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泉佐野市民会館事件をどこよりも分かりやすく解説【後編】

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(挨拶おわり)


本記事では、憲法の判例でも特に重要と言われている泉佐野市民会館事件(最判平成7・3・7民集49巻3号687頁)の解説を行っていきます。

この記事では、後半部分(争点➁及び争点➂)の解説を行っていきます(事実の概要及び争点➀については、前半の記事をお読みください)。

<泉佐野市民会館事件の主な争点>

  • 「公の施設」の使用の不許可処分は集会の自由の制約になるのか?
  • 泉佐野市民会館の使用の不許可条件たる「公の秩序を乱すおそれ」という文言は集会の自由に対する過剰な制約なのではないか?
  • 「公の秩序を乱すおそれ」という文言自体は違憲ではないとしても、➁で限定解釈した文言に集会の許可を求めた当事者が該当するか?
目次

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争点➁について

争点②泉佐野市民会館の使用の不許可条件たる「公の秩序を乱すおそれ」という文言は集会の自由に対する過剰な制約なのではないか?

⑴問題の所在

泉佐野市民会館の使用の不許可条件たる「公の秩序を乱すおそれ」という文言は集会の自由に対する過剰な制約なのではないか?

この問題に関して、本判決ではいわゆる合憲限定解釈が行われています。

合憲限定解釈とは、「字義通りに解釈すれば違憲になるかもしれない広汎な法文の意味を限定し、違憲となる可能性を排除することで、法令の効力を救済する解釈[1]だとされており、いわゆる法令審査を通じ、法令を合憲とする立論のことを指します。

⑵判旨の読解

限定解釈の流れをわかりやすく説明すると以下のようになります。

⑴「公の施設」の利用拒否が許されるのは、㋐正当な管理権の行使の範囲内(定員オーバー)・㋑利用の競合の他は、㋒他者の人権・公共の福祉が損なわれる危険がある場合である

                  ↓

⑵(本件は㋒を理由として利用を拒否する場合にあたるところ、)㋒他者の人権・公共の福祉が損なわれる危険がある場合として利用拒否をする場合には集会の自由(憲法21条1項)と他の基本的人権の内容・侵害発生の危険性の程度との較量によって集会の自由への「必要かつ合理的」な規制として許容される場合には条例の文言は集会の自由を不当に制限するものではない。

                   ↓

⑶較量の際に、精神的自由の重要性及び事前の許可制という規制態様を強度すれば、
「公の秩序を乱すおそれ」という条例の文言は文言上は広義の表現を採っているが、以下のように解釈することができる。
㋐「他者の人権・公共の福祉への危険を回避し・防止する必要性が集会の自由の重要性よりも優越している場合」と限定して解釈すべきであり、
㋑そのような危険性の程度としては、「明らかに差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」である。 
㋒また、その予見は、許可権者の主観ではなく、「客観的事実」に照らして具体的に予見されることが必要である。

                  ↓

⑷条例の文言を㋐~㋒のように限定的に解釈すれば、集会の自由に対する「必要かつ合理的」な制限にとどまり、憲法21条1項には反しない。

◇条例の文言の限定解釈

公の秩序をみだすおそれ」(条例7条1号)
 ↓       ↓
「他者の生命   「明白」・「切迫」した危険が「客観的な事実」に
・身体・財産」  照らし「具体的に予見」される

⑶理解のポイント

本判決は、集会の自由に配慮した条例の限定解釈をする理由として、➀精神的自由権の重要性・➁事前の許可制という規制態様に着目していると考えられます。

➀は学説におけるいわゆる二重の基準論であり薬事法違憲判決[2]が参照されていることから読み取ることができます。➁は判決文の文言そのものからは読み取ることができませんが、同判決が、事前の許可制の原則的禁止を述べつつ、例外的に不許可にするためには「明白・切迫した危険」が必要だと述べた新潟県公安条例事件判決[3]を引用していることから読み取ることができます。

