行政裁量に関する基本的な学習に問題があると考えられる。
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個別法に沿った解釈論を組み立てる能力を養う
個別法の解釈は行政法特有のスキルですね。
苦戦する受験生も多いかと思います。
事実をただ拾うのではなく、法的にどのような意味を持つのか、どの法令のどの文言との関係で問題となるのかを考え、表現する
当てはめが重要であることは受験生の中でよく浸透しているようですが、事実を拾うだけでもダメということですね。
どの法令との関係で問題となるのか、規範の対応関係などを意識して論じる必要があります。
行政法総論の学習や教育の在り方全体を見直す必要がある
行政法総論が苦手な受験生が多いようですね。
行政法総論が苦手な方は下記の書籍を参考にしてみると良いかもしれません。
令和元年司法試験の行政法の分析
令和元年度司法試験行政法の分析です。
令和元年司法試験行政法で求められた能力等
- 今年の出題は昨年と同様に問題文と会議録を丁寧に読むことで、論ずるべき問題点の検討・把握が比較的容易にできるものだった。評価の差は、重要な最高裁判例や行政法上の概念の正確な理解と、その理解を基に本件事案に即した適切な見解を導く応用能力の発揮による。
- この種の出題では、問題文で示された様々な事実を拾い出し、これについて適切に法的評価を行う能力、与えられた条文から法令の趣旨を検討する手掛かりとなる規定を見つけ出し、その趣旨を適切に読み解く能力、そしてこれらを踏まえて論理的な思考に基づき分かりやすく説得的な論述をする能力が求められる。
- 特に、これらの作業を短時間で的確に行う能力は、広く法律実務家にとって必須のものであり、法科大学院では、このような能力が身に付くような教育が目指されるべきである。
- しかし、今年の出題には、違法性の承継や無効確認訴訟における原告適格といった、基本的ではあるが受験生にとってはややなじみの薄い論点が含まれていたことから、行政法の基本的な条文や概念の理解が十分でないと思われる答案が見られた。
- 法科大学院での学習では、応用能力の習得に向けた訓練に力を入れるだけでなく、これらの基礎的な理解がおろそかにされないよう配慮することも必要であるとされている。
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問題文と会議録を丁寧に読む
かなり実践的なスキルですね。行政法の出題では、問題文のほかに会議録が載っています。
この会議録は、主にボス弁とイソ弁の2人が事件対応について協議をするものですが、この会議録の中で、回答にあたって言及してほしい事項であったり、慎重に検討して欲しい事項が示されたりしています。
会議録は読み飛ばさないようにじっくり読むこみましょう。
作業を短時間で的確に行う能力は、広く法律実務家にとって必須
事務処理能力ですね。これは日頃から事例演習を積み重ねて磨いていくしないですね。
ややなじみの薄い論点が含まれていた
マイナーな論点が出題されることもあります。マイナー論点は優先度は低いですけど、司法試験でも出題されます。
論点の勉強は論証集?
平成30年司法試験の行政法の分析
平成30年度司法試験行政法の分析です。
平成30年司法試験行政法で求められた能力等
- 今年の出題は昨年と同様で、問題文と会議録から論じるべき論点が明確で、問題の検討・把握はそれほど困難ではなかった。このような出題において、評価の差は最高裁判例や行政法上の概念の正確な理解と、その理解を基にした適切な見解を導く応用能力の発揮による。
- 具体的には、問題文等で示されている事実を適切に理解し、法的評価を行う能力、与えられた条文から法令の趣旨を見つけ出し解釈する能力、そしてこれらを踏まえて論理的に理解し説得力のある論述をする能力が求められた。
- 特に、これらの作業を短時間で的確に行う能力は、法律実務家にとって必須であり、法科大学院においては、このような能力を身につける教育が目指されるべきとされている。
- 基礎的な知識、例えば判例や行政法上の概念の学習は重要であり、法科大学院ではこれらの教育が続けられるべきである。しかし、それにとどまらず、適切な条文を指摘しつつ、具体的な事実関係を規範に適切に当てはめる訓練をする教育も一層強化する必要がある。
- 判例の基準や各種概念を知識として理解しているものの、具体的な当てはめの検討を行わずに、短絡的に解答を導く答案が見られるため、より具体的な事例への適用力を育てる教育の必要性が指摘されている。
コメント
問題文と会議録から論じるべき論点が明確
問題分と会議録は注意深く読み込みましょう。読み飛ばしてしまって論点落ちしてしまった、というのはありがちです。
与えられた条文から法令の趣旨を見つけ出し解釈する能力
初見の法律の趣旨を読み解くのは簡単なことではありません。しかし、行政法の対策上は、必須のスキルです。必要なスキルと認識し、対策をするようにしましょう。
