【採点実感まとめ】司法試験刑法の対策と留意点【7年間分】

「司法試験委員会は受験生に何を求めているのか」

「刑法の勉強はどのような点を意識して勉強をするべきなのか」

「刑法の論文答案ではどのような点を意識して起案するべきなのか」

本記事を読まれている方々は司法試験合格に向けて日々勉強をされている方々で、刑法の勉強について情報収集をされている方々かと思います。

司法試験の論文過去問をまだ解いたことがない方やもう10年分の過去問を解いた方もいるかもしれません。

前回から司法試験受験生向けに「採点実感のまとめ」記事を作成しています。

そこで今回は、刑法を取り上げて、司法試験委員が公表している採点実感の過去の7年分【刑法編】を参考に、採点実感で言及されている「法科大学院における今後の学習において望まれる事項」を基に、刑法について、受験生に求められている能力、司法試験本番に身に着けるべき能力、問題分析の際に留意すべき点等を整理していきたいと思います。

かもっち

刑法は得意な人が多い科目

苦手だと差が開きやいため、要注意だ

なお、「法科大学院における今後の学習において望まれる事項」のため、内容は抽象的なため、ほぼ過去問のネタバレにはならないかと思います。但し、年度ごとに整理しているため、この年度に財産犯が出題された等のレベル感ではネタバレを含みます。真っ白な状態で過去問に取り組みたい方は、過去問演習が済んでから読むようにしてください。

抽象的であるからこそ、普段の勉強の際に意識がしやすく学習の成果が変わってくるかと思います。ちょっとした事の差が最終的な大きな差になります。

それでは、令和4年から平成28年度の司法試験の刑法の採点実感を基に、受験生に求められている能力や日頃の勉強で気をつけるべき点などを整理していきたいと思います。

令和4年司法試験の刑法の分析

まずは、令和4年司法試験刑法からです。

令和4年司法試験刑法で求められた能力等 

・刑法学習においては、刑法の基本概念を理解し、各論点の位置付けや相互関連性を整理することが重要である。

・犯罪成立要件との関係で、問題となっている点を意識し、多角的に考察することで理解を深めるべきである。

・刑法各論の学習では、各罪を独立して学習するだけでなく、全体的な観点から学習することが求められる。

・判例学習では、結論を暗記するだけではなく、具体的な事実とその理論構成を理解することが必要である。

・法曹実務家は具体的な事実関係を分析し、法律学の理解に基づき問題解決を行う能力が求められる。

・法科大学院教育では、刑法の基本的知識と体系的理解の修得に力点を置きつつ、問題意識を喚起し理解を深めるべきである。

・判例学習等を通じて具体的な事案の検討を行い、正解思考に陥らずに幅広く妥当な結論や理論構成を導き出す能力を涵養することが望まれる。

コメント

各論点の位置付けや相互関連性を整理する

相互関連性の理解が求められています。勉強の序盤ではそこまで意識して勉強することは難しいですが、一通りの学習が終わっている方は、論点間の関係性を考えてみたり、論点の位置づけを考えてみるとよいでしょう。

具体的な事実とその理論構成を理解する

判例を学習する際は、判例の判旨だけでなく、その「具体的事実」を押さえましょう。さらに、暗記しても意味がありません。なぜそのような規範になるのか、規範定立の過程を理解するように努めましょう。

令和3年司法試験の刑法の分析

続いて令和3年司法試験の刑法です。

令和3年司法試験刑法で求められた能力等 

・刑法の基本概念を理解し、論点の位置付けや相互関連性を整理し、犯罪論の体系的処理の手法を身につけることが刑法学習の重要な基盤である。

・一般的に重要と考えられる論点を学習する際には、犯罪成立要件との関係を明確に意識しながら、複数の見解の根拠や難点に深く踏み込んで検討し、理解を深めることが望まれる。

・刑法各論の学習では、各罪を独立して学習するだけでなく、特定の犯罪類型全体に共通する総論的、横断的事項や各犯罪類型の区別基準を意識した学習が求められる。

・判例を学習する際には、結論だけでなく、具体的事実や理論構成に至るまでの過程、その判例の規範の体系上の位置付けやその射程や理論構成上の課題についても検討し理解することが必要である。