ちなみに、➀の部分に関連して、成田新法事件[4]では集会の自由の保障の意義・重要性についての説示(❶情報摂取による人格形成・❷意見交換、交流の場・❸対外的な意見表明、民主制)があるためこの機会にプラスα知識として抑えておきましょう。

本判決でなされた合憲限定解釈は、法令の「目的手段・衡量審査の枠内で、法令の文言・趣旨目的・体系に照らした解釈も交えつつ、法令中の違憲部分を除去して合憲部分を画定する」という審査を行っています[5]

目的手段審査の構造が見えにくいと思いますが、目的と手段に着目して整理すると以下のようになります。

管理権者は集会のための公の施設の利用申請に対して許可or不許可という手段を用いることができるが、㋐集会の自由(21条1項)という権利の重要性や㋑集会の自由に対する規制の強さ(許可制という事前規制)などに鑑みると、公の施設の使用申請に対する不許可という「手段」を採用することができるのは、当該集会を許すと規制の「目的」(「公の秩序」の中でも「他人の生命・身体・財産等」の維持)を害する「明らかに差し迫った危険の発生が(客観的な事実に照らして)具体的に予見される」ことが必要であり、このように解する限りにおいて必要かつ合理的な規制として、憲法21条に違反するものではないということです。

法令の一部違憲(部分無効)は違憲部分を画定するのに対して、合憲限定解釈は合憲部分を画定する手法ですので、裁判所は「この部分が違憲である!」と明示的に示してくれません。あくまで「こんな風に限定解釈を加えれば集会の自由に対する必要かつ合理的な規制として合憲だよね!」と言っているにすぎないのです。

◇合憲限定解釈
❶法令の目的・手段等において憲法上の権利を過剰に制約している部分を
(=「公の秩序を乱すおそれ」(条例7条1号)のある集会の不許可)
            ↓
❷目的手段審査・衡量審査の枠内で、法令の文言・趣旨・体系等にも照らして限定解釈
(=「他者の生命・身体への明白・切迫した危険」のある集会のみが不許可と限定解釈すれば、憲法上の権利との関係で「必要かつ合理的」)
            ↓
❸限定解釈した法令の要件に当事者が該当するかどうか判断

争点➂について

争点③「公の秩序を乱すおそれ」という文言自体は違憲ではないとしても、➁で限定解釈した文言に集会の許可を求めた当事者が該当するか?

⑴問題の所在

「公の秩序を乱すおそれ」という文言自体は違憲ではないとしても、➁で限定解釈した文言(構成要件)に集会の許可を求めた当事者が該当するか?

争点➁が法令審査であったのに対して、争点➂専らは適用・処分審査の問題ですので注意してください。そして、当事者が構成要件に該当するのかという問題に付随して重要となるのがいわゆる敵対的聴衆の法理です。

⑵判旨の読解

❶本事件(泉佐野市民会館事件)における言及

「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止に、妨害しようとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことは、憲法21条の趣旨に反する」

❷上尾市福祉会館事件[6]での言及

「主催者が集会を平穏に行おうとしているのに、その集会の目的や主催者の思想、信条に反対する他のグループ等がこれを実力で阻止し、妨害しよとして紛争を起こすおそれがあることを理由に公の施設の利用を拒むことができるのは、…警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られるものというべきである

(上尾福祉会館事件では、泉佐野市民会館事件における説示をさらに敷衍しています。)

⑶分析

*〔ポイント➀〕:敵意ある聴衆とは[7]

 敵意ある聴衆とは、「集会の目的や主催者の思想・信条等に反対する者ら」であるとされているため、「混乱を起こすおそれのある者ら」であっても当該集会への「敵意」を有なさければ同法理の対象とはなりません。また、敵意ある聴衆にいう「聴衆」は、実際に開催された集会等に赴き、実際に発言している聴衆ではなく、あくまで仮想の聴衆にとどまります。つまり、「聴衆」とは集会の主宰者らの「これらの行動」などから、「その集会の目的や主催者の思想、信条に反対」しておて、その意思表示のために実力を行使し妨害を行う「おそれ」のあるものであり、可能性の問題であるからこそ集会の許可の段階で問題となるのです。

