※この記事は声が出せる環境で読んでください。
※法書ログライター様執筆記事です。
目次
はじめに-伝聞法則の基礎知識
伝聞法則の問題が出てきたときの反応と言ったら、「うげぇっ!」か「いえーい!」の2択だと思いますが、今回は「うげぇっ!」な方に向けた記事です。あと初学者。
言うまでもなく、伝聞は途轍もなく重要です。司法試験の刑事訴訟法では大問が2つ(捜査と公判)が出ますが、2問目(公判)はほとんど伝聞です。伝聞が苦手という人は、両手両足に30キロの重りを身に着けるに匹敵するハンデを負っていると言っても過言ではないでしょう。合計120キロです。
ただ、逆に言えば、伝聞はコスパがいいです。これさえマスターすれば刑事訴訟法の半分をマスターしたことになるのですから。
得意にならずとも、苦手でなくなることのアドバンテージはかなりデカいです。
しかも必要なのは10個の条文(刑事訴訟法320条~328条)と十数個の判例。覚えることはそんなに多くないです。
必要なのは、正確な理解です。
そこで、この記事では、読むだけで伝聞法則の基礎を頭に叩き込まれることをコンセプトとしました。
記事中では「朗読して」とか「頭に叩き込んで」とか、根性を要求しながら、できるかぎり伝聞法則を理解してもらうように努めました。
とはいえ、堅苦しかったりはしないので(多分)、お気軽にお読みください。
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伝聞証拠の定義とは?
伝聞=又聞きだとわかる人は、語彙力が高いですね。
刑事訴訟法における伝聞は、端的に言えば、「又聞き」と「書類」です。
とはいえ、実際に論述で使うときには、もう少し複雑な定義が必要です。この記事では、伝聞の定義を中心に説明していきますので、最後までお付き合いください。
さて、定義を探求するのに真っ先に指針とすべきは、条文でしょう。
「条文を引かない弁護士は、錨を持たない船と同じだ」
これは私が勝手に考えた言葉ですが、条文は大事なので、引用しておきましょう。
◆刑事訴訟法320条
第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
ここから、条文上の伝聞証拠の定義は以下の通りだとわかります。
・公判期日における供述に代わる書面
・公判期日外における他の者の供述を内容とする供述
ただ、判例や解釈は、もうちょっと複雑な定義を採用しています。それを説明するには、やはりこの条文の趣旨から順番に理解していく必要があります。
一歩一歩止まって、頭に叩き込んでいってください。
伝聞法則の検討の順番は?
伝聞法則の趣旨→実質的な伝聞証拠の定義→非伝聞の検討→伝聞例外(刑訴法321~327条)該当性の検討
伝聞の論述は、ほぼ100%この順番で行います。声に出して読んでください。
ここで重要なのは、非伝聞と伝聞例外は違うということです。
説明はあとでしますが、区別できていなかった人がいるなら、それをまず頭に叩き込み、片時も忘れず意識し続けながら、この記事を読んでください。
この記事では、主に前2つを解説します。
伝聞法則の趣旨とは?具体例を基に検討する
◆例1
押すと刃が引っ込むおもちゃのナイフ(商品名:スパイナイフ)を携えたXは、金の貸し借りを頻繁に行うほど仲のいい友人であるVを路上で見つけ、刺すフリをするいたずらをした。Wは横目にそれを見ていた。
VはXと別れた後、なんか知らないけど刺されて死んだ。
金銭トラブルを疑われたXはV殺害の冤罪で逮捕され、起訴された。Wは法廷で、「XがVをナイフで刺した」と証言した。
- WはXが本物のナイフで刺したと見間違えて証言した。
- Wは「おもちゃだなぁ」と思って見ていたが、そのうちすっかり忘れてしまった。数日後Vの死の報道によりその情景がよみがえり、「この人が刺されるところ見てたわ!」と思った。
- Wが犯人。Xに罪を擦り付けた。
- Wは「おもちゃだなぁ」と思ったことを覚えていたし、法廷でもそう証言するつもりだったが、商品名のスパイナイフを間違えて、「XがVをスペツナズナイフ(ロシア軍が使ってるナイフ)で刺したのを見た」と証言した。
◆例2
例1のようなことを、Wは警察官Kに証言したが、出廷はしなかった。検察官PはK作成の供述録取書を証拠請求した。
◆例3
