【刑法】共犯論の理解に必要な前提知識-共犯論#1

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刑法の共犯論はなぜ重要なのか?

みなさんが犯罪を計画するとしたら、成功率を挙げるためにどのような工夫をしますか?
そうです。複数人で協力するのが一番いいですね。

共犯論は刑法学の暗黒と称される難解な分野です。しかし、みんなで協力して犯罪を行うというのは、決して珍しくありません。

クソ難しいくせに、実務でよく遭遇する――このような条件を満たすと、司法試験の超頻出分野となるのです。刑訴法なら伝聞法則とか。

そう。共犯は刑法における超頻出分野です。

そこで、今回から、共犯に関する論点の解説記事を、何回かに亘ってお届けいたします。

初回は、「共犯論・総論」と題しまして、様々な論点に共通するいくつかの概念を解説します。

これはいわば、共犯論という大きな世界を旅するための羅針盤です。是非一緒に習得していきましょう。

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共犯とは?

これから、いくつかの記事に分けて共同正犯について解説していきます。その前に、関連する単語や考え方について、一度さらっとおさらいしておきましょう。

初めて見る単語がある方は、頭に入れてから次に進みましょう。この後、ここで出てくる単語は何度も出てきます。

まず、条文上は、以下の三つの類型がありますので、それぞれの言葉を解説してきます。

【共犯 三つの類型】
1. 教唆(他人を犯罪にそそのかす)
2. 幇助(他人の犯罪を助ける)
3. 共同正犯(複数人が共同で犯罪を行う)

狭義の共犯—教唆・幇助

「教唆」と「幇助」は「狭義の共犯」です。

(教唆)
第六十一条 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。
(幇助)
第六十二条 正犯を幇助した者は、従犯とする。
2 従犯を教唆した者には、従犯の刑を科する。

狭義の共犯①教唆

教唆は、犯罪をする意思のない者を唆して犯罪を行わせることを言います。

教唆は、もともと犯罪を行う意思がない者に、新たに犯罪をする意思を芽生えさせる類型です。そのため、その非難を重く見て、正犯と同じ刑を科すこととされています。

狭義の共犯②幇助

幇助犯は、犯罪をする意思のある者の犯罪を手助けする者を言います。

こちらは、もともと犯罪を行う意思がある者が行う犯罪を容易にする類型です。そのため、正犯者よりも結果への寄与が軽いと考えられるので、正犯の罪を軽減して科すこととされています。

犯罪を行う意思がすでにある者に犯罪を行うように言うのは、教唆でなく幇助です。

(参考)従犯減軽
第六十三条 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。

【幇助の例】

幇助には、次のように物理的に助ける場合もあります。

【例:物理的】Xは正犯者Yの窃盗を容易にするために、V宅の窓をあらかじめ開けておいた。

一方で、次のように心理的に助ける場合も、幇助に含まれます。

【例:心理的】Xは、窃盗を決断した正犯者Yを励まして窃盗を行わせた。

共同正犯

一方、共同正犯(共同して犯罪を行った者)は正犯とされます。

(共同正犯)
第六十条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

共同正犯は、一大論点なので、次回以降に詳しく説明します。教唆・幇助・共同正犯で、条文上明文がある3つの類型は以上です。

共謀共同正犯

条文上明文で認められていないように見える類型として、「共謀共同正犯」があります。詳細はこの後の章で詳しく説明しますが、簡単に触れておきます。

共同正犯の条文の中には「共同して犯罪を行った」と書かれていますが、次の場合にも「共同した」と言えるのでしょうか?

◆事例(最判昭和33年5月28日)
練馬区所在の甲工場の従業員で構成される労働組合U1は、同じく甲工場の従業員で構成される労働組合U2と対立しており、U1の構成員が暴行を行い検挙されるなどしていた。
そこで、U1の構成員A・Bは、U2の委員長Vと練馬警察署の警察官Wに対して暴行を加えることを、構成員C~Jと協議し、C~JはWに暴行を加えて死亡させた。

