法書ログライター様執筆記事です。
▽前回までの行政法の判例論点解説記事▽
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この記事では、サーベル事件(最判平成2年2月1日)について、初学者の方でも分かりやすいように、丁寧に解説していきます。
まず初めに本判決を理解するための3つのポイントと簡単な結論を以下に示しておきます。
1 本判決はどのような事案か(銃刀法の仕組み)
銃砲刀剣類登録規則4条2項が銃刀法の委任の趣旨を逸脱するかが問題となった事案です。
2 本件規則の性質、その争い方
本件規則は法規命令です。
そして法規命令の違法性を争うには①委任もとの法律が白紙委任であり違憲無効と主張する方法と、②委任命令が法の委任の趣旨を逸脱濫用しており違法であると主張する方法があります。
3 本判決における判断
本判決では上記②の観点から委任命令の適法性が判断されました。最高裁は規則の基準は法の趣旨を逸脱濫用しておらず適法と判断しました。
目次
1 本判決の事案
今回は銃刀法とそれに基づく銃砲刀剣類登録規則の仕組みを中心に見ていくことになります。
※自分は銃刀法ではなく行政法が学びたくてこの記事を読んでいるんだ!と言いたくなるかもしれませんが、少しばかりお付き合いください。蛇足になるので理由は記事の最後、「4おわりに」に書きますが、行政法の学習においてこのような個別法の分析は重要だと思います。
では事案の説明に入りましょう。
原告(X)は東京都教育委員会(Y)に自己所有のサーベルを「美術品として価値のある刀剣類」(銃刀法14条1項)として登録してもらおうと、登録申請(同14条2項)をしました。
その「登録は、登録審査委員の鑑定に基いてしなければならない」(14条3項)のですがその鑑定の基準は委任を受けた銃砲刀剣類登録規則4条2項において定められていました。
規則では鑑定を受けるには日本刀であることが前提となっていました。
そこでYは申請を拒否しました。
前提として、基本的に日本では刀剣類の所持は禁止されています(銃刀法3条)。しかし14条の登録をされたものについては例外的に所持が許されています(銃刀法3条1項6号)。そこでXは自分のサーベルを登録してもらいたいわけです。
しかし、②記載の通り登録は鑑定に基づいてなされなければなりません。そしてその鑑定の基準を定めている規則を見ると日本刀でなければ鑑定が受けられないことになっていました。すると、日本刀でない刀剣類(サーベルなど)は鑑定がなされず、登録も受けられないということになります。
ここで注意していただきたいのは、日本刀でない刀剣類(サーベルなど)が登録できないのは銃刀法のせいではないということです。銃刀法は「日本刀でないと登録しませんよ」などという規定はおいていません。登録できない原因は「日本刀でないと鑑定されませんよ」と規定している規則の方にあるのですね。
そこでXさんたちはこの規則が違法・無効である、として訴えを提起しました。
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2 法規命令とは何か、その争い方
では規則は違法なのでしょうか。その前提に本件規則の性質を考えてみましょう。
まず、行政機関が定めるルールは大きく二つに分けられます。
法規命令と行政規則です。
法規命令は行政の作る規範のうち法律と同様に国民への法的拘束力を有するものの事です。対して、行政規則は行政組織内部で通用する内部基準で国民を拘束するものではありません。
両者は法律による委任があるかという基準で見分けることができます。
本件では銃刀法14条5項が「鑑定の基準及び手続その他登録に関し必要な細目は、文部科学省令で定める。」と規定しています。ここでは鑑定の基準等を文部省令に委任していますね。その委任を受けて行政により作成された本件規則は法規命令ということになります。
では法規命令の適法性はどのように判断されるのでしょうか。
法規命令の違法性を争うには①委任もとの法律が白紙委任であり違憲(憲法41条)無効でありそれに基づく法規命令も違法であると主張する方法と、②委任命令が法の委任の趣旨を逸脱濫用しており違法であると主張する方法の二つがあります。
本件では②のルートで争いました。
規則は銃刀法の趣旨を逸脱したものなので違法であるといって争ったわけです。
より分かりやすく説明すると、「銃刀法には日本刀だけしか登録しないとは書いていないのに、規則により登録の対象を日本刀だけに限定してしまっている。規則によるこのような限定には合理性がなく委任の趣旨を逸脱するんじゃないか」ということです。
3 本判決における判断
結論としては、規則は法の委任の趣旨を逸脱するものではないとして無効ではないという判断がなされました。
なぜでしょうか。
まず、裁量の存在が挙げられます。裁量とは行政庁に認められる判断の幅です。
行政の行為が違法かを考える際にはこの裁量の有無が極めて重要です。
裁量論についてはそれだけで何本も記事がかける大問題ですので詳しくは割愛しますが、裁量があるなら行政の判断は適法になりやすく、裁量がないなら違法になりやすいということになります。
本件では最高裁は「規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、(中略)所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められている」として、裁量を認めたので規則も適法と判断されやすくなりました。
また、最高裁は以下の事情などから鑑定の対象を日本刀に限定することが合理的であると考えました。
・歴史的経緯(本件登録制度の発端である銃砲等所持禁止令はそもそもGHQによる武器の接取から鑑賞の対象である日本刀を守るためのものだった。)
・「法施行後は、外国刀剣の登録例は一件もない」
・「日本刀については、古くから我が国において美術品としての鑑賞の対象とされてきた」
これらを考慮して、最高裁は、規則は「合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない」と判断しました。
4 おわりに
今回の記事ではサーベル事件を通じて法規命令の適法性判断について解説しました。その中では多くの紙面を「銃刀法の仕組み」を読み解くことに費やしました。このように個別法の仕組みを分析する重要性について少し書こうと思います。
卑近なところでいうと、この記事をお読みの方々は行政法についての何らかの試験(定期試験や入試)を受けることを考えていらっしゃると思います。そして、行政法の試験では個別法の仕組みをしっかりと理解することは極めて重要です。
例えば原告適格や裁量の有無など、行政法の重要論点の多くは個別法解釈なしには成り立ちません。個別法の仕組みを理解する能力がなければおそらくテストでは適切な当てはめができなくなってしまいます。もっとも行政にかかわるありとあらゆる個別法の仕組みを覚えることはおよそ不可能です。そこで、試験の現場で個別法を見た時に自力でしっかりと理解できるように普段から個別法解釈の訓練をすることが重要となります。
何が言いたいかというと「行政法の学習では個別法の仕組みを分析することはとても大事ですよ!」ということです。
もしかしたらこの記事の中で一番重要なのはこの部分かもしれないです笑。
▽本日の参考文献▽
行政判例百選II〔第8版〕 別冊ジュリスト 第261号.
櫻井敬子,橋本博之(2019)『行政法[第6版]』弘文堂.
下山憲治,友岡史仁,筑紫圭一(2017)『行政法』日本評論社.
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