例1のようなことを、Wは妻WW(W’s wife)に話した。その後、Wは出廷せず、WWが「Wはこんなことを言っていた」と証言した。
この章のゴールは、この記事を読んでいるあなたが伝聞法則の論証をきちんと行えるようにすることです。
そこで、この記事では、論証パターンを先に提示して、それをあとから解説するという形をとります。
物事を行うときに、まず目標を見据えて、そこから逆算するというのが、スマートですから。
伝聞証拠/伝聞法則の論証の解説
◆伝聞法則の趣旨の論証(筆者オリジナル)
そもそも一般に供述には、知覚・記憶・表現・叙述の各段階で誤りが混入するおそれがある。
そのため、法は直接主義や反対尋問権を保障して供述の真実性を吟味・確保することにしたのである。
一方で、供述が伝聞の形で顕出されれば、供述態度の観察や反対尋問によって真実性を吟味・確保することができなくなる。
そこで、法は伝聞証拠を原則として排除することとしたのである。
まず、ここで声に出してください。大切なのは一単語たりとも読み飛ばさないことです。
一言一句に意味があると思ってください。
自分の理解と違うところがあったら、覚えておいてください。理解できなくても、これから解説します。
伝聞法則の論証解説①
【そもそも一般に供述は、知覚・記憶・表現・叙述の各段階で誤りが混入するおそれがある。】
供述とは、難しく言えば、「特定の事実の存否・事象に関する言語的表現」[i]です。簡単に言えば、実際になにが起きたのかを言葉で伝えることです。
実際になにが起きたのかを言葉で伝えようとするときには、必ず次のステップを取ります。
・起きたことを実際に見るあるいは体験する(知覚)
・知覚したことを覚える(記憶)
・記憶したことを正直に正確に言おうとする(表現)
・表現したいことを実際に言葉にする(叙述)
そして、この4つのステップで間違いが混ざる危険性があるのです。
・見間違える(知覚の誤り)
・記憶違い・記憶の混乱(記憶の誤り)
・嘘を言う・誇張する(表現の誤り)
・言い間違える・書き間違える(叙述の誤り)
さて、ここで強調しなければならないのは、誤りが混入するおそれがあるのは伝聞供述だけではないということです。
どんな供述も、一般に4つのステップのいずれかで誤りが混入するおそれがあるのです。
これは恐ろしいことです。
人間の供述なんてものは途轍もなくあやふやで、簡単に間違える。
しかし、犯罪の立証には必要。
したがって司法試験受験生というのは、伝聞の論点を通してこんな風に問われているわけです。
「証人は物事を見間違えるし、覚え違えるし、言い間違える。なんなら嘘だってつく。あなたが就こうとしているのは、そんな彼らの供述の中から真実を見つけ出す仕事なんです。それがわかっていますか?」
伝聞法則の論証解説②
【そのため、法は直接主義や反対尋問権を保障して供述の真実性を吟味・確保することにしたのである。】
人間の供述があやふやだというのは、ちょっと考えれば誰でもわかることです。それに対して無策ということは、ありえません。
対策の方法はいくらでも考えられますが、刑事訴訟法が用意しているのは、主に次の2つです。
・反対尋問
・供述態度の観察
これに加えて、
・偽証罪による処罰の警告
も供述の誤り対策といえるでしょう。
しかし、偽証罪による処罰の警告が効くのは、証人がわざと嘘をつこうとした場合に限られます。供述の4つのプロセスで言えば、③表現の過程で生じる誤りを取り除く効果しかないのです。
供述態度の観察も重要ですが、主に反対尋問で、供述の誤りを発見することになります。反対尋問とは、主尋問(証人尋問を請求した弁護人/検察官のする尋問)に続いて、他方が行う尋問です。(刑事訴訟法304条、規則199条の2、199条の4)
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伝聞法則の論証解説③
【一方で、供述内容が伝聞によって顕出されれば、供述態度の観察や反対尋問によって真実性を吟味・確保することができなくなる。】
「顕出」はちょっとイカした単語です。積極的に使ってライバルとの差をつけていきましょう。
ここで確認ですが、伝聞とは、又聞きと書類のことです。難しく言えば、「公判廷での供述に代わる書面」と「公判廷外での供述を内容とする供述」です。
