「司法試験委員会は受験生に何を求めているのか?」
「会社法の論文対策のポイントと留意点は?」
「会社法の勉強はどのような点を意識して勉強をするべきなのか?」
「会社法の論文答案ではどのような点を意識して起案するべきなのか?」
本記事を読まれている方々は司法試験合格に向けて日々勉強をされている方々で、会社法の勉強について情報収集をされている方々かと思います。
司法試験委員が受験生に求める能力や受験生に留意してほしい点を整理したことはありますでしょうか。おそらく、ほとんどの受験生はそこまでの分析には至っていないのではないかと思います。
採点実感なんかちゃんと読んだことないや
あひるっぺ、採点実感は司法試験委員会の公式意見だ!
司法試験委員会が論文式試験を出題し、その後、採点した結果、所感が記されており、勉強法のヒントが沢山記載されているんだ。
この機会に、採点実感を読んでみるといいよ!
『現状』
「採点実感をきちんと分析したことがない
「司法試験委員会が会社法(商法)の論述で求めていることが分からない」
「会社法の勉強で特に意識するべきポイントが分からない」
『理想』
「司法試験委員会が会社法(商法)の論述で特に意識してほしい点が分かるため、商法の対策方法に悩まない」
「司法試験委員会が受験生に求める能力が抽象的にわかっているため、普段の勉強から意識して勉強することができる」
そこで今回は、司法試験委員が公表している採点実感の過去の7年分【商法、会社法編】を参考に、採点実感で言及されている「法科大学院教育に求められるもの」を基に、会社法について、受験生に求められている能力、司法試験本番に身に着けるべき能力、問題分析の際に留意すべき点等を整理していきたいと思います。
なお、「法科大学院教育に求められるもの」のため、内容は抽象的なため、ほぼ過去問のネタバレにはならないかと思います。但し、年度ごとに整理しているため、この年度に会社設立が出題された、株主提案が出題された等のレベル感ではネタバレを含みます。真っ白な状態で過去問に取り組みたい方は、過去問演習が済んでから読むようにしてください。
少しでもネタバレが嫌な方はこの先は読まないでね!
抽象的であるからこそ、普段の勉強の際に意識がしやすく学習の成果が変わってくるかと思います。ちょっとした事の差が最終的な大きな差になっているかと思います。
目次
はじめに
「法科大学院教育に求められるもの」とは?
「法科大学院教育に求められるもの」は、商法の採点実感の最後に書かれる事項です。答案を採点した結果、司法試験委員会が法科大学院に求める水準を説明するものです。
受験生として、この部分を読み込むことで司法試験委員会が受験生にどのうような能力を求めているのか、どのような答案を優秀と考えているのかを分析することができます。
そこで、当サイトでは、採点実感の「法科大学院教育に求められるもの」を分析し、整理してきました。
7科目全てを分析する予定ですので、他の科目を確認して頂き、学習の際に意識するべき点を理解しておきましょう。
それでは、令和4年から平成28年度の司法試験の会社法の採点実感を基に、会社法の論文対策のポイントと留意点を整理していきたいと思います。
採点実感まとめ
令和4年司法試験会社法の分析
まずは、令和4年司法試験の商法(会社法)からです。
令和4年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 第2問は、形式的な法規適用だけでは解決し難い設問であり、事例解析能力、論理的思考力、法令の解釈及び適用の能力が問われていた。多くの受験生は最低限必要な事項に言及できており、見当違いの答案や白紙の答案は少なかった。これは法科大学院教育の成果と考えられる。
- しかし、会社法第339条第2項の規定の類推適用の対象と損害との関係や、利益相反関係と経営判断原則との関係など、もっと掘り下げて論じるべき点について十分な論述がなされていたものは少数であった。
- 利益相反関係がある場合に経営判断原則をそのまま適用してもよいのかという問題意識を持つためには、経営判断原則の内容だけでなく、その認められている理由や限界についても意識しながら学習する必要がある。
- 「外観法理」のような用語についても、一括りにせず、条文に即した理解を促すことが必要である。
- 法科大学院教育では、会社法上の基本的な制度や、条文、判例についての理解を確実なものとし、問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に拾い上げ、これを評価し、条文を的確に解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められている。
分析、コメント
<会社法で重要とされる能力>
①会社法上の基本的な制度や、条文、判例についての理解する能力
②問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に拾い上げ、これを評価する能力
③条文を的確に解釈及び適用する能力
④論理的思考力
なるほど。普段は何も意識せずに勉強してきたけど、このような能力が問われているんだ
最後の説明のところで端的に整理されていますが、司法試験会社法の対策としては①会社法上の基本的な制度や、条文、判例についての理解すること、②問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に拾い上げ、これを評価すること、③条文を的確に解釈及び適用する能力、④論理的思考力が求められていることがわかります。