・法科大学院教育では、刑法の基本的知識と体系的理解の修得に焦点を当てつつ、問題意識を喚起し理解を深め、具体的事案の検討を通じて幅広く妥当な結論や理論構成を導き出す能力を養うことが求められる。

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複数の見解の根拠や難点に深く踏み込んで検討し、理解を深める

判例通説だけでなく、有力説も押さえておこう。

・判例を学習する際は①具体的事実や理論構成に至るまでの過程、②その判例の期間の体系上の位置付けやその射程や理論構成上の課題についても検討する。

・刑法でも民法と同様に判例の学習の重要性を学習上の留意点が示されています。

あひるっぺ

刑法でも判例は重要とされているんだ

令和2年司法試験の刑法の分析

続いて令和2年司法試験の刑法です。

令和2年司法試験刑法で求められた能力等

・刑法の学習では、基本概念の理解を前提に、論点の所在、相互関連性を十分に整理し、犯罪論の体系的処理の手法を身に付けることが重要である。

・論点を学習する際には、一つの見解だけでなく、他の主要な見解についてもその根拠や難点等を理解することが必要であり、これにより論点の理解を深めることが望まれる。

・刑法各論の学習では、各罪を独立して学習するだけでなく、例えば財産犯の場合、財産犯全体に共通する総論的、横断的事項を意識し、また、犯罪類型ごとの区別の基準を重視した学習が望まれる。

・判例を学習する際には、結論だけでなく、当該判例の前提となる具体的事実や結論に至るまでの理論構成を理解し、その判例の規範の体系上の位置付けや、それが妥当する範囲や理論構成上の課題についても検討することが必要である。

・答案作成時には、取り上げるべき論点の把握と、事案に応じた必要な点の適切な論述が重要であり、事案の全体像を俯瞰する法的思考能力を身に付けることが求められる。

・法科大学院教育では、刑法の基本的知識及び体系的理解の修得を強調し、問題意識を喚起し理解を深めるとともに、判例の学習等を通じて具体的事案の検討を行い、幅広く妥当な結論やそれを支える理論構成を導き出す能力を涵養することが望まれる。

コメント

「ほかの主要な見解についてもその根拠や難点等を理解する」

・論点学習の留意点が示されています。論点を学習する際は、一つの見解だけでなく、他の主要な見解についてもその根拠や難点等を理解することを求めています。刑法では特に、判例通説だけでなく、有力説の勉強をしておくと良いでしょう。判例通説以外の理解を問う出題は、近年の司法試験の出題傾向として理解しておくべきです。

あひるっぺ

複数の見解を対比させて論述させるような出題は最近のトレンドみたいだね。

横断的な理解

・各犯罪を独立して勉強するだけでなく、横断的な理解が求められています。特に、財産犯を学習する際は、各犯罪の区別基準(窃盗か詐欺か、強盗か恐喝か等)をきちんと整理しておきましょう。

・答案作成時は、事案の全体を俯瞰する。事案に応じて論点の抽出力が求められています。これは、たくさんの事例演習を通じて身につくものかと思います。論文対策で悩まれている方はこの【記事】を参考してみてください。

令和元年司法試験の刑法の分析

続いて令和元年司法試験の刑法です。

令和元年司法試験刑法で求められた能力等

・刑法学習では、基本概念の理解、論点の把握、各論点の位置づけや相互の関連性の整理、そして犯罪論の体系的な処理の手法を身につけることが重要とされています。

一つの見解だけでなく、他の主要な見解についてもその根拠や難点等を理解し、多面的に論点を考察することで理解を深めることが期待されています。

・判例学習では、結論だけでなく、その判例の前提となる具体的な事実や理論構成を理解し、規範の体系上の位置づけや妥当性の範囲を検討することが必要とされています。

事案の全体像を理解し、事案に応じて適切に論点を取り上げる法的思考能力が求められています。これは論証パターンを無意識に記述し、不要な論点まで論じることを防ぐためです。