*〔ポイント➁〕:どのような主催者を対象としているのか?[8]

敵意ある聴衆の法理に関して、日本の判例では主宰者が集会ないし表現活動を「平穏」に行おうとしていることを重視しています。

上尾福祉会館事件の調査官は泉佐野市民会館事件判決を評して、「集会に対する妨害行為が、施設の利用する側の違法な行為に起因して引き起こされる場合には、反対派の妨害による混乱のおそれを理由として施設の利用を拒むことも許される[9]と述べており、そのような場合には泉佐野市民会館事件において、敵意ある聴衆の法理の射程が及ばないことを示しています。

*〔ポイント➂〕:どのような意味で憲法21条の趣旨に反するのか?[10]

「憲法21条の趣旨に反する」という説示を理解するうえでは、は上尾市福祉会館事件の第1審(浦和地裁平3・10・11)の説示が参考になると思われます。

暴力をおそれるあまり集会の自由の自由を規制することを認めるに等しいこととなり、ひいては違法な暴力行為を助長して民主主義社会の存立を危うくすることになりかねない。むしろ、このような場合、地方公共団体は、可能な限り手段を尽くして違法な暴力から集会を擁護することが、憲法の精神にそうものである。」

この部分を簡単に説明すると、抗議をすることによってイベントを潰すことができるのであれば、集会反対派に「抗議を過激化させることがいいんだ!」という動機を与えてしまい、言論を暴力が封殺するといった事態が起きてしまうけれどそれは民主主義にとって良くないので、国は可能な限り対応しましょうということです。

⑷本事案のあてはめ

❶限定解釈した文言への該当性

「中核派が、本件不許可処分のあった当時、関西新空港の建設に反対して違法な実力行使を繰り返し、対立する他のグループと暴力による抗争を続けてきたという客観的事実からみて、本件集会が本件会館で開かれていたのであれば、本件会館内又はその付近の路上においてグループ間で暴力の行使を伴う衝突が起こるなどの事態が生じ、その結果、グループの構成員だけでなく、本件会館の職員、通行人、付近住民等の生命、身体又は財産が侵害されるという事態を生ずることが、具体的に明らかに予見される」

❷敵意ある聴衆の法理の排除

「本件集会の実質上の主宰者と目される中核派は、関西新空港建設反対運動の主導権をめぐって他のグループと過激な対立抗争を続けており、他のグループとの集会を攻撃して妨害し、更には人身に危険を加える事件も引き起こしたのであって、…平穏な集会を行うとしている者に対して一方的に実力による妨害がされる場合と同一に論ずることはできない」

まとめ

今回は、泉佐野市民会館事件の後半部分を解説しました。

本稿が、少しでも読者の一助になれば幸いです。

参考文献

➀近藤崇晴「判解」最判民事篇平成7年度(上)282頁

➁柴田憲司「第5回 憲法事例分析の技法―公園での祭りの不許可と集会の自由」法教503号(2022年)62頁

➂横大道聡「『敵意ある聴衆の法理』についての一考察」『法学研究』95巻3号(慶應義塾大学法学研究会、2022年)


[1]芦部信嬉(高橋和之補訂)『憲法〔第8版〕』(岩波書店・2023年) 408頁

[2] 最大判昭和50・4・30民集29巻4号572頁

[3] 最大判昭和29・11・24刑集8巻11号1866頁

[4] 最大判平成4・7・1民集46巻5号437頁

[5] 柴田憲司「33 合憲限定解釈と憲法適合解釈」横大道聡『憲法判例の射程 第2版』376頁参照

[6] 最判平成8・3・15民集50巻3号549頁

[7] 横大道聡「『敵意ある聴衆の法理』についての一考察」『法学研究』95巻3号(慶應義塾大学法学研究会、2022年)16-18頁

[8] 同上・12頁

[9] 秋山壽延「判解」最判民事篇平成8年度(上)210頁

[10] 横大道・前掲注6)

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