「判例百選」は重要判例についてまとめてあり、司法試験のみならず実務に出てからも必携すべき書籍の一つです。
しかし、「判例百選」を使いこなすのは案外難しく、そもそも読みこなせないという人や、読んでるはずなのに答案で活かしきれていないという人も多いのではないでしょうか?
本記事では、そんな「判例百選」を答案で活かすためのまとめ方(使い方)を紹介します!
この記事を読めばこんなことが分かる
・「判例百選」を使った勉強方法が分かります
・「判例百選」を使う際のポイントが分かります
・「判例百選」を使った勉強の事例を見ることができます
「判例百選」に依拠して説明しますが、このまとめ方は司法試験の答案作成を念頭に置いているため、他の書籍においても十分活用できると思います。
目次
判例百選の効果的なまとめ方|答案に直結する5パート
「判例百選」では、「事案、判旨、解説」の3パートで構成されています。
答案で判例を反映するためには、さらに細分化し5つのパートに分けて、まとめていきます。
≪まとめる際に分けるパート 5つ≫
パート① 事案の概要
パート② 訴訟物
パート③ 適用条文と要件事実
パート④ 争点
パート⑤ 判旨
以下で各項目について説明します。
パート①事案の概要
「事案の概要」は「判例百選」で、すでにまとめられていますが「判例百選」を答案で使いこなすには、事案もある程度覚える必要があります。
司法試験では、何百もの判例を覚える必要がありますが、「判例百選」の「事案」では長すぎて、とても全てを覚えられるとは思えません。実例紹介パートで後述しますが、規範部分が判例としての価値をもつものに関しては、もっと簡潔に一行、二行でまとめる程度で十分です。
パート②訴訟物
続いて「訴訟物」です。
「訴訟物」とは、「原告が訴状で提示し、裁判所が判決の結論としてその存否を判断すべき権利(ないしその主張)」(『基礎からわかる民事訴訟法第2版』和田吉弘著 商事法務)をいいます。具体的には、売買契約に基づく代金支払請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権などがあります。
「判例百選」では、判例の事件番号の横に書いてありますので、そこを見れば足ります。
パート③適用条文と要件事実
次に「適用条文」と「要件事実」です。
権利が認められるためには、要件をすべて満たす必要がありますので、答案では要件を一つずつ検討していきます。そのためには要件を覚えてなければいけません。覚えていない場合には、適用条文を基に要件を導きます。
刑法では「構成要件として逐一要件を検討する癖が付いている人」でも、民事になると論点に飛びついて、全ての検討ができていない人が多数見受けられます。
「要件事実」を使いこなせている人は、何を検討していけばよいのかが分かっているので、悩む時間が減ります。
先ほど確認した「訴訟物」をもとに、「要件事実」の本で「要件事実」を確認します。民法なら『要件事実マニュアル』(岡口基一 ぎょうせい)、会社法なら『要件事実会社法』(大江忠 商事法務)などがあります。
パート④争点
「要件事実」まで整理できたら、判例がどの「要件」について述べているかを確認します。すなわち「どの要件が争点となっているのか?」を把握します。
試験で「判例」と同様の事案が出たら、その「要件」が厚く書くべき箇所になります(答案上では“問題提起”に相当する部分です)。
「判例百選」では、解説パートの冒頭で「~について判断した」等の形で触れられていることが多いので、「どの要件に関する争点か?」を特定しましょう。
パート⑤判旨
「判旨」では、「規範」について述べている部分と「当てはめ」について述べている部分があります(両方とも記載しているものもあれば、片方のみを記載しているものもあります)。
「規範」部分で有名なものについては、予備校の「論証集」等でまとめられていることもありますので、それらを利用して答案で書けるよう暗記しましょう。上記の整理ができていれば、「論証」を書く場面がイメージできているので、覚えやすくなるはずです。
「当てはめ」部分については、「どの事実を対象としているか?」や「かかる事実をどちらの方向(要件を充たす方向か、要件を充たさない方向か)に評価しているか?」を箇条書きにしてまとめていくことで足ります。
「規範」部分:「論証集」等を利用して答案で書けるよう暗記しましょう
「当てはめ」部分:以下を箇条書きにしてまとめていくことで足ります
・どの事実を対象としているか?
・かかる事実をどちらの方向(要件を充たす方向か、要件を充たさない方向か)に評価しているか?