A・Bは協議はしたが、現場には赴いていない。

計画立案や指示は行っただけで実行行為には参加していないような者が共同正犯とされるかは争いがありました。

つまり、指示しただけで実行行為を行っていないなら、それは教唆に過ぎないのではないかと。

しかし、現在は判例も学説も、実行行為に参加しない共同正犯――共謀共同正犯を認めています。

狭義の共犯の希少性

勘のいい方ならお気づきかもしれませんが、ここで非常に重要なことが一つあります。

実務においては、教唆犯・幇助犯なんてのは滅多におらず、ほとんどが(共謀あるいは実行)共同正犯であるということです。

後ほど詳しく説明しますが、正犯とは「自己の犯罪として参加する者」と言うことができます。

言い換えれば、従犯とは、「他人の犯罪に関与する者」ですが、わざわざそんなことをする人はあまりいません。暇じゃねえんだから。

したがって、刑法の試験で、他人に指図したり計画に協力した者が出てきたときは、まず真っ先に共同正犯を検討してください。

教唆犯と書いた答案を見たら、心の中でこう言ってください。

「狭義の共犯なんて言うなよ!仲間だろ!!」

間接正犯

間接正犯とは?
「他者を道具のように使って自らの犯罪を行った者」で、正犯として処罰される者です。

教科書では、間接正犯も共犯の章で説明されています。

こちらは日本の刑法では明文の規定がないため、教唆犯に過ぎないのではないかという意見もありました。しかし、現在では、判例・学説では認められています。

間接正犯も一大論点ではありますので、次回以降、機会があれば解説します。

(参考)ドイツ刑法25条1項(筆者訳)
自ら、または他者を通して、犯罪行為を行ったものは、正犯として処罰される。

因果的共犯論

狭義の共犯の処罰根拠は、通説によれば、正犯者を通じて間接的に正犯結果を惹起したことです。

少数説である責任共犯論では、共犯(特に教唆犯)には、正犯とは質の異なる違法性があるとするのに対して、因果的共犯論では、正犯の違法結果を発生させるのに寄与したことが処罰根拠とされています。

したがって、共犯行為と実行行為・結果との間に「因果性」が求められます。実行行為と結果との間に因果関係が求められるのと同じような感じです。

【狭義の共犯の処罰根拠】
通説:因果的共犯論 正犯者を通じて正犯結果を惹起したことを処罰根拠とする
通説じゃない:責任共犯論 正犯者を誘惑して犯罪者に堕落させたことを処罰根拠とする

共犯行為と実行行為・結果の間に求められる「因果性」

因果性とは?
共犯行為が実行行為・結果の発生に寄与したという関係のことです。

因果性という要件は、狭義の共犯のみならず、共同正犯においても要求されます。

共犯の因果性は「共犯の離脱」、「承継的共犯」、「共犯の錯誤」などの論点の指針となっていきます。

因果性があるかどうかの判断は、因果関係よりも緩くて構いません。具体的には、以下のいずれかを満たす場合に当てはまります。

【因果性があるとされる場合 (以下のいずれかに当てはまると該当)】
・心理的因果性:その犯罪を行うのを心理的に容易にしたこと
・物理的因果性:その犯罪の実行と結果発生を物理的に容易にしたこと

正犯性

正犯(単独正犯・共同正犯・間接正犯)と従犯(教唆・幇助)を分けるものを、正犯性と呼びます。
正犯とは、その結果に対して第1次的な責任を負う者をいいます。

言い換えれば、その犯罪を自己の犯罪として行った者のことを指します。そこで、正犯性とは以下がある者をいいます。

【正犯性に該当する要件】
・自己の犯罪として行うという意思(正犯意思)があること
・結果実現に対する重大な寄与があること

とはいえ、実際に共同正犯の論述をするときには、「共謀」という概念を要件として使い、正犯性は「共謀」の中に含めますので、ここでは正犯性は指針として覚えておいてください。

まとめ

さて、ここまでの内容をまとめるとこんな感じです。

・「狭義の共犯なんていうなよ!俺たち仲間だろ!!」
・共犯には因果性が必要。共同正犯も含めて
・正犯には正犯性が必要

次回からは、判例や学説の解説を通じて、具体的な論点の説明を行っていきます。

▼今回の参考文献▼

・大塚裕史『応用刑法I 総論』(日本評論社、2023)

・大塚裕史ほか『基本刑法I 総論[第3版]』(日本評論社、2019)

・犯罪白書(令和5年度)第3編第1章第1節4

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