今回は、法学部生なら誰でも知っているであろう憲法の基本書である「芦部憲法」で親しまされている芦部信喜『憲法』をご紹介したいと思います。第7版が2019年3月に発売されています。法学部に入学して初めて購入した基本書が、芦部憲法という方も少なくないはずです。今回は、この芦部憲法について、当サイトに投稿されたレビューとともに評判などを紹介をさせて頂きます。
目次
芦部信喜『憲法』(芦部憲法)の基本情報
芦部信喜『憲法』の基本情報は次のとおりです。気づけば第7版まで出版されております。
- 出版社 : 岩波書店 (2019/3/8)
- 発売日 : 2019/3/8
- 本の長さ : 508ページ
- 芦部信喜:1923年、長野県に生まれる。1949年、東京大学法学部卒業。1963年、東京大学法学部教授。以後、学習院大学法学部教授、放送大学客員教授を歴任。1999年、逝去
- 高橋和之:1943年、岐阜県に生まれる。1967年、東京大学法学部卒業。1984年、東京大学法学部教授。2006年、東京大学名誉教授
▽出版社からのコメント▽
■なぜ「名著」と呼ばれるのか
芦部信喜博士は、憲法訴訟論という新しい研究領域を開拓し、長年にわたり憲法学をリードしました。その芦部憲法学のエッセンスを凝縮し、到達点をコンパクトにまとめたのが本書です。1999年に芦部氏が逝去されてからは弟子にあたる高橋和之氏が補訂を施し、現在も憲法学の通説を把握するうえで必読の地位を保っています。文章は平易でありながら含蓄深く、読み返すごとに新たな発見があること。定義がしっかり書かれていること。本書のこうした特長は、憲法のあり方や解釈をめぐる繊細かつ根源的な議論が必要な今、真に重要な要素です。教科書・参考書に、定評ある「芦部憲法」の最新版をぜひご利用ください。
Amazon商品紹介「出版社からのコメント」
芦部教授は憲法学の大家
著者は戦後の日本の憲法学会を牽引された大家です。大分前にお亡くなりになったので、現在はお弟子さんが改訂に携わっておられます。その場合も本文に手はつけずに、著者の意図を最大限尊重する形での改訂がなされています。
二昔前までなら、司法試験(憲法)でも最大のシェア率を誇りましたが、今は通読していない方も多いです。理由は上述の通りに著者がかなり前に逝去されたため、(改訂されているとはいえ)現在の学説をピックアップできていないからです。
しかし、憲法のエッセンスは色褪せていないため、一読の価値はあるかと思います。
憲法のスタンダード
賛否ありますが、憲法の基本書の中で最も有名な書籍と言っても全く過言ではなく、そのシェア率から言っても憲法のスタンダードと言っても差し支えないかと思います。
芦部先生による憲法の定番です。憲法学の論点が網羅され、教科書的に使用できます。分量は比較的コンパクトでメリハリのある一冊です。縦書きに慣れている方にはスムーズに読み進められますが、縦書きに苦手な方でも内容はわかりやすくなっています。法律初学者から法学部生、法律資格を目指す方など、幅広い層に読んでもらいたい憲法に欠かせない良書です。
憲法といえば、こちらの圧倒的支持を得ている芦部先生の本書。ちょうどいい分量かつ内容も充実した良書で、初学者の方から法学部、法律資格受験生まで、すべての方に読んでいただきたい一冊です。
論点が網羅的にまとめられので、全体を通じて憲法学をしっかり学習することができます。
憲法の土台として、第一歩として、まずはこちらの本書から読み進めてはいかがでしょうか?
通読は難解か?
