訴因変更の可否の重要判例と論述のポイント

『訴因変更の可否と論述のポイントは?』

『訴因変更の可否の重要判例と論述のポイントは?』

『訴因変更の可否の理解のポイントが知りたい』

 訴因変更の可否は、公判分野の中でも特に難解なテーマの一つであり、苦手とされている方も少なくありません。しかし、司法試験・予備試験において頻出のテーマであり、今後も出題が予想されます。

 そこで、本記事では訴因変更の可否の重要判例と論述ポイントについて述べていきます。

法書ログでは、刑事訴訟法の重要テーマの重要判例と論述のポイントを解説しています。直近では、訴因変更の要否の重要判例と論述のポイント無令状捜索差押の論述のポイントと重要判例などを解説しています。あわせてご参考にしてください。

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訴因変更の可否とは

訴因の変更は、「公訴事実の同一性を害しない」場合に認められます(刑事訴訟法312条1項参照)。

訴因変更の可否の問題では、当初の訴因と変更後の訴因について、「公訴事実の同一性」が認められるかが問題となります。

本記事では、両訴因の同一性が問題となる「狭義の公訴事実の同一性」について論じ、両訴因の一体性が問題となる「公訴事実の単一性」については触れません。

二つの論点は、分けて論じられるのが通常であり、注意しましょう。

訴因変更の可否の重要判例

①最高裁昭和53年3月6日第一小法廷決定(判例①)

「収受したとされる賄賂と供与したとされる賄賂との間に事実上の共通性がある場合には、両立しない関係にあり、かつ、一連の同一事象に対する法的評価を異にするに過ぎないものであって、基本的事実関係においては同一である」

判例①は、自動車運転免許証の不正取得に際し、旧訴因が、試験管との共謀による事後加重収賄罪であり、新訴因が取得希望者との共謀による贈賄であったところ、両訴因を比較検討したのでは、基本的事実関係の共通性を確認することができない場合において、事実関係を踏まえた上で、両訴因は両立しない関係にあり、一連の同一事象に対する法的評価を異にするに過ぎないとして、基本的事実関係が同一であり、公訴事実の同一性が認められるとしました。

また、旧訴因及び新訴因の基礎をなす社会的事実の共通性と、その両訴因の犯罪事実としての非両立性を確認するという判断方法を示しています。そして、このような判断方法が、基本的事実関係の同一性を確認するための補完的な位置づけであることを示したといえるでしょう。

②最高裁昭和63年10月25日第三小法廷決定(判例②)

被告人の尿中から、覚せい剤が検出され、被告人が覚せい剤の使用を認めた事案。検察官は、被告人の捜査段階の供述に基づき、「被告人は、丙と共謀の上、同月26日午後5時30分頃、栃木県内の被告人方において、丙をして自己の左腕部に覚せい剤の水溶液を注射させて使用した」旨の覚せい剤取締法違反の訴因で起訴した。その後、検察官は、被告人の新供述に基づき、「被告人は、同日午後6時30分頃、茨城県内のスナック店舗内において、覚せい剤の水溶液を自己の左腕部に注射して使用した」旨の同法違反の訴因への変更を請求した。一審はこれを認めず無罪としたが、二審は両訴因の公訴事実の同一性を認めた。上告審で、公訴事実の同一性が争われた。

「両訴因は、その間に覚せい剤の使用時間、場所、方法において多少の差異があるものの、いずれも被告人の尿中から検出された同一覚せい剤の使用行為に関するものであって、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められるから、基本的事実関係において同一である」

判例②は、覚せい剤の使用に関し、旧訴因は共犯者である丙から覚せい剤を注射された使用、新訴因は単独で自ら注射した使用であり、使用日時は近接するものの、使用場所についてはかなり離れていると評価できる事案について、いずれも被告人の尿中から検出された同一覚せい剤の使用行為に関するもので、事実上の共通性があり、両立しない関係にあると認められることから、基本的事実関係において同一といえ、公訴事実の同一性を認めたものです。その判断方法につき、判例①と同様であるといえますが、両訴因の共通性を比較する際に、両訴因のみを比較するのか両訴因の背景事情の共通性まで考慮するのかに差異がある点には注意が必要です。