また、経営判断原則については、その内容だけではなく、そのような原則が認められている理由と限界についても理解が求められています。
したがって、特定の制度を勉強する際には、その内容だけでなく、その制度が認められている理由を理解し、また限界を理解するようにしましょう。
令和3年司法試験会社法の分析
まずは、令和3年司法試験の商法(会社法)からです。
令和3年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 設問1では、代表取締役が株式会社を代表して個人として負う債務の保証について考察が求められています。答案は、基本的な会社法の制度や重要な判例を理解し、問題の事実関係を丁寧に評価することが要求されています。しかし、いくつかの答案では、これらの要素が欠けていました。
- 設問2では、誰が株主であるかという問題について具体的な事実関係の下での認定が求められています。この問題を理解し、事実関係を適切に評価した答案は少なく、多くの答案は株主の認定について十分な理由を示さずに結論を出していました。
- 設問3では、株主総会における議決権行使の在り方について考察が求められています。特に、株主でない弁護士が代理人として議決権を行使することの可否、および、株主である株式会社の代表取締役が内部的制限に反して議決権を行使することの可否について問われています。多くの答案が前者の問題に対しては言及していましたが、後者の問題については少数の答案しか適切に理解していませんでした。
分析、コメント
令和3司法試験商法の採点実感では、事実関係の評価について言及が目立ちます。それだけ司法試験委員会は、事実の評価を重視していると考えられます。
①基本的な会社法の制度
②重要な判例の理解
また、インプットとしては、①基本的な会社法の制度と②重要な判例の理解は必須と思われます。
さらに、論点抽出能力については、受験生間で差が大きかったようですので、論点抽出の訓練を意識して措く必要があるかと思います。
論点抽出能力、、、。難しい。
論点抽出能力は、事例演習を繰り返すことで身についていくぞ。
論証集を読み込むのもよいと思うぞ!
論文対策の方法?
令和2年司法試験会社法の分析
まずは、令和2年司法試験の商法(会社法)からです。
令和2年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 新株発行の無効の訴えについて理解し、株主総会の決議の取消しの訴えとの関係性を理解することが重要。
- 非公開会社と公開会社で、株主への保護の仕方が異なることを理解し、それぞれに適した手続き規制を適用することが必要。
- 代表的な判例を理解し、問題文中の事実関係と比較する能力を養うことが望ましい。
- 取消事由がある場合でも、その事由が株式発行の効力にどのように影響するかを十分に検討することが求められる。
- 全員出席総会による瑕疵の治癒が認められるか否かについて言及できるように、会社法の基本的な制度、条文、判例について理解することが必要。
- 株式併合によって株主に生じ得る不利益を具体的に論じることが求められる。
- 特定の種類の株式を対象とする株式併合の場合、不利益を受ける可能性のある株主が法的救済を求める方法について理解することが必要。
- 会社がある行為をする場合に、その行為が利害関係者にどのような影響を及ぼすかを具体的に理解し、論述することが求められる。
- 株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって当該決議が取り消される可能性について検討することが必要。
- 問題文中の事実関係から重要な意味を有する事実を適切に把握し、これを評価し、条文を的確に解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が必要。
分析、コメント
非公開会社と公開会社で、株主への保護の仕方が異なることを理解
公開会社とは「その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社」のことだね。非公開会社は、公開会社以外のことだね。
「非公開会社と公開会社で、株主への保護の仕方が異なることを理解」会社の期間設計の違いや公開非公開の違いは、利害関係者(株主など)にどのような影響を及ぼすのかを考えてみると良いかもしれません。
代表的な判例を理解し、問題文中の事実関係と比較する能力
重要判例を勉強するに際は、判旨だけではなく、必ず事実関係を押さえるようにしましょう。そして、問題文の事実関係とどのように異なるのかを分析し、事実関係の相違がどのような影響が生じるのかを検討することが大切です。
判例学習は本当に大切なんだ。
会社法の判例集はこちらを確認してみてくれ。
会社がある行為をする場合に、その行為が利害関係者にどのような影響を及ぼすかを具体的に理解
会社の行為によって、利害関係者にどのような影響を及ぼすのか考える癖を付けましょう。「利害関係の有無」は、特に会社法で重要な分析ポイントかと思います。
事例演習のときは、答案構成で図式するようにしているよ
いいな!かもっち!
