旭川学力テスト事件は、教育権が誰に帰属しているのか、子どもの学習権とはどのような権利なのか、義務教育の教師に教育の自由はあるのか?といった点が争点となった判例です。
刑事訴訟の事案ですが、憲法上、重要な判例なのでしっかり押さえておきましょう。
目次
旭川学力テスト事件の概要
昭和36年に全国の中学校で一斉に学力調査(学力テスト)が行われましたが、Xらが旭川市の中学校に侵入し、校長らの制止にもかかわらず、学力テストを実力で阻止する行動をとったために、建造物侵入、共同暴行罪、そして、公務執行妨害罪で刑事起訴されました。
特に争点となったのは、学力テストが違法であるかどうか?です。
第一審と控訴審は、学力テストが違法であると認定し、公務執行妨害罪の成立を否定しました。
そこで、検察と被告人の双方が上告しました。
今ではよく聞く学力調査!
昭和36年にどんなことがあったんだ~!
どのような経緯で今に至るんだろう~?
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旭川学力テスト事件最高裁の判断
結論から言うと、最高裁は、学力テストは合法であるとして、これを妨害したXらには、公務執行妨害罪が成立すると判断しました。
そのほかの憲法上の論点を確認していきましょう。
憲法23条の「学問の自由」が関係してくるぞ!細かく見ていこう!
初等教育機関における教師に教授の自由が認められるのか?
憲法23条では、学問の自由が保障されています。
学問の自由については、一般的に以下の4つの自由が認められると解されています。
①学問研究の自由
②学問研究発表の自由
③教授の自由
④大学の自治
そのうち、教授の自由については大学での教授の自由は認められますが、初等教育機関における教師にも認められるのかが問題となります。
初等教育機関における教師にも認められるとする説は、学問と教育が内在的に関連していることをその根拠としています。
一方、認められないとする説は、学問の自由が沿革上、大学にのみ認められていたことや大学の学生は批判能力を備えているものの児童生徒には備わっていないことを根拠としています。
この点、最高裁は次のように判断しました。
まず、最高裁も憲法の保障する学問の自由は、単に学問研究の自由ばかりでなく、「その結果を教授する自由」をも含むと判断しました。
一方で、普通教育の場でも、教師に「ある程度自由な裁量」が必要と解されることから、「一定の範囲における教授の自由が保障される」と判断しました。
ただ、「児童生徒には教授内容を批判する能力がない」ことや「教育の機会均等をはかる上からも全国的に一定の水準を確保すべき強い要請がある」点を踏まえて、「普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない」としました。
確かに小さな子が「この内容はおかしい!」って言う場面を、あんまり想像できないよね~!ふむふむ~
教育を受ける権利の法的性質
教育を受ける権利は、憲法26条により保障されています。
教育を受ける権利には、「自由権」としての側面及び「社会権」としての側面があると解されています。
旭川学力テスト事件では、最高裁も次のように述べています。
「子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入、例えば、誤つた知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制する」ことは許されない。
つまり、教育を受ける権利には、自由権としての側面があることを述べています。
次に、教育を受ける権利の具体的な内容については、子どもが教育を受けることにより子どもが人間的に発達成長する「学習権」と捉えられています。
この点、最高裁も次のように述べています。
「国民各自が、一個の人間として、また、一市民として、成長、発達し、自己の人格を完成、実現するために必要な学習をする固有の権利を有する」
つまり、子どもの学習をする権利を認めているということです。
国家による不当な干渉を許さず、子どもの学習をする権利を認めたんだね~!
教育の自由は認められるのか?
教育の自由という概念は、憲法上明文規定はありませんが、憲法の規定からして保障されると解されています。
教育の自由は大きく分けると、以下の2つが挙げられます。
・親権者の教育の自由
・教師の教育の自由
旭川学力テスト事件で、最高裁は「親権者の教育の自由」について次のように述べています。
・親は、子どもに対する自然的関係により、子どもの教育の自由を有すると認められる。
・その具体的な表れが、家庭教育等学校外における教育や学校選択の自由である。
では、教師の教育の自由について見ていくぞ!
公権力は、教師の教育の自由にどこまで干渉できるのか?