平成29年司法試験の行政法の分析
平成29年度司法試験行政法の分析です。
平成29年司法試験行政法で求められた能力等
- 今年の問題では、問題文や議事録にて明示された論点を解くことが求められ、それに基づいた適切な見解を導く応用能力が評価された。
- 問題文に指定された具体的な考慮要素について法的評価を適切に行う能力や、様々な利益・事情等を読み解く能力が重要となった。
- 正確な判断基準や法的概念の理解に基づき、説得的な論述を導く能力が評価の決め手となった。
- 行政手続法上の不利益処分の概念を理解できていない答案が目立ったため、法科大学院の教育で基礎的な概念・知識が重視されるべきとの指摘があった。
- 法科大学院においては、条文や判断基準の記憶だけではなく、それらの要素を分析し、類型化する訓練が必要であると指摘。
- 法律実務家を志す者には、条文から法律解釈をして規範を定立し、具体的事実を当てはめるというプロセスが基本であると強調。
- 法律実務家は、自分の見解と異なる立場に立っても法的な考察、論述を展開する能力が求められている。
- 法科大学院の教育や学生の学習態度が問題となっているとの指摘があった。
- 法律実務家は文章を書くことを基本とする仕事であるため、法科大学院でも論述能力を十分に指導する必要があるとの指摘があった。
- 法科大学院教育では、判断基準や主要な最高裁の判例を学習し覚えることが重要である一方で、これらを具体的な事案に適用することを学ぶ機会も増やすべきであるとの提言があった。
コメント
様々な利益・事情等を読み解く能力
対立利益をよく考えよう。行政法でも事案をビジュアル化し、それぞれの立場の利益状況を分析するようにしましょう。利益状況を分析することで、事実の見え方が変わってきます。
法律実務家は文章を書くことを基本とする仕事
法的スキル云々ではなく、端的に文章力をつけろ、というのですね。起案を沢山し、添削を受けていくのが良さそうです。
文章作成に興味がある方は法書ログライターで記事の作成をして頂いてもよいかもしれません。文章作成が出来、アウトプットになり、お金も貰えるの良いかと思います。
平成28年司法試験の行政法の分析
平成28年度司法試験行政法の分析です。
平成28年司法試験行政法で求められた能力等
- 本年の問題は問題文や議事録で論点が明確に指示され、比較的簡単だった。ただし、基本的な判例や概念についての正確な理解と、それを具体的な事案に適用する能力、論理的思考に基づく説得力のある論述ができるかどうかで評価が分かれた。
- 法科大学院の教育は、条文の要件や効果を単に抽出したり覚えたりするだけでなく、様々な視点からこれらの要素を分析したり類型化したりする訓練により、試験における問題に対して適切な見解を導き出す能力を養成することにも力を入れるべきである。この年も、問題を具体的な事案に即して論述することが十分でない答案や、論理的思考過程を示さずに結論を導く答案が見られた。
- 設問1と設問3は、最高裁判所の重要判例を理解していれば容易に解答できる問題だった。しかしながら、多くの学生はこれらの判例を正確に理解して適用することができていなかった。行政法についての学習は重要であり、短答式試験が廃止されたとしても重要判例を読み、理解することは必要である。
- 昨年同様、日本語の論述能力が不足している学生が多く見られた。裁判官、検察官、弁護士といった法律実務家は文章を書くことを基本とする職業である。そのため、法科大学院では受験対策だけでなく、論述能力の指導にも力を入れるべきである。
コメント
論理的思考に基づく説得力のある論述
論述に説得力を出すための一つの手法として、規範をきちんと事実に適用することが挙げられます。
規範とあてはめが対応していない方は多いです。まずはこの点を意識してみてもよいでしょう。
重要判例を読み、理解することは必要
行政法は判例学習が重要な科目です。判例学習を怠らないようにしましょう。
日本語の論述能力が不足している
文章量を磨くためには沢山書いて、沢山添削をしてもらうしかありません。
文章力に自信がない方は答練を受講してみてもよいかもしれません。
最後に
最後までお読み頂きありがとうございます!!
いかがでしたでしょうか。今回は行政法の採点実感が7年分を分析し、司法試験委員会が受験生に求めている能力や答案作成上の留意点についてまとめてさせていただきました。
採点実感や出題趣旨の分析は、過去問対策上、必須の工程です。もっと詳しく分析したい方は下記の書籍やアガルートの司法試験論文過去問解析講座を受講してみても良いでしょう。
すべての年度の出題の趣旨と採点実感を読み込むのは大変だ。
下記の書籍を使ったり、自主ゼミを組んで分担をしたり、工夫をしてみよう。
予備校の過去問解説講義を受講してみるのもよいだろう。
毎日、少しでも前進だ!
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