「強盗と恐喝って、なんとなく似てるけど、どこが違うんだろう…?」
「『反抗を抑圧する暴行』って具体的にどんなことを指すの?ちょっと難しそう…」
「『強盗罪』と『恐喝罪』が試験で出たら、どうやって違いを論述すればいいんだろう…?」
法書ログライター様執筆記事です。
前回までの刑法論点解説記事
・刑法の因果関係の重要判例3選と論述のポイント
・【刑法】共犯論の理解に必要な前提知識-共犯論#1
・【刑法】共謀共同正犯を分かりやすく解説-共犯論#2
・共同正犯の錯誤をどこよりも分かりやすく解説 共犯#3
・【論証例】承継的共同正犯論をどこよりも分かりやすく解説 共犯#4
・【未遂犯】クロロホルム事件の理解と論述のポイント
・不作為犯の重要判例と論述のポイント
・【初学者】窃盗罪の「占有」の有無の判断方法と論述のポイント
・【初学者向け】不法領得の意思の判断方法と論述のポイント
・【初学者向け】強盗罪の暴行・脅迫の意義を分かりやすく解説←イマココ
はじめに-強盗と恐喝の違い
(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
強盗は意外と身近な犯罪です。コンビニかガソリンスタンドでアルバイトすれば、一度は防犯対策の講習を受けることになるでしょう。ニュースで見かける頻度が最も多いのもコンビニ強盗でしょう。
この意味で、強盗という犯罪は、容易に想像できるものでしょう。
しかし、法律を学ぶ者は、もっと深い理解をしなければなりません。
具体的には、恐喝となにが違うのか。
まず、以下の判例をお読みください。
強盗の意義に関する重要判例(昭和23年11月18日)
事案の概要
被告人Xら3名は共謀の上で、1名はナイフ、残りの2名は草刈り鎌を、被害者Vに突き付け、「静かにしろ」、「金を出せ」などと脅迫した。Vはこの脅迫に畏怖して、現金や腕時計などを強奪された。
起訴され、原審がXらには強盗罪を認めたのに対して、弁護人が、「強盗罪においては被害者の身体及び精神が絶対に制圧されたことを要する」と主張し、「Vには自由の余地が残っていたのであるから、恐喝罪が適用されるべき」として上告した。
判旨
強盗罪の成立には①被告人が社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る暴行又は脅迫を加え、②それに因つて被害者から財物を強取した事実が存すれば足りるのであつて所論のごとく被害者が被告人の暴行脅迫に因つてその精神及び身体の自由を完全に制圧されることを必要としない。
原判決は「被告人等が社会通念上被害者の反抗を抑圧するに足る脅迫を加え、これに因つて被害者が畏怖した事実をも明に説示して手段たる脅迫と財物の強取との間に因果関係の存することをも認定している」から正当である。
強盗罪と恐喝罪の違い
この事案において弁護人は「Xには恐喝罪が適用されるべき」だと主張しています。はっきり言えばそんなわけがないと思われることでしょうし、実際にそんなことはありません。では、なぜこんな主張をしたのでしょうか。
まず強盗罪と恐喝罪の違いについて理解する必要があります。
強盗罪は窃盗罪と並んで、相手方の意思に反して物の占有を奪う犯罪です。
一方で、恐喝罪は詐欺罪と並んで、相手方に意思に基づいて物の交付を行わせる行為であり、その交付行為を行う意思を芽生えさせる方法が不正であるから罰されるものです。
昭和23年判例事案での弁護人の主張は、このような違いを踏まえれば、理解できます。
強盗罪の構成要件
最狭義の暴行・脅迫
しかしながら、判例は弁護人の解釈とは異なる結論を出しました。
判例は、強盗罪の暴行を「社会通念上、被害者の反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫」と定義しました。
強盗罪を適用するためには、反抗を抑圧する強度の暴行・脅迫を必要とするのは認めましたが、その判断は被害者の主観ではなく、社会通念に従い客観的に行うものとしたのです。
因果関係
昭和23年判決では、他の要素も触れられています。強盗罪の構成要件を整理すれば、以下の通りとなります。
・被害者の反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫(最狭義の暴行・脅迫)
・財物の占有の移転
・上二つの間の因果関係
・故意及び不法領得の意思
ここで、判例では、実際に被害者の反抗が抑圧される必要はなく、ただ暴行・脅迫と物の奪取との間に因果関係があればいいとしています。
つまり、最狭義の暴行・脅迫によって被害者が畏怖して財物を差し出した場合には、因果関係が認められるから、強盗罪が成立します。
本題:強盗罪の暴行・脅迫
「反抗を抑圧するに足る暴行」の典型例は、被害者を拘束してしまうことです。そもそも物理的に反抗を不可能にしてしまえば、相手方の意思を無視して財物を奪い取ることができます。
このように、物理的に反抗を不可能にする場合を、物理的抑圧型と呼びます。
