みなさん、こんにちは。
今回は「刑事訴訟法入門」として「刑事手続の流れ」について解説していきます。
このテーマは、刑事訴訟法を本格的に学び始めるにあたっての出発点でもあります。なぜなら、刑事手続の全体像を把握していないと、たとえば「現行犯逮捕」や「伝聞証拠」などの個別論点を学んでも、それがどの段階の話なのか見失いがちで、知識がバラバラになってしまうからです。
そこで今回は、刑事手続の各段階を体系的に見ていきましょう。
目次
1.刑事手続とは何か
まず出発点として、刑事手続とは何かを確認しておきましょう。
刑事手続とは、犯罪があったと疑われるときに、国家がその真相を明らかにし、必要があれば刑罰を科すために進める一連の手続のことです。
重要なのは、「疑われたらすぐ罰せられる」のではなく、憲法と刑事訴訟法によって定められた厳格なルールに則って進められるという点です。「疑わしきは罰せず」ですね。
つまり、国家が個人を処罰するには、必ずこの手続を通らなければなりません。これが、個人の人権を保障するための重要な制度的仕組みであることを、まずはしっかりと理解しておいてください。
2.刑事手続の五段階
刑事手続は、以下の五つの段階に大別されます。
- 捜査
→ 犯罪の事実を調査し、被疑者を特定・確保し、証拠を収集する段階。
- 公訴
→ 検察官が、被疑者を裁判にかけるかどうかを判断する段階。
- 公判
→ 裁判所において、有罪か無罪か、また量刑が審理・判断される段階。
- 判決
→ 裁判所が最終的な判断を下す段階。
- 控訴手続
→ 不服がある場合、上級裁判所に再度の判断を求める手続。
では、各段階について、具体的な事例とともに順を追って確認していきましょう。
3.捜査段階の流れと意義
刑事手続は、捜査から始まります。捜査のきっかけを「捜査の端緒」といいます。
司法試験の関係では、捜査の端緒として
が重要となります。
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その他にも、例えば、「女性Aが刃物で刺された」という通報が、捜査の契機となります。ここから警察官が現場に出向き、目撃者に事情を聴くなどの活動を開始します。
捜査はまず警察官や検察官によって行われますが、捜査の方法は①「任意捜査」と②「強制捜査」に分かれる点をしっかり押さえてください。
- 任意捜査:本人の同意を得て行う(例:任意同行、任意取調べ)
- 強制捜査:本人の意思にかかわらず強制的に行う(例:逮捕、捜索、差押え)
司法試験では、捜査機関によって行われた任意捜査が違法ではないかという点が問われることが多いです。
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強制捜査を行うには、原則として裁判官の令状が必要です(令状主義)。これは、人権への重大な制約だからこそ、司法のチェックを要するという憲法的な要請に基づいています。
逮捕:被疑者の身柄拘束
続いて確認しておきたいのが、「逮捕」という手続きです。
逮捕とは、犯罪の嫌疑がある者の身柄を拘束することで、主に次の2つの目的があります。
逮捕にはいくつかの種類がありますが、代表的なものは以下のとおりです。
- 現行犯逮捕(令状不要)
- 通常逮捕(裁判官が発する逮捕状に基づく)
- 緊急逮捕(一定の重大犯罪で例外的に可能)
逮捕された被疑者には、憲法上・刑訴法上の権利が保障されています。たとえば、
などがあり、これらは手続の適正を支える極めて重要な権利です。
勾留:身柄拘束の継続
逮捕に引き続いて、さらに身柄を拘束する必要があると判断された場合、検察官は裁判官に対して「勾留請求」を行います。
勾留が認められるためには、以下の要件が必要です。
- 勾留の理由(住所不定、逃亡・証拠隠滅のおそれなど)
- 勾留の必要性
裁判官は、被疑者に「勾留質問」を行い、上記の要件を満たしているかどうかを慎重に審査します。
勾留が認められた場合、その期間は原則として10日間です。
ただし、必要がある場合にはさらに10日間延長され、最大で20日間となる可能性があります。
勾留中の被疑者は、警察署の留置場や拘置所などに収容されます。この間も、弁護人との接見交通権は保障されています。
さらに、逮捕された場合には、48時間以内に検察官へ送致(送検)され、検察官は必要に応じて勾留請求を行います。勾留はより長期間の身柄拘束であり、裁判官による「逃亡・証拠隠滅のおそれ」の判断が必要です。
このように、捜査段階では、
という3点が重要な目的となります。
そして、この①事実の確認、②証拠の確保、③被疑者の確保に関して、刑事訴訟法はそれぞれ規制を設けています。
捜査段階の目的と意義
以上が、刑事手続の最初のステージである捜査段階の流れです。
- 犯罪の認知から始まり、
- 任意・強制の手段を使い分けながら証拠を収集し、
- 必要に応じて身柄を拘束しつつ、
- 公訴提起に向けた土台を整える。
この一連の活動が、刑事訴訟法における捜査の核心です。
捜査は、単なる真実探求ではなく、刑事裁判の入口を形成する活動であり、被疑者の人権との調整を図りながら進められるものです。
4.公訴段階:誰が起訴を決めるのか
捜査の結果を受けて、検察官は次のような観点から判断を行います。
- 被疑者に対する有罪を立証できるか?