試験において、「判例」と同じ事情が出ることもありますが、「判例の射程」を問うために微妙に異なる事情を出すこともあります。「当てはめ」を逐一覚えるのではなく、類型化して抑えていくことが効果的です。
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判例百選の効果的なまとめ方|実例紹介
「要件事実」の思考は、民事系では非常に重要となってきます。
以下では、筆者が司法試験対策として実際にまとめたもの(商法)を紹介します。
【準共有株式の権利行使者の確定(百選12)】
パート①事案の概要:コンパクトにまとめる
株式会社の3分の2の株式を有する株主が死亡し、その相続人A、Xの2人が各2分の1の割合で株主を相続したが、遺産分割が未了であるため準共有に属する状態であった。
このような中で開催された臨時株主総会で、Aは準共有株式のすべてについて議決権行使をした。一方、Xは会社に対し、出席できない旨及び本件総会は無効である旨を通知して欠席した。権利を行使する者の指定及び会社に対するその者の氏名又は名称の通知はされていなかったが、株式会社は、本件総会におけるXの単独の議決権行使に同意した。
残りの3分の1の株主権も行使され、取締役選任決議、代表取締役選任決議、定款変更決議がなされたところ、Xが株主総会の決議の方法に法令違反があるとして株主総会取消訴訟を提起した。
初めはこのくらいの文量になってしまうかもしれません。
しかし、同じ事案に2回3回と触れていく中で、事案の主要部分が段々と分かってきます。
当該事案ならば、「準共有状態」「権利行使者の指定なし」「株主の一方の議決権行使」「会社の同意」が重要な要素となってきます。
あとは、これらを短くまとめるだけです。
準共有かつ権利行使者の指定等がない状態で、株主の一人が行った議決権行使を会社が同意したため、決議方法の法令違反を理由に株主総会取消訴訟を提起した事案
事案を細部まで覚えようとするのは素晴らしいことですが、暗記を念頭にまとめていきましょう。
当てはめで重要な判断をした判例では、答案で使えるようにするため、細かい事情をおさえる必要があります。しかし、「規範」で重要な判断を示した判例は、答案作成時に論点に気づくことの方が重要です。どんな事案か大体分かるくらいのクオリティで良いので、このくらいコンパクトにすることを目標にしてみましょう。
パート②訴訟物:訴訟物を明らかにする
会社法831条1項1号に基づく株主総会取消請求権
パート③適用条文と要件:適用条文と要件を整理
適用条文:831条
要件
831条
- 原告適格(株主であること)
- 期間制限(総会決議の日から3か月以内であること)
- 請求の趣旨記載の決議の存在
- 取消事由の存在(株主総会の決議の方が法令に違反していること(1号))
106条
- 株式が2人以上の共有に属すること
- ⓐ株式の権利行使者を定め、氏名または名称を通知すること(本文)
- ⓑ会社が権利行使に同意したこと(ただし書)
パート④争点:どの要件が争点となっているのか?を把握
106条に基づく「指定及び通知」を欠いたままされた、本件議決権行使が、同条ただし書の会社の同意により適法なものとなるか?
パート⑤判旨:規範と当てはめ部分を整理
[規範部分]
ⓐ 106条本文は、共有に属する株式の権利の行使の方法について、民法の共有に関する規定に対する『特別の定め』(264条ただし書)を設けたものと解される。
ⓑ そして、106条ただし書は、株式会社が当該同意をした場合には、共有に属する株式についての権利の行使の方法に関する特別の定めである同条本文の規定の適用が排除されることを定めたものと解される。
⇒共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は適法となるものではない。
ⓒ 共有に属する株式についての議決権行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式の処分や内容変更となるなどの特段の事情がない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条により、各共有者の持分価格に従い、その過半数で決せられるものと考える。
[当てはめ]
ⓓ 本件議決権行使は、①取締役の選任、②代表取締役の選任、③本店の所在地を変更する旨の定款変更及び本店の移動であるから、特段の事情には当たらず、持分価格の過半数をもって決せられるべき。
⇒議案の内容が、「株式の管理」に当たるかを当てはめで確認している。
ⓔ Aは2分の1の相続分しか有しておらず、Xは議決権行使に同意していないから、当該議決権行使は過半数には当たらない。会社が同意しても適法となるものではない。
[小括]
ⓕ 本件決議の決議方法は、法令(106条)に反するものであり、取消事由が認められる。
今回の事案は、ⓐ~ⓒが規範部分で、ⓓ~ⓔが当てはめ、ⓕが小括で構成されています。
規範部分で重要な判断を示した判例ですので、規範部分が暗記の対象となります。
適宜、自分が理解しやすいようにメモをして一元化します。
また、疑問等が出た際もメモをし、回答が出たら付記していくことで自分だけの判例解説が完成していきます。
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最後に
司法試験に合格するためには、まとめたものを答案に反映させなければなりません。
判例百選をまとめただけで終わりではなく、整理してまとめたものを何周も見返して、記憶を定着させる必要があります。
判例をまとめた後は、どんな事案だったか、訴訟物は何か、適用条文と要件は何だったか、どの要件が争点となっていたか、判旨はどのように述べていたかを自力で導き出せるように訓練しましょう。
自力で導ける状態になれば、答案にも反映することが十分可能ですので、その判例理解は司法試験合格水準に到達しています。
全科目、全判例を上記のようにまとめられれば、上位合格間違いなしですが、それには多大な労力を要します。まずは、自分でも作れそうと思う判例や、超重要な判例に限定してまとめていくことから始めてみてはいかがでしょうか?
この記事を読んで、少しでも判例百選に対するハードルが下がってくれたなら嬉しいです。
引き続き勉強頑張ってください。
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