・法科大学院教育では、刑法の基本的な知識と体系的な理解を強調し、刑法上の論点についての理解を深めること、そして判例学習等を通じて具体的な事案の検討を行い、幅広い妥当な結論や理論構成を導き出す能力の育成が期待されています。

コメント

・刑法学習のポイントが示されています。①基本概念の理解、②論点の把握、③各論点の位置付けや④相互の関連性の整理、⑤犯罪論の体系的な処理の手法。

・さらに、この年も他の見解の理解を求めています。

平成30年司法試験の刑法の分析

続いて平成30年司法試験の刑法です。

平成30年司法試験刑法で求められた能力等 

・刑法学習においては、基本的な刑法概念の理解、論点の所在の把握、各論点の位置付けと相互の関連性の整理、そして犯罪論の体系的な処理の手法を習得することが重要です。

・判例学習では、結論だけでなく、判例の前提となる具体的事実や結論に至るまでの理論構成を理解し、その判例が述べる規範の体系上の位置付けやそれが適用される範囲についても考慮し理解することが必要です。

・論文式試験においては、問題となる論点とそうでない論点を見極め、問題となる論点の体系的な位置付けについて整理することが重要です。

無自覚に論証パターンを記述すると、不要な論点まで長々と論じる可能性があるため、事案の全体像を俯瞰し、事案に応じて必要な論点について適切に論じる法的思考能力が求められています。

・法科大学院教育では、刑法の基本的な知識と体系的な理解を強調し、判例学習を通じて具体的な事案の検討を行うなど、多角的な検討を行う能力と、論理的に矛盾しない、事案に応じた適切で妥当な結論や理論構成を導き出す能力の育成が期待されています。

コメント

「無自覚に論証パターンを記述しない」

・答案作成上の留意点が示されています。「無自覚に論証パターンを記述」。これは、司法試験委員会が嫌う論述のようですね。論点を正確に応じて、事案に応じた論証が求められています。

具体的には、無自覚に論証パターンを記述すると、不要な論点まで長々と論じる可能性があると指摘されています。論証は、論点の重要性に応じて書き分ける必要があります。この点は、論証集のレビュー【記事】が参考になるかもしれません。

あひるっぺ

かもっちによると、コアキーワードを使って自分の言葉でロジックを説明することが重要らしい

かもっち

あひるっぺ、よく勉強しているね。
私は、論証の暗記はある程度必要だと考えているけど、試験本番では、暗記したものを吐き出すのではなく、事案に応じて、コアキーワードを使いつつ、自分の言葉でロジックを説明することが大切だと考えいるよ。
「自分の言葉で」というのが難しいけど、これは沢山演習して添削指導を受けながら論述力を磨いていいくしかないと思うよ。

平成29年司法試験の刑法の分析

続いて平成29年司法試験の刑法です。

平成29年司法試験刑法で求められた能力等

・刑法の学習では、基本概念の理解を基に、各論点の問題所在、位置付け、相互関連性を十分に理解することが必要。これらの理解が不十分では的確で説得力のある論述はできない。

・判例学習では、結論だけでなく、判例の前提となる具体的事実や結論に至るまでの理論構成、そしてその判例が述べる規範の刑法の体系上の位置付けとその妥当な適用範囲についても理解することが求められる。

・論文式試験においては、事実を単に拾い上げるだけでなく、全体を俯瞰して考える視点が必要である。具体的には、一罪における行為の認定や共謀の認定等、事案に応じた適切な事実認定ができる能力が求められている。

・法科大学院教育では、刑法の基本知識と体系的理解の修得を最初に重視し、判例学習を通じて具体的事案の検討を行うなど、多角的な検討を行う能力を養うことが求められている。また、論理的に矛盾しない、事案に応じた適切で妥当な結論を導き出す能力の育成も重要である。

