違法収集証拠排除法則の重要判例と論述のポイント

『違法収集証拠排除法則の重要判例は?』

『違法収集証拠排除法則の論述のポイントは?』

『違法収集証拠排除法則の基礎基本を理解したい』

 違法収集証拠排除法則は、捜査分野の知識も必要とされる難解なテーマの一つです。また、司法試験・予備試験において頻出のテーマであり、今後も出題が予想されます。

そこで、本稿では違法収集証拠排除法則の重要判例と論述ポイントについて述べていきます。

かもっち

ココは押さえておきたい項目ですね!

違法収集証拠排除法則とは

違法収集証拠排除法則とは、「違法な捜査方法によって獲得された証拠の証拠能力を否定する法準則」です。

証拠能力が否定されると、刑事訴訟法317条にいう「証拠」にあたらず、これを事実認定に用いることはできません。また、原則として、令状請求の際における疎明資料としても用いることができなくなります

違法収集証拠排除法則の重要判例

違法収集証拠排除法則の重要判例: 最判昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁

事案

午前零時35分頃、パトカーで警ら中の巡査が、ホテル付近の路上に被告人運転の自動車が停車しており、運転席の横に3~4人の男がいて、被告人と話しているのを認めた。

巡査は、被告人に職務質問をすることにし、被告人に運転免許証の提示を求めたところ、被告人は窓越しに運転免許証を提示した。

巡査が車内を見ると、ヤクザの名前と紋の入った袱紗様のものと、賭博道具の札が入っているのが見えたので、他にも違法なものを持っているのではないかと思い、また、その様子などからして、被告人は覚せい剤中毒者の疑いもあったので、降車を求めた。

降車した被告人に所持品の提示を求めると、被告人は、「見せる必要はない」といって拒否し、先程の男が近づいてきて、「お前らそんなことする権利あるんか」などと罵声を浴びせ、挑戦的態度に出た。巡査の所持品提示要求に対して、被告人はぶつぶつ言いながら、右側内ポケットから目薬とちり紙を取り出して巡査に渡した。

巡査は、巡査に対して何も言わなかった被告人の上衣とズボンのポケットを外から触ったところ、左側内ポケットに何か硬い物が入っている感じで膨らんでいたので、その提示を要求した。これに対し、被告人は黙ったままであったので、巡査が「それなら出してみるぞ」と言ったところ、被告人は何かぶつぶつ言って不服らしい態度を示していたが、巡査は被告人の上衣左側内ポケット内に手を入れて取り出してみると、ちり紙の包、注射針を見つけた。

ちり紙の包の中には、ビニール袋入りの覚せい剤があり、被告人は覚せい剤不法所持の現行犯人として逮捕され、覚せい剤が差し押さえられたのち、起訴された。

第一審は、不法所持の証拠たる覚せい剤は、違法な手続きによって収集された証拠物であるとして、その証拠能力を否定し、覚せい剤所持の公訴事実については無罪を言い渡した。控訴審についても、第一審の判断を支持した。これに対し、検察官が上告した。

判旨①

「違法に収集された証拠物の証拠能力については、憲法及び刑訴法に何らの規定もおかれていないので、この問題は、刑訴法の解釈に委ねられているものと解するのが相当であるところ、……証拠物は押収手続が違法であっても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変わりのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。しかし、他面において、事案の真相の究明も個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法35条が、憲法33条の場合及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法31条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法35条及びこれを受けた刑訴法218条1項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。

判旨②(本件あてはめ)

「……被告人の承諾なくその上衣左側内ポケットから本件証拠物を取り出した……行為は、職務質問の要件が存在し、かつ、所持品検査の必要性と緊急性が認められる状況の下で、必ずしも諾否の態度が明白ではなかった被告人に対し、所持品検査として許容される限度をわずかに超えて行われたに過ぎないのであって、もとより同巡査において令状主義に関する諸規定を潜脱しようとの意図があったものではなく、また、他に右所持品検査に際し強制等のされた事跡も認められないので、本件証拠物の押収手続の違法は必ずしも重大であるとはいいえないのであり、これを被告人の罪証に供することが、違法な捜査の抑制の見地に立ってみても相当でないとは認めがたいから、本件証拠物の証拠能力はこれを肯定すべきである。」