事案をビジュアル化することで論点が見えてくることもあるんだ!
令和元年司法試験会社法の分析
まずは、令和元年司法試験の商法(会社法)からです。
令和元年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 少数株主による株主総会の招集の手続き、議題提案権、および議案要領通知請求権の行使についての理解が比較的良い。ただし、それらの手続きを具体的な事例に即して考え、比較検討する能力は未熟。
- 会社法の条文を適切に参照し、理解し、そして適用する能力が必要。
- 基準日や株主提案権など、会社法上の基本的かつ重要な条文や制度については、実務上での具体的な使用方法も理解する必要がある。
- 買収防衛策としての新株予約権無償割当てについての理解が全体的に不十分。
- 代表的な判例や裁判例の理解が期待されるが、具体的な事例に即した論述能力は不足している。
- 会社法の基本的な条文や制度、判例、裁判例に対する理解を基に、その理解を事案に応じて柔軟かつ適切に応用する能力が求められている。
- 取締役会設置会社における株主総会の権限、取締役の株主総会の決議の遵守義務、および取締役の株式会社に対する損害賠償責任についての理解が十分ではない。
- 解釈上の問題となる条文及びその文言に対する理解とそれを論述する能力が必要。
- 会社法上の基本的な条文や制度、代表的な判例、裁判例への理解を確実なものにし、事実関係から重要な事実を適切に把握し、これを評価し、条文を解釈し、適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められる。
分析、コメント
手続きを具体的な事例に即して考え、比較検討する能力は未熟
会社法も手続きの流れを理解するのが大切なんだ
そうだぞ、あひるっぺ!
会社法も刑事訴訟法や民事訴訟法と同様に手続きの流れを理解するのが大切だ!
株主総会の流れ、取締役会の流れ、会社訴訟の流れなどをビジュアル化して整理してみると良いぞ!
ある制度を勉強した際には、実際の実務ではどのような流れで進むのかを確認するとイメージがしやすいかと思います。
実務上の具体的な使用方法も理解
また、会社法で「実務上の具体的な使用方法も理解」することが求められます。会社法では特に実務を意識した勉強をすると良いと思います。
平成30年司法試験会社法の分析
まずは、平成30年司法試験の商法(会社法)からです。
平成30年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 会社法第433条第2項各号(会計帳簿の閲覧の請求の拒絶事由)については、全体的によく理解されていた。ただし、その前提となる法的枠組みについての言及や理解の明示が求められる。
- 株主の権利の行使に関する利益の供与(会社法第120条第1項)については、理解が不十分であった。条文の文言の意義や代表的な判例を十分に理解し、それを解釈する能力が重要。
- 株主総会の否決決議の取消しを請求する訴えについては、理解が不十分であった。判例についての理解とそれを論述する能力が必要。
- 譲渡制限株式の相続人に対する売渡しの請求については、適用条文の趣旨を理解し、それを論述する能力が求められる。
- 全体的に、問題文中の事実関係から会社法上の論点を的確に抽出する能力、条文や判例の引用と適用の明確化、論述する能力が不十分であると指摘されている。
- 司法試験受験生には、基本的な理解と、事実関係から重要な事実を適切に抽出し、それを評価し、条文を解釈し、それを適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められる。
分析、コメント
①論点を的確に抽出する能力
②条文や判例の引用と適用の明確化
③事例に即した論述
どの科目でも共通することかと思いますが「論点を的確に抽出する能力」「条文や判例の引用と適用の明確化」「事例に即した論述」が求められます。これらの能力は、正確なインプットに加えて、事例演習が不可欠かと思います。意識して事例演習に取り組むようにしましょう。
事例演習を続けなきゃ!
