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(挨拶おわり)
第一次家永教科書事件は、教科書検定が検閲に該当しないか、表現の自由の制限に当たるのではないか、学問研究発表の自由を侵害しないか、教師の教育の自由に対する侵害にならないのかの4点が争われた事件です。最高裁はいずれの点からも合憲であるとの判断を下しました。



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教科書検定とは、小学校から高校までの学校教育で使われる教科書について、文部科学省(事件当時は文部省)が検定を行い、教科書として認められたものだけが、学校教育の場で教科書として利用できるという制度です。
検定に不合格となった場合は、教科書として使うことはできませんが、一般の書籍として販売することは可能です。
憲法21条2項では、検閲を禁止しています。
では、検閲とは何でしょうか?
この点については、最高裁は税関検査訴訟(最大判昭和59年12月12日)において、次のように定義しています。
教科書検定は、文部科学省が主体となって教科書として発売される前に行われるため、検閲に当たるのでないかが問題となりました。
憲法23条の学問の自由の一つとして、学問研究発表の自由が保障されています。
教科書は、大学の教授などが自分の研究結果をまとめて書籍化するという意味もあり、学問研究発表の場ということもできます。
そのため、教科書検定は、学問研究発表の自由に対する制約になるのではないかという点が問題となりました。
憲法26条により、国民の教育を受ける権利と教育を受けさせる義務が規定されています。では、教育を行う主体は、国なのか、公権力がどの程度まで教育内容に介入できるのかという点が問題となります。
最高裁は、旭川学力テスト事件で教師に一定の教育の自由が認められるにしても完全な教授の自由は認められないとしています。そのうえで、国にも必要かつ相当と認められる範囲において、 教育内容についても決定する権能を有すると述べました(最大判昭和51年5月21日)。
この点、教科書検定を経た教科書のみを使うように求めることは教師に認められた教育上の裁量の余地を奪うものではないかという点が問題になりました。
東京教育大学教授の家永三郎氏は高校用の日本史の教科書を執筆し、三省堂を通じて教科書検定を受けたところ、1963年4月に文部大臣から検定不合格の処分を受けました。
そこで再度検定申請した際に、290箇所の修正指示を受けたため、これに応じて修正し、1965年から教科書としての発行が認められました。
こうした一連の教科書検定について、家永氏が憲法違反ではないかと問題提起し、訴訟に発展した事件です。
国に対して慰謝料等の国家賠償請求を求める形で提訴しました。
第一審は、検定制度を違憲とする主張は退けたものの修正指示に一部違法があったとして慰謝料請求の一部を認容しました。
第二審も、検定制度は違憲ではないとして、請求を棄却しました。
そこで、家永氏側が上告した事件です。
最高裁も上告棄却の判決を下しました。
どのように考えて上告棄却に至ったのか確認しましょう。
最高裁は、憲法21条2項の検閲の定義について、税関検査訴訟(最大判昭和59年12月12日)の定義を引用したうえで、教科書検定が検閲に当たるかどうかの判断を行いました。
教科書検定に不合格となった場合、高校等の教科書として発売することはできませんが、「一般図書としての発行を何ら妨げるものではなく、発表禁止目的や発表前の審査などの特質がない」として、検閲には当たらないと判断しました。
教科書検定が憲法21条1項の表現の自由の制約になるのではないかという点も問題になりました。
最高裁は、表現の自由は無制限に保障されるわけではなく、公共の福祉による「合理的で必要やむを得ない限度の制限を受ける」としたうえで、その制限が容認されるかどうかは、制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決めるべきとしています。
この点、普通教育の場においては、教育の中立・公正、一定水準の確保等の要請があり、不適切な図書は教科書としての使用を禁止する必要があると認定しました。
不適切とされた図書は教科書として発行することはできなくなりますが、一般図書としての発行は可能であることから、教科書検定による表現の自由の制限は、 合理的で必要やむを得ない限度のものということができ、憲法21条1項に違反しないと判断しました。
教科書検定は憲法23条で保障されている学問の自由の一つである「学問研究発表の自由」の制約になるのではないかという点も争われました。
最高裁は、教科書は、普通教育の場において使用される児童、生徒用の図書であり、学術研究の結果の発表を目的とするものではないとしています。
また、著者が研究結果の発表を意図していたとしても、「教科書の形態における研究結果の発表を制限するにすぎない」として、学問研究発表の自由の制約には当たらないと判断しました。
この点について、最高裁は旭川学力テスト事件(最大判昭和51年5月21日)を引用したうえで、教師にも「高等学校以下の普通教育の場においても、授業等の具体的内容及び方法においてある程度の裁量が認められる」としています。
一方で、国にも、「子ども自身の利益の擁護のため、 又は子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、子どもに対する教育内容を決定する権能を有する」と述べています。
教科書検定はその一環で国が行うもので、「単なる誤記、誤植等の形式的なものにとどまらず、記述の実質的な内容、すなわち教育内容に及ぶ」と判断しています。
ただ、普通教育の場では、「教育内容が正確かつ中立・公正で、地域、 学校のいかんにかかわらず全国的に一定の水準であることが要請される」としたうえで、教科書検定はその要請に答えるものだとしています。
そして、教科書検定を経た教科書を使用することは、教師の授業等における裁量の余地を奪うものではないとして、憲法26条にも違反しないと判断しました。
第一次家永教科書事件は、教科書検定が、
といった点が争われました。
最高裁は、いずれにも該当せず、合憲であるとの判断を下しました。
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