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朝日訴訟は、生活保護処分に関する裁決の取消訴訟を相続人が引き継ぐのか? また、憲法25条で定める生存権は具体的な権利なのか? が争点となった事件です。

最高裁は、相続人には引き継がれないことと生存権が具体的な権利ではないことを明示しました。

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目次

生存権とは?

憲法25条1項には、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と定められています。

この規定は、生存権を規定した規定と解されています。

生存権には、自由権的側面と社会権的側面があります。

  • 自由権的側面とは、国民が自らの手で健康で文化的な最低限度の生活を営む自由を有しており、国家はそれを阻害してはならないという意味です。
  • 社会権的側面とは、国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むことの実現を国家に対して求める事ができるという意味です。

生存権に自由権的側面があることは、総評サラリーマン税金訴訟(最判平成元年2月7日 集民 第156号87頁)で示されています。

では、社会権的側面はあるのでしょうか?

その点について、改めて最高裁の見解を示したのが朝日訴訟事件です。

生存権の社会権的側面についての学説

生存権の社会権的側面についてどう捉えるべきかについては様々な学説があります。主な学説は次の3種類です。

  • プログラム規定説
  • 抽象的権利説
  • 具体的権利説

一つ一つ確認しましょう。

プログラム規定説

憲法25条1項は国家に対して政治的義務以上の義務は定めていないと解する説です。

資本主義社会では自助の原則が妥当である上、予算にも限りがあるためです。

よって、憲法25条1項には法規範性も裁判規範性もないと考える説です。

抽象的権利説

憲法25条1項の法規範性は認める説です。

ただ、国民は、憲法25条1項を根拠にして裁判所に救済を求めることはできないと考えます。

憲法25条1項の規定は抽象的で、それのみでは裁判の基準にならないからです。

つまり、裁判規範性は認めないとする説です。

具体的権利説

憲法25条1項に法規範性はもちろん、裁判規範性も認める説です。

最もこの説でも、憲法25条1項に基づいて具体的な生活扶助を求める権利まで請求することはできず、法律が制定されていない場合に、立法不作為の違憲確認訴訟を提起することができるとする説が有力です。

憲法25条1項は、行政権を拘束するほどに明確ではないものの立法権を拘束する程度には明確であるためです。

事件の概要

昭和30年代に、Xさんは国立の療養所に入所しており、生活保護法に基づいて、生活扶助と医療扶助を受けていました。

ところが、Xさんの実兄から仕送りを受けられるようになったことから、生活扶助と医療扶助の金額を減らされたという事案です。

Xさん側は、変更後の金額が生活保護法で規定されている「健康で文化的な生活水準を維持することができるもの」とは言えないとして、当時の厚生大臣に不服申立を行いました。

しかし、この不服申立が却下されたことから、東京地裁に裁決取消請求訴訟を提起した事件です。

第一審は、厚生大臣による保護基準の設定は、憲法25条に由来する生活保護法の規定により拘束される「羈束行為」に当たるとして、保護変更決定は違法であるとして、厚生大臣による裁決を取り消しました。

第二審では、厚生大臣による保護基準の設定は、「羈束裁量行為」に当たるとして、保護基準は低額に失する感は否めないとしつつも、違法と断定できないとして、Xさんの主張を退けました。

その後Xさんは、上告したものの昭和39年に亡くなりました。

そこで、Xさんの相続人が訴訟を承継したという事件です。

最高裁の考え方

では最高裁はどのように考えたのか見ていきましょう。

生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は相続人が引き継ぐのか?

最高裁は、生活保護を受けていたXさんの相続人が訴訟を承継した点について、判断を行っています。

まず、生活保護法により保護を受ける権利について次のように判断しました。

  • 被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であり、譲渡したり相続の対象にならない。
  • 被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利も当該被保護者の死亡によって当然消滅し、相続の対象となり得ない。

よって、被保護者Xさんの死亡により訴訟は当然に終了する。と判断しました。

つまり、生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は相続人が引き継ぐことはないということです。

以上の点は行政法や民事訴訟法の論点なので押さえておきましょう。

そして、最高裁は、念の為として今回の主題である憲法25条の生存権について触れています。

憲法25条1項はどのような規定と捉えるべきか?

最高裁は、憲法25条1項は、「すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を賦与したものではない」との見解を示しました。

この見解では、具体的権利説は明確に否定していることがわかります。

一方で、プログラム規定説と抽象的権利説のどちらを採っているのかは明確ではありません。

ただ、最高裁が、この見解を示すに当たり引用しているのが、食糧管理法違反事件です(最大判昭和23年9月29日 刑集 第2巻10号1235頁)。

この判決は、一般的に、プログラム規定説の立場を採ったものと解されています。

この判決を引用していることから、最高裁は、プログラム規定説を採ったという見方もあります。

厚生大臣の裁量はどの程度認められるのか?

生活保護法による保護は、厚生大臣の設定する基準に基づいて行なうもの(生活保護法8条)とされています。

厚生大臣は、保護基準を定める権限がありますが、その基準を決めるにあたって、どの程度の裁量が認められているのでしょうか。

最高裁は、厚生大臣の定める保護基準は「憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するにたりるものでなければならない。」としつつ、具体的な内容は、「文化の発達、国民経済の進展に伴つて向上するのはもとより、多数の不確定的要素を綜合考量してはじめて決定できるもの」だとしています。

そのため、「何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、いちおう、厚生大臣の合目的的な裁量に委されている」と判断しました。

厚生大臣の裁量が違法となるケースはあるのか?

最高裁は、厚生大臣の裁量については、「当不当の問題として政府の政治責任が問われることはあつても、直ちに違法の問題を生ずることはない。」と述べています。

厚生大臣の裁量が司法審査の対象になるのか?

最高裁は直ちに違法にならないとしても、「現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法および生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によつて与えられた裁量権の限界をこえた場合または裁量権を濫用した場合」には、違法な行為として司法審査の対象となると判断しています。

まとめ

朝日訴訟は、生活保護処分に関する裁決の取消訴訟は相続人が引き継ぐことはないことを示した最高裁判決です。

憲法としては、生存権が具体的権利ではないことをはっきり示した判決として知られています。

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