重要判例の解説

本判決は、最高裁判所として初めて違法収集証拠排除法則を採用し、その採用目的と排除基準を示したものです。

判旨①はその採用目的と排除基準を示し、判旨②はその基準を用いた本件における判断を示しています。

判旨①が示している通り、証拠獲得に際して違法な手続が用いられたとしても、原則として、その証拠物に何ら変化はありません。よって、違法な手続によって獲得された証拠物すべてにつき、証拠能力を否定することは、刑事訴訟法の目的に照らしても妥当ではなりません。

しかし、本判決は、憲法や刑事訴訟法が規定する令状主義の趣旨や適正手続きの保障、及び将来における違法捜査抑制の見地から、証拠能力が否定される場合があるとしています。

その検討に用いられる基準が、令状主義の精神を没却するような重大な違法があるかという基準(違法性の基準)と、証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められるかという基準(相当性の基準)です。

この二つの基準は、分けて検討するのが通常であり、二つの基準を両方満たす場合にのみ、証拠能力が否定されると考えられています。判旨②からもわかる通り、本判決は証拠物の証拠能力を肯定しました。

これは、本件において、巡査に令状主義の潜脱の意図がなかった点、及び、職務質問における許容限度を超えた程度が大きくなかったという点が考慮されています。

本判決を参考に、どのような事情が、どのように評価されているのかを、事案の概要と照らし合わせて、考えてみると良いでしょう。

違法収集証拠排除法則の論述ポイント

違法性の基準について

本判決は、排除基準との一つとして、違法性の基準を挙げていますが、その違法性は、「令状主義の精神を没却するような重大な違法」であり、単なる違法性ではなりません。

排除法則を検討する際は、問題文の事実を抽出し、その評価をしたうえでこのような重大な違法があるかを論述する必要があります。

本判決は、手続違反がなされた際の状況、手続違背の程度、手続違背の有意性、違法行為の態様を考慮しています。このような点に注目して検討すると説得的な論述ができます。

また、本判決とは異なり、証拠排除の結論に至った平成15年2月14日刑集57巻2号121頁は、警察官が、手続的な違法を糊塗するため、逮捕状に虚偽の記入をし、内容虚偽の捜査報告書を作成したうえ、公判廷において事実と反する証言をした点を考慮し、違法の程度が重大であると評価しました。

本判決と、平成15年判決の事案の違いを意識できるとより良い記述ができるでしょう。

そして、原則として、検討される違法性は、証拠獲得手続における違法性で、証拠獲得後の違法性は考慮されません。この点に、注意する必要があります。

相当性の基準について

上述の通り、違法性の基準が満たされたとしても、相当性の基準が満たされなければ証拠能力は否定されません。

論述の際は、違法性の基準を検討した上、相当性の基準を検討するのが分かりやすいでしょう。

相当性の基準は、結局ところ証拠排除による不利益と将来の違法捜査抑制という目的との利益衡量といえます。

その際には、当該手続が一過性のものか、将来においても頻発するおそれのあるものか、捜査機関の法規定潜脱の意図の有無に加え、当該証拠と手続違反との間の因果関係の程度が考慮要素となります。

その他にも、当該証拠の重要性も挙げられますが、証拠が重要であれば証拠能力を否定しないとするのでは、排除法則は形骸化してしまいます。あくまでも、利益衡量における、考慮要素の一つとして検討しましょう。

おわりに

本稿では、違法収集証拠排除法則の重要判例と論述のポイントについて述べてきました。特に本テーマは、司法試験・予備試験でも頻出の論点で、他の受験者と差が付くのはそのあてはめ部分だといえます。

そこで、本稿を読むことで、まずは基礎を固め、しっかりとした土台作りをしましょう。

本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

参考文献

酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)。

小木曽綾「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』204-205頁(有斐閣、2017)。

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