法学部に入学してすぐ購入されることが多いと思いますが、初学者には難しい内容かもしれません。そもそも縦書でハードカバーで重厚感があり、芦部憲法から憲法の勉強を始めるのは少し抵抗があるかもしれません。
芦部信喜教授といえば、憲法学の大家にして巨頭。その手になる本書は、憲法の基本書のスタンダードとされてきました。憲法の講義で教科書に指定されることも多く、私を含めた多くの憲法学習者にとっての最初の一冊であろうと思われます。
頁数は412頁ですが、フォントが大きい為、思いの外早く通読できました。本文の記述についても、端的で簡潔。長谷部恭男教授の「支配的な見解の標準的な記述ということで定評」【注1】があるとの評価に、私も賛成します。
しかし、以下のようなマイナスポイントも存在するように思われます。
一つ目は、記述が簡潔な分「行間が広い」ことです。前提知識無しでは、読んでいて疑問を感じることもしばしばでした。
例えば長谷部教授は、本書を読む際に気をつけるべき記述の一例として、定義づけ衡量についての解説を挙げます【注2】。
即ち本書では、定義づけ衡量とは「(わいせつ文書ないし名誉毀損についても)表現の自由に含まれると解したうえで、最大限保護の及ぶ表現の範囲を確定していくという立場である」【注3】としています。しかしこの記述では、「表現の自由の保障を受けるわいせつ文書などの規制についても、内容規制として厳格審査すべし」との意見に見えてしまい、定義づけ衡量をする意味が無くなってしまいます。そのような意図でないことは、芦部教授の体系書にある「(定義づけ衡量による)この定義に該当しないかぎり性表現にも憲法の保障を及ぼしてゆく必要がある」【注4】との記述から読み取れるのですが、本書の記述はややミスリーディング。本書を読んでいて、私自身混乱しました。
二つ目は、本書の記述の一部は、2020年現在では「支配的な見解」と言い難いことです。高橋和之教授が本文に手を加えない補訂方針を採っていることも、その理由の一端でしょう。
その代表例が、規制目的二分論をめぐる森林法判決の読み方です。
規制目的二分論は、概略「積極目的規制(福祉国家の理念のもと、弱者保護や社会経済の 発展のために行う規制)→合理性の基準=緩やかな審査/消極目的規制(国民の健康や安全に対する危険を除去す るために行う規制)→厳格な合理性の基準=比較的厳しい審査」【注5】との枠組みを唱えます。しかし、森林法判決において最高裁は、森林法186条の立法目的を「森林経営の安定化を図り、(中略)もって国民経済の発展に資すること」としつつ、規制手段の必要性・合理性につき、合理性の基準より厳しい基準に基づき審査を行いました。
本書では、森林法について「むしろ消極目的規制の要素が強い」【注6】としていますが、これには批判が強い所です【注7】。規制目的二分論に照らせば本件規制は積極目的と考えられますし、この見解が近時の基本書等においては一般的ではないでしょうか【注8】。その上で、長谷部教授のベースライン論など、本判決を規制目的二分論の枠組みにおいて理解する試みが注目されます【注9】。
以上は、決して本書の価値を否定する趣旨ではありません。簡潔な記載はなおも有用ですし、私自身、注釈でなされる判例解説を択一試験に活用できています。しかし、現在は憲法の基本書も充実しています。他の選択肢についても、検討してみる余地はあろうかと思います。
【注1】長谷部恭男『続・interactive 憲法』(有斐閣、2011年)47頁
【注2】長谷部前掲注1、47〜49頁。
【注3】芦部信喜『憲法(第7版)』(岩波書店、2020年)198頁。引用中()内は引用者。
【注4】芦部信喜『憲法学Ⅱ』(有斐閣、1994年)232頁。引用中()内は引用者。
【注5】積極目的、消極目的の定義について、新井誠ほか『憲法Ⅱ 人権』(日本評論社、2016年)183頁を参照した。
【注6】芦部前掲注3、244頁。
【注7】本書の見解を「無理のある読み方」と断じる、宍戸常寿『憲法解釈論の応用と展開(第2版)』(日本評論社、2014年)158〜159頁を参照。
【注8】例えば基本書につき、新井ほか前掲注5、195頁。他に、安西文雄ほか『憲法学読本(第3版)』(有斐閣、2018年)185頁、長谷部恭男『憲法(第7版)』(新世社、2018年)248頁、樋口陽一『憲法(第3版)』(創文社、2010年)254頁など。本書補訂者の高橋も、本件規制を積極目的と解する。高橋和之『立憲主義と日本国憲法(第5版)』(有斐閣、2020年)294頁。
【注9】長谷部前掲注8、253頁〜。
短答対策として
司法試験委員会からすると、あまりにも著名な芦部憲法に記載されている知識を出題しても問題はないだろうという考えかもしれません。短答知識を確認する際にも有用なようです。
もちろん通読しています。この一冊での芦部憲法については色々な評価がされているところだとは思いますが、私としては論文対策では使わないかな、と思います。審査基準について、他の箇所との整合性が取れているのか、疑問のところもあります。ただ、やはり、この本の影響力は強く、判例ではなく学説が聞かれた場合の短答の問題については、解いた後、この本の記載を参照することは結構あります。
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なんと、憲法の名著である、芦部憲法ですが、耳で聞くことが出来ます。しかも無料で聞くことが出来る。Amazonのオーディオブックサービスのオーディブル会員の無料体験30日間に申し込めば、無料期間中、対象書籍が聴き放題です。芦部憲法も対象となっています(但し、記事執筆時点においてです)
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