自分の体験したことを紙に起こしたり、他人に語ったりするときにも、当然、知覚・記憶・表現・叙述の過程を経るので、誤りが混入する可能性が当然あります。
それにも関わらず、自分が出廷せず、紙だけ提出した場合には、反対尋問も供述態度の観察もされません。
又聞きした他人が証言した場合も、同様です。
伝聞証人の
・知覚(原供述者からの話を聞く)
・記憶(原供述者の話を覚える)
・表現(その話を真摯に話そうとする)
・叙述(実際に話す)
の各段階での誤りは検証されますが、原供述の誤りは正されません。
また、偽証罪は、「宣誓した証人」が虚偽の陳述をした場合に成立します。そのため、紙だけ提出したり、他人が又聞きで証言した場合には、偽証罪による処罰の警告は受けません。
つまり、伝聞供述は、誤りが混入したまま正されない可能性のある、とても危険なものなのです。
伝聞法則の論証解説④
【そこで、法は伝聞証拠を原則として排除することとしたのである。】
伝聞供述の実質的な定義
例4 XはWに対して、不特定多数人に伝播する可能性があることを知りながら、「私見たんだから。Aが○○書店で本を万引きするところを」と言った。 検察官Pは、Aを窃盗の公訴事実で起訴した。Wが「Xが『Aが万引きしていた』と語った」と証言したところ、弁護人Bが異議を申し立てた。 2)検察官Pは、XをAに対する名誉毀損罪の公訴事実で起訴した。Wが「Xが『Aが万引きしていた』と語った」と証言したところ、弁護人Bが異議を申し立てた。 |
ここからは伝聞供述の実質的な定義を説明します。
伝聞法則の趣旨は、端的に言えば、反対尋問等によって真実性の吟味・確保がなされない供述を排除することにあります。これを念頭に置いてください。
伝聞供述の実質的な定義の論証
以上の趣旨からすれば、当事者の立証しようとする事実との関係でその真実性が問題にならないのであれば、伝聞の形式であっても差し支えないのである。
伝聞法則の論証解説⑤
【よって、伝聞証拠とは、公判廷外における供述を内容とする供述または書面のうち、その内容の真実性を立証するために用いるものをいう。】
なお、その判定には、まずその証言/書面を用いて当事者がどのような事実の立証をしようとしているのかを認定し、その事実と供述内容たる事実を相関させて行う。
その認定には、その証人尋問/書面の証拠請求をした当事者の主張をもとに、罪となるべき事実、当事者間での争点などを考慮して行う[ii]。
朗読してみてください。すでに勉強したことがある方はお気づきでしょう。「要証事実」だの「立証趣旨」だのという言葉はワケわからんので、やめました。
伝聞法則の論証解説⑥
【以上の趣旨からすれば、当事者の立証しようとする事実との関係でその真実性が問題にならないのであれば、伝聞の形式であっても差し支えないのである。】
要するに原供述の知覚・記憶・表現・叙述の過程で誤りがあっても、それが罪なき人を罰するとかに繋がらなければいいのです。
一番わかりやすい例は検察官PがXの名誉毀損を立証するために、『Xが「Aが万引きしていた」と言った』、とWに供述させる事案です。
この場合、Xの発言の内容「Aが万引きしていた」が真実であるかは今のPにとってはどっちでもよいのです。
言い換えれば、Xの
・知覚(Aが万引きをしているのを見る)
・記憶(見たのを記憶する)
・表現(記憶したことをそのまま言おうとする・うそを言わない)
・叙述(言おうとしていたことを実際に言う)
を確認する必要は、今のPにはありません。
ただ、気づいた方もいるかもしれませんが、もし弁護人Bが、刑法230条の2に基づく免責を主張するなら話は違います。
もし、「Aが万引きをしていた」というXの発言の内容が真実であれば、名誉毀損罪が成立しない可能性もあるのです。
ちゃんと当事者の立証しようとする事実を認定してからでなければ、伝聞かどうかは認定できません。
伝聞法則の論証解説⑦
【よって、伝聞証拠とは、公判廷外における供述を内容とする供述または書面のうち、その内容の真実性を立証するために用いるものをいう。】
まとめると、伝聞証拠となるためには
・形式(公判廷外での発言についての発言、あるいは書面)
・用法(内容の真実性を立証するために用いる)
がセットにならなければならないのです。
伝聞法則の論証解説⑧