子どもに教育を施す主体及び子どもに対する教育内容を決定するのは誰なのかという問題があります。
義務教育については、憲法26条2項に無償とするとあるため、国家の関与が想定されていると言えますが、それならば、国家はどの程度、教師の教育の自由に干渉できるのかが問題となります。
この点については次の3つの説が提唱されています。それぞれ確認しましょう。
①国家教育権説
②国民教育権説
③折衷説
今回はどの説に当てはまるのかな~?
①国家教育権説
教育権の主体は国家にあるとする考え方です。この説からは、教師の教育の自由に制約を加えることが原則として許されると考えます。
②国民教育権説
教育権の主体は国民全体にあるとする説です。この説は国家の役割は、子どもに教育を行える環境整備だけで、公教育の内容や方法への介入は原則として認められないと考えます。
③折衷説
国家教育権説と国民教育権説のどちらも極端だとして、国にも一定の範囲で教育内容を決定する権能があるし、教師にも一定の自由が認められると解する立場です。
国の介入権と教師の教育の自由が衝突する場面では、個別的、実質的検討が必要になると解します。
旭川学力テスト事件最高裁の考え方
最高裁は、上記の学説のうち、折衷説の立場を採っていると解されています。
まず、最高裁は、憲法26条の規定だけでは、教育の内容及び方法を誰がどのように決定すべきかの結論を当然に導き出すことはできないとしています。
また、「普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることは、とうてい許されない」としています。
一方で、国家の教育権も一定程度認められるとしています。
具体的には、国は、「子ども自身の利益の擁護のため、あるいは子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるため、必要かつ相当と認められる範囲において、教育内容についてもこれを決定する権能を有する」と述べているわけです。
教師の完全な自由ってわけじゃないんだね!
国は不当な干渉はしないけど、必要な範囲において教育内容を決定する権能があるんだね!
教育への国家的介入の程度について
国が教育に関与する場合、政治的な影響力が入り込む危険性があります。
例えば、国の指導者の意図した方向への洗脳教育等が施される恐れがあるわけです。
そこで、最高裁も、国家の教育権を一定程度認めつつも、次のように述べています。
・国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される。
・とりわけ、子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような国家的介入は許されない。
・例えば、誤つた知識や一方的な観念を子どもに植えつけるような内容の教育を施すことを強制することは、許されない。
学習指導要領について
学校教育法施行規則に基づいて、教育課程における配慮事項や目標、学習内容について定めた「学習指導要領」が制定されており、教師はこの学習指導要領に沿って、教育を行うことになっています。
この学習指導要領は、「告示」に当たると解されていますが、法的拘束力があるのかという論点があります。
旭川学力テスト事件では判例は次のように述べています。
・文部大臣は、教育の機会均等の確保等の目的のために必要かつ合理的な基準を設定することができる。
・ただ、教師による創造的かつ弾力的な教育の余地や、地方ごとの特殊性を反映した個別化の余地を残すために「大綱的基準」に留まることが求められる。
・旭川学力テスト事件当時における学習指導要領は、「大綱的基準」と言えるので、必要かつ合理的な基準の設定として是認できる。
なお、旭川学力テスト事件では最高裁は、学習指導要領に法的拘束力があるかどうかについては言及していません。
この点については後に、伝習館高校事件(最判平成2年1月18日)において、高等学校学習指導要領は法規としての性質を有するとして、法的拘束力を認めることになります。
最高裁の結論
旭川学力テスト事件で最高裁は、学力テストには、教育そのものに対する「不当な支配」ではなく、当時の教育基本法に違反しないと判断しました。
そのため、学力テストの実施は違法ではないし、学力テストを妨害したXらの行為は公務執行妨害に当たると判断したわけです。
まとめ
最高裁が旭川学力テスト事件で示した憲法判断は次のとおりです。
・義務教育における教師にも一定の範囲における教授の自由が保障されるものの、完全な教授の自由は認められていない。
・教育を受ける権利は自由権としての側面があり、具体的な権利として子どもの学習権が認められている。
・教育の自由は親権者及び教師に認められる。
・国家の教育権も一定程度認められるが国家的介入は抑制的であることが求められる。
・旭川学力テスト事件当時における学習指導要領は、「大綱的基準」に留まるため必要かつ合理的な基準の設定として是認できる。
論点の多い判例ですが、整理して押さえておきましょう。