→ すなわち、「有罪を証明するに足りる十分な証拠」があるかどうか。
- 仮に証拠があっても、裁判にかけるべきか?
→ 被疑者の年齢、生活状況、犯行の軽重、反省の程度、示談の有無などを考慮。
このように、単に証拠が揃っているからといって、必ずしも起訴されるとは限りません。
ここで重要なのは、起訴権は検察官にしかないという点です(起訴独占主義)。
検察官が「この被疑者は裁判にかけるべきだ」と判断した場合、次に行うのが「公訴の提起」、いわゆる起訴です。
起訴は、裁判所に対して「起訴状」を提出します。
この起訴状には、被告人の氏名、公訴事実(犯罪事実)、適用法条などが記載されており、裁判の基礎となる文書です。
起訴がなされると、手続のステージは「捜査」から「公判」へと移行し、被疑者は「被告人」として扱われることになります。
5.公判段階:裁判が始まる
起訴されると、いよいよ公判手続、すなわち裁判が始まります。
まず事件によっては、「公判前整理手続」が行われ、事件の争点や証拠が三者(裁判官・検察官・弁護人)間で整理されます。これは、裁判を効率的かつ的確に進めるための重要なプロセスです。
「公判前整理手続」は実務的にも重要であり、司法試験でも公判前整理手続を絡めた出題がされています。
その後、実際の公判が公開法廷で行われます。ここでは以下の流れに沿って審理が進みます:
- 冒頭手続(人定質問・起訴状朗読・権利告知・罪状認否)
- 証拠調べ手続(証人尋問、供述調書や鑑定書の取調べ)
- 被告人質問
- 論告・求刑(検察官)
- 最終弁論(弁護人)
そしてこの公判手続では、特に、証拠の評価に関するルール(自白法則・伝聞法則・違法収集証拠排除法則)は、試験でも極めて重要ですので、今後しっかりと掘り下げて学びましょう。
▽超重要な証拠に関するルール▽
▽伝聞法則の詳細▽
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6.判決段階:裁判所の最終判断
すべての証拠と主張の審理が終わると、裁判所が判決を言い渡します。
判決では、
- 主文(有罪・無罪、量刑)
- 理由(事実認定、法律の適用過程)
が示されます。
7.控訴手続:不服があればどうする?
第一審の判決に不服がある場合には、控訴によって高等裁判所で再度の審理を受けることができます。
控訴は、
- 被告人 → 無罪主張、量刑不当
- 検察官 → 有罪主張、軽すぎる量刑への不服
などが理由となります。
控訴審でも判決に不服があれば、最高裁判所への上告が可能ですが、上告審では法律判断の誤りがあるかどうかが中心となります。
8.まとめ:手続の全体像をつかむ意義
ここまで、「捜査」→「公訴」→「公判」→「判決」→「控訴」という流れを、解説してきました。
このうち司法試験の関係で重要なのは①捜査と②公判(証拠能力)です。
刑事訴訟法を学ぶ際は、「今この論点はどの段階の話なのか」を常に意識することが大切です。そしてそれぞれの段階には、
といった基本事項があります。これらを体系的に把握しておくことで、試験対策でもブレない知識が身につきます。
さらに、刑事訴訟法は単なる手続法にとどまらず、憲法上の人権保障の具体化という面を持っています。
「なぜこの手続が存在するのか」――その理念にも思いを巡らせながら、今後の学習に取り組んでいきましょう。
初学者の方は、本記事で解説した刑事手続きの流れを自分で図式化したり、スラスラと説明ができるレベルにしましょう。司法試験受験生の常識となります。
司法試験合格という大きな目標に向けて、ここから一歩ずつ進んでいきましょう。引き続き頑張ってください!