平成29年司法試験会社法の分析
まずは、平成29年司法試験の商法(会社法)からです。
平成29年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 設立に関して、設立費用に関する会社法第28条第4号の趣旨や設立中の会社の発起人の権限の範囲、定款に記載がない財産引受けの効力及びその追認の許否等について、基本的な理解が不十分であった。これには、条文の趣旨や意義の理解、代表的な判例の理解が含まれる。
- 株主総会の決議の取消しの訴えに関して、原告適格や取消事由についての条文の指摘が不十分で、議決権行使の代理人資格を株主に制限する定款の定めの有効性やその例外などの基本的な論点について的確に論証していなかった。
- 司法試験受験生の中には、条文の引用が不正確または不十分であったり、代表的な判例についての引用または言及が少なかったりするなど、法令の適用または解釈についての意識が高いとは言えない状況がある。
- 問題文中の事実関係から会社法上の論点を的確に抽出する能力についても、不十分さが見られた。
- 会社法に関する代表的な判例の理解を含めた基本的な理解を確実なものとし、事実関係から重要な事実を適切に抽出し、それを評価し、条文を解釈及び適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められると提言されている。
分析、コメント
商法は論点抽出能力で差が出る
やはり「論点抽出能力」については受験生の間で差があるようですね。これは、インプットのレベルの問題だけではなく、おそらく答案戦術の問題もあるかと思います。
要は、インプットが出来ていても、事案を分析できていない、問題文を読み落としていた等の試験本番での対応が不十分であったことも影響しているのではないかと思います。
商法では、「論点抽出能力」で差が出やすいことを理解し、判例の事案を読み込むなどし、事実に隠れた問題を分析する能力を磨くようにしましょう。
論点抽出能力を磨くにはどうしたらいいのかな?
あひるっぺ!論点抽出能力は、要するに、与えられた事例に含まれる法的な問題点を抽出する能力だよ。
基本的には、各論点の問題意識をきちんと理解をしていれば、論点の抽出ができるはずだ。
その意味では、論証集を使うなどして、いま一度、問題意識を整理してもよいかもしれないよ。
おすすめの論証集はあるの?
司法試験受験生向けのおすすめの論証集は以下の記事で整理しているよ。良かったら読んでみて!
平成28年司法試験会社法の分析
まずは、平成28年司法試験の商法(会社法)からです。
平成28年司法試験商法(会社法)で求められた能力等
- 取締役会の決議の効力に関して、一部の取締役への招集通知が欠けていた場合、取締役の報酬及びその減額、取締役の解任、役員等の会社に対する損害賠償責任、代表取締役等の内部統制システムの構築義務及び運用義務といった点について、基本的な理解が不十分であることが見られる。
- 問題文中の事実関係から会社法上の論点を的確に抽出する能力が不十分であること、また、一定の結論を導くにあたり、事実関係から重要な事実や事情を適切に抽出し評価する能力も不十分であること。
- 法律の条文の引用、判例の引用や言及が少なく、条文の適用あるいは解釈への意識、最高裁判所の判例に対する意識が低いこと。
- 問題の所在との関係で、条文の適用関係を明確にしないまま、または解釈上問題となる条文の文言を明らかにしないままで、条文等の趣旨を十分に考慮せず、または判例を意識せずに、自説を論述する例が見られること。
- 会社法に関する基本的な理解を確実なものとし、事実関係から重要な事実や事情を適切に抽出し、これを評価し、条文を解釈し、適用する能力と論理的思考力を養う教育が求められると提言されている。
分析、コメント
条文の引用で差がつく
「条文の引用」について言及がされています。どの科目も議論の出発は「条文」だと思います。
会社法は条文が多くて苦手なんだよね
条文検索能力は日々の勉強でどれだけ条文を引いているかで大きな差がつく。
日ごろから、条文を引く癖をつけるようにしよう!
特に、会社法の場合は、条文数が多いため、採点実感で指摘されているように条文を正確に引用が出来るだけでも、プラスになります。会社法の問題では、特に条文の引用を正確に行うことを意識してください。
最後に
最後までお読み頂きありがとうございます!!
いかがでしたでしょうか。今回は会社法(商法)の採点実感が7年分を分析し、司法試験委員会が受験生に求めている能力や答案作成上の留意点についてまとめてさせていただきました。
会社法は苦手な人が多い科目!得意になれば試験でも有利だよね!
採点実感や出題趣旨の分析は、過去問対策上、必須の工程です。もっと詳しく分析したい方は下記の書籍やアガルートの司法試験論文過去問解析講座を受講してみても良いでしょう。
すべての年度の出題の趣旨と採点実感を読み込むのは大変だ。
下記の書籍を使ったり、自主ゼミを組んで分担をしたり、工夫をしてみよう。
予備校の過去問解説講義を受講してみるのもよいだろう。
毎日、少しでも前進だ!
【おすすめの書籍及びおすすめの過去問対策講座】
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