また、暴行や脅迫で畏怖させて、相手方の反抗意思を喪失させてしまうタイプのことを心理的抑圧型と呼びます。
そして、物理的・心理的両面から抑圧する場合を、混合型と呼びます。なお、物理的抑圧は多くの場合、心理的抑圧も伴いますので、混合型と扱われることが多いでしょう。
実際に論述する際には、その暴行・脅迫が、どのように反抗を抑圧すると考えられるかを具体的に考える必要があります。物理的な抑圧と心理的な抑圧について、それぞれ具体的事実を適示しましょう。
考慮要素
具体的には、以下の要素を総合的に検討します。
・暴行・脅迫の態様
・被害者と加害者の体格等
・犯行状況(犯行時刻、場所)
・その他
暴行・脅迫の態様
最も重要なのは、暴行・脅迫の態様です。
刃物や銃など、致死的な凶器を用いた場合には、心理的抑圧の可能性がかなり高いと考えられます。人間なら誰しも死にたくないはずですので、そのような脅迫はかなり効きます。したがって、凶器を用いた暴行・脅迫の場合には、原則として最狭義の暴行・脅迫だと認められます。
また、物理的に拘束してしまった場合には、物理的に反抗が完全に抑圧されることになるので、原則として強盗罪の実行としての暴行と認められます。
これ以外の場合では、以下のような暴行の態様および他の要素を総合判断していきます。
・暴行の強さ
・暴行の執拗さ
・暴行の位置(頭部などの急所を狙ったかどうか)
犯行現場の状況
暴行・脅迫の態様が最も重要ですが、これだけでは判断できないという場合には、次に、犯行現場がいつ・どこであったかをあてはめ、他人に助けを求めることで抵抗し得る状況だったかを評価することになります。
具体的には、場所的要素として、屋外・屋内のいずれであるかによって次のように検討します。
屋外の場合には、人通りや人家があるか、そして犯行時刻が昼間や夕方などであるかを考え、他人に助けを求められるかを考えます。
屋内の場合には、犯人と被害者以外の眼につくことがないため、他人に助けを求めづらい状況と言えます。更に、屋内に他人がいるかどうかを検討して、評価していきます。
被害者と加害者の体格・人数等
被害者と加害者の属性も、考慮要素となります。
具体的には、以下の要素を見ていきます。
・人数
・性別、年齢、体格
・犯人の容姿
・犯人と被害者との関係
犯人の容姿については、具体的には、暴力団風の容姿や覆面など、畏怖を煽るようなものであった場合のことを指しています。
その他
前述した通り、実際に被害者の反抗が抑圧されている必要はありません。刃物で脅せば、それだけで原則として強盗罪の脅迫が認められます。しかしながら、実際に被害者の反抗が抑圧されたという事実が問題文中にあれば、それは暴行・脅迫が「犯行を抑圧するに足る」ものであったことを推認させる事実になります。
逆に、被害者が抵抗を継続したり、犯人を返り討ちにしたりといった事実があれば、それは「反抗を抑圧するに至らない」ことを推認させることになります。
したがって、実際に被害者の反抗の有無も、総合判断の考慮要素の一つとなります。
今回の重要ポイント
①強盗罪の暴行・脅迫とは「社会通念上、反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫」です。
②実際に反抗を抑圧される必要はありません。
③凶器の利用・身体の直接拘束のいずれかがあれば、強盗罪の暴行・脅迫と言えます。
④それ以外の場合には、問題文中の事情を考慮して、総合的に判断します。
おわりに、に代えての余談
「反抗を抑圧」がずっと「犯行を抑圧」に誤変換されて難儀しました。
さて、話が散らかるので本文に書かなかった余談があるのですが、せっかくなのでここで書きます。
民法の話です。
民法96条は強迫による意思表示の取消しを認めていますが、この条文は、脅迫により表意者が意思の自由を完全に失っていた場合には適用されません。(最高裁昭和33年7月1日)。その場合には、意思表示は当然無効となるのです。
民法96条は、強迫により、瑕疵ある効果意思が生じた場合の規定です。一方で、意思の自由が失われた状態での意思表示は、効果意思がそもそも存在しないと考えられます。
意思に瑕疵がある場合には、意思表示の取消しが認められます。一方で、意思が欠ける場合には、意思表示は無効です。
本文で見てきた強盗罪と恐喝罪の違いに概ね対応するものです。参考にしてみてください。
ただ、意思表示の無効は実際に意思が制圧される必要があったりと、細かい違いはあるので、混同しないように注意してください。
では、ここまでお読みいただきありがとうございます。
▽参考文献▽
・大塚裕史ほか『基本刑法II 総論[第3版]』(日本評論社、2019)
・大塚裕史『応用刑法II 総論』(日本評論社、2023)
・『アガルートの司法試験・予備試験合格論証集 刑法・刑事訴訟法』アガルートアカデミー編著(サンクチュアリ出版、2020)
・佐伯仁志・橋爪隆編『刑法判例百選II[第8版]総論』(有斐閣、2020)
・近江幸治『民法講義I(第7版)』(成文堂、2018)