コメント

「判例の前提となる具体的事実や結論に至るまでの理論構成もおさえる」

かもっち

判例学習は、「判旨」のみならず「事実関係」を押さえよう。判例がどのような事実関係を基に判断したのかをわかっていないと、「判例の射程」の検討はできない。

司法試験委員会は「判例の射程」を問うのが大好きだから、判例学習の際は意識して事実関係を押さえるようにしよう。

例えば、判例百選を使って勉強をしているのであれば、「解説」よりも「事案の概要」を優先して押さえるようにしよう。

・判例学習上の留意点として、①結論だけでなく、②判例の前提となる具体的事実や結論に至るまでの理論構成の理解が大切です。判例学習において、規範部分のみならず、前提となる事実関係の把握が重要であることは他の科目も同様です。判例集学習のポイントを知りたい方はこちらの【記事】が参考になるかもしれません。

・答案作成上のポイントとして、「事実を単に拾い上げるだけでなく」として、単に事実を拾い上げることがやや非難されています。事実を拾い上げること自体は大切なことですが、規範との関係での重要性や事案に応じた評価が大切です。事実を指摘する際は、規範との関係と評価をよく考えるようにしましょう。

平成28年司法試験の刑法の分析

続いて平成28年司法試験の刑法です。

平成28年司法試験刑法で求められた能力等

・刑法の学習では、体系的な理解、すなわち基本概念の理解を前提に、各論点の問題の所在やその位置付け、相互関連性を理解することが不可欠。これらが不十分では、的確で説得力のある論述はできない。

・判例学習では、結論だけでなく、その判例の前提となる具体的事実、結論に至るまでの理論構成、そしてその判例が述べる規範の刑法の体系上の位置付けや妥当な適用範囲について理解することが必要。

・論文式試験では、暗記した論証パターンを単に書き写すだけの答案は、必要な法的思考能力や前述の重要性についての理解・認識が不十分であると指摘されている。

・法科大学院教育では、刑法の基本知識と体系的理解の修得に重点を置き、判例学習等を通じて具体的事案の検討を行うなど、多角的な検討を行う能力を養うことが求められている。さらに、論理的に矛盾しない、事案に応じた適切で妥当な結論を導き出す能力の育成も重要とされている。

コメント

各論点の問題の所在やその位置付け、相互関連性を理解する

かもっち

相互関連性を意識することは、記憶の観点からも有効だよ。
類似する制度や隣接テーマとの関係を考えてみよう。

・刑法学習の留意点が示されています。「各論点の問題の所在やその位置付け、相互関連性を理解する」ことが大切と指摘されています。問題の所在や答案では、問題提起で記述することになるが、各論点の問題意識をざっと整理しても良いかもしれません。問題の所在を理解することは、論点の抽出のためにも不可欠です。基本事項ですが、今一度復習をしても良いでしょう。

暗記した論証パターンを単に書き写すだけの答案」になっていませんか?

・また本年でも「暗記した論証パターンを単に書き写すだけの答案」が指摘されています。

最後に

いかがでしたでしょうか。今回は「法科大学院における今後の学習において望まれる事項(刑法)から重要と考えられる事項をピックアップし、解説をさせて頂きました。

読む前と後では、なんとなく何を意識して勉強するべきなのか分かってきたのではないでしょうか。

なお、採点実感や出題趣旨の分析や非常に大切です。今回は7年分を横断的に見ていきましたが、過去問を一問解いたら、必ず出題の趣旨と採点実感を分析するようにしましょう。

採点実感と出題の趣旨は試験作問者の公式見解です

ヒントになることがたくさんあります。勉強仲間とゼミを組んで分析をしても良いかもしれません。

採点実感と出題の趣旨を読み込むことは、過去問分析の必須の過程です。できれば自力で対応をしたいところですが、自力で難しい方は、下記の書籍やアガルートの過去問解析講座がおすすめです。気になる方はチェックして見てください。

かもっち

すべての年度の出題の趣旨と採点実感を読み込むのは大変だ。
下記の書籍を使ったり、自主ゼミを組んで分担をしたり、工夫をしてみよう。
予備校の過去問解説講義を受講してみるのもよいだろう。

「【採点実感まとめ】司法試験刑法の対策と留意点【7年間分】」への2件のフィードバック

  1. ピンバック: 【採点実感まとめ】司法試験行政法の対策と留意点【過去7年分】 – 法書ログ

  2. ピンバック: 【採点実感まとめ】司法試験刑事訴訟法の対策と留意点【過去7年分】 – 法書ログ

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