【なお、その判定には、まずその証言/書面を用いて当事者がどのような事実の立証をしようとしているのかを認定し、その事実と供述内容たる事実を相関させて行う。
その認定には、その証人尋問/書面の証拠請求をした当事者の主張をもとに、罪となるべき事実、当事者間での争点などを考慮して行う。】
あてはめに使う事実の列挙です。基本刑事訴訟法IIの257ページを基に平易な言葉にして並べました。
当事者は、証拠請求するとき、その証拠をもとにどのような事実を立証するのかについて、あらかじめ裁判所に明示します。(立証趣旨の明示)
しかし、裁判所は、立証趣旨とは異なる意図を認定することができます。
判例(最判平成17年9月2日[百選10版83事件])もありますが、その基準はそんなに明確ではないので、あてはめを頑張ってください。
小括:基礎的な部分は終了
伝聞法則の趣旨→伝聞証拠の実質的な定義→非伝聞の検討→伝聞例外の検討
2つ目までですが、基礎的な部分はここまでで終わっています。
補足:非伝聞について
非伝聞については、今まで説明した実質的な定義にあてはまらないもの
・要証事実との関係で、その供述の存在自体が問題となるもの
のほかに
・知覚・記憶・表現・叙述を経ることなくされる供述(供述当時の感情についての供述)
があります。
非伝聞の類型については解説するというよりも、覚える要素の方が強いので、ここでは詳述しません。
補足:伝聞例外について
伝聞例外とは、伝聞証拠の定義に当てはまるものの、
- 類型的に真実性をテストする必要のないもの(刑事訴訟法323条)
- 類型的に真実性がある程度確保されており、必要性が高いもの
- 相手方が同意したもの(刑事訴訟法326条)
に例外的に証拠能力を付与することです。
・非伝聞は条文を根拠としない(328条は例外)が、伝聞証拠ではないため必要ない(328条も必要ない)
のに対して
・伝聞例外は伝聞証拠ではあるが、条文を根拠に許容されている
この区別は覚えてください。
おわりに
数式に無駄な文字はありません。1文字でも落とせば意味が変わります。1文字1文字が、すべて、論理の塔の大黒柱なのです。
しかし、一般に文章を読むときには、そこまで文字や単語を気にする必要はありません。ななめ読みでも、意味はくみ取れます。
しかし、判例や条文はどうでしょう。
法律でも、判例や条文の1単語1単語に意味があるのではないでしょうか。
私はこの論理的な言語の1単語をも逃させないための方法を考えて、「1文字も逃さず朗読をさせる」という形に至りました。
一読して理解しがたい文章でも、声に出して読めば頭に入った経験があるからです。
今回は、伝聞法則の論証について解説しました。私のオリジナルの論証パターンを朗読してもらうという形式をとりましたが、実際の試験ではもう少し短い論証パターンを使う方がいいかもしれません。
それについては、この記事を読み、伝聞法則の趣旨を体得した読者のみなさまにお任せします。
◆参考文献
・『刑事訴訟法第2版』酒巻匡(有斐閣、2020)
権威ある文献。レポートを書くときにはこれを引けば有無を言わさぬ迫力により採点者の先生を黙らせることができるでしょう。
・『基本刑事訴訟法II―論点理解編―』吉開多一ほか(日本評論社、2021)
わかりやすい定番の参考書。よくまとまっており、この記事はこの本の255ページから258ページを何千文字に薄めただけと言っても過言ではない。
・別冊Jurist27巻「刑事訴訟法判例百選[第10版]」(有斐閣、2017)
一応めくったが、この記事よりも応用的なことしか書いていなかった。理解を試すための腕試しにぜひ。
・『アガルートの司法試験・予備試験合格論証集 刑法・刑事訴訟法』アガルートアカデミー編著(サンクチュアリ出版、2020)
結構なクオリティの論証がたくさん載っている。論証に関しては、書きやすさではこの本に軍配があがるかもしれない。
・『論理哲学論考』L.ヴィトゲンシュタイン(1922)[邦訳:矢野茂樹(岩波書店、2003]]
「事実」ってなんだよと困ったときに読む本。
[i] 『刑事訴訟法第2版』酒巻匡(有斐閣、2020)81頁
[ii] 『基本刑事訴訟法II―論点理解編―』吉開多一ほか(日本評論社、2021)257頁
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