覚せい剤使用事犯において、被告人の尿から覚せい剤が検出されることは、使用事実を立証するための重要な証拠にはなるものの、覚せい剤使用という使用が繰り返される性質をもつ場合に、個々の使用行為を特定できるものではないことに留意する必要があります。使用行為から数日間程度は尿中から覚せい剤は検出可能であるから、判例②における事情からは、直ちに非両立性があるとはいえません。そこで、非両立性を説明するために、検察官は被告人の覚せい剤使用の最終使用行為を起訴した趣旨と解する最終行為説や、覚せい剤の検出可能期間中における一回の使用行為を起訴した趣旨と解する最低一行為説などがあります。各々、そのメリット、デメリットがありますが、判例②はその立場を明らかにしていません。被告人側からみれば、一事不再理効が検出可能期間の全体に及ぶ最低一行為説が有利となります。このように、当事者の立場に立って立論するのも重要なポイントです。

訴因変更の可否の論述ポイント

論述ポイント① 訴因の趣旨から考える

司法試験における訴因の問題は、訴因の特定、訴因変更の可否、訴因変更の要否など多岐にわたります。その論点に共通して言えることは、訴因の趣旨から離れないということです。

訴因変更の可否の問題についていえば、基本的事実関係の同一性や非両立性の規範を論述する際には、一事不再理効や二重処罰の禁止などといった訴因制度における被告人の利益等にも配慮した論述をするように心がけましょう。

論述ポイント②公訴事実の単一性の問題について

司法試験では、訴因変更の可否について問われる場合は、狭義の公訴事実の同一性が問われる場合がほとんどです。

しかし、公訴事実の同一性の問題は、上述した通り、「狭義の公訴事実の同一性」と「公訴事実の単一性」の問題があります。

この点について、どのように区別されているのかしっかりと理解している受験生は以外と多くありません。

このような理解を深めることは、問題提起の論述を素早く簡潔に書くことに繋がりますし、なにより単一性の問題がでないとは限りません。他の受験生と差をつけるチャンスです。

論述ポイント③非両立性の基準について

非両立性の判断基準それ自体は、両訴因間の共通性が乏しく、公訴事実の同一性の判断が困難な場合に有効な判断基準です。

しかし、非両立性は、補充・補完的な基準であることに注意が必要です。つまり、両訴因の事実の記載を比較検討したのみでは、基本的事実関係の同一が明瞭とはいえない場合に、なお訴因変更を許容し、一回的に解決することが適切だと認められる場合において用いられる基準です。

論述の際には、まず基本的事実関係が同一かについて検討したのちに、非両立性を検討するようにしましょう。

また、発展的な問題ではありますが、非両立関係は、公訴事実の同一性を認めるための必要条件ではありますが、十分条件ではないことにも注意しましょう。

例えば、自動車運転過失致死罪の本犯者であることと、その本犯の身代わり犯人であることは、非両立の関係にありますが、このような非両立性は、公訴事実の同一性を根拠づけることはありません。なぜならば、このような場合は一罪性が問題となる場合とはいえず、公訴事実の同一性の問題の埒外であると考えられるからです。

おわりに

本稿では、訴因変更の可否の重要判例と論述のポイントについて述べてきました。特に本テーマは、刑事訴訟法の中でも頻出の論点です。

そこで、本稿を読むことで、まずは基礎を固め、しっかりとした土台作りをしましょう。

本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。

◆参考文献

・酒巻匡『刑事訴訟法』第2版(有斐閣、2020)。

・中谷雄二郎「判批」井上正仁=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選(第10版)』104-105頁(有斐閣、2017)。