「短答式試験の合格点を知りたい」
「予備試験の短答式試験に足切り点はあるの?」
「一般教養科目は対策が必要なのかな?」
予備試験に挑戦する方の最初の関門は「短答式試験」ですよね。
しかし、安心してください。試験である以上、ちゃんと対策方法が存在します。
良く言われるのが、司法試験予備試験の短答式試験の合格点を突破するためには、「法律基本科目に力を入れて、一般教養科目はある程度やっておけばよい」ということです。多くの資格スクールが推奨しているこの受験戦略は本当に有効となのでしょうか?
どんな試験でも、まず敵を知ることから始めなければなりません。短答式試験に限らず、まずは論文式試験であっても同じです。合格点を知ることは非常に大切です。合格点という視点から、この疑問に回答していきます。
では、今回は司法試験予備試験の短答式試験の「合格点、及び足切り点から具体的な対策方法」について解説していきます。
目次
そもそも、司法試験予備試験とは
「司法試験予備試験は、法科大学院を経ずに司法試験の受験資格を得るための試験です。」
合格すれば、法科大学院に行くための費用と時間をかけずに司法試験を受けられるうえ、「予備試験出身者は優秀」との評価が得られるため、法曹三者への採用時も有利になります。
予備試験は、短答式試験、論文式試験、口述試験の段階に分かれており、短答式試験の合格者が、論文式試験、口述試験に進めるようになっています。
では、もう少し試験の内容についてご説明します。
予備試験短答式試験の試験科目と合格点(合格ライン)
試験分類 | 試験科目 | 試験時間 | 満点数(270点) |
法律基本科目 | 憲法 | 1時間 | 30点 |
行政法 | 30点 | ||
民法 | 1時間30分 | 30点 | |
商法 | 30点 | ||
民事訴訟法 | 30点 | ||
刑法 | 1時間 | 30点 | |
刑事訴訟法 | 30点 | ||
一般教養科目 | ー | 1時間30分 | 60点 |
短答式試験の試験科目は、大きく分けて、「法律基本科目」と「一般教養科目」に分かれています。
法律基本科目は、「憲法、行政法、民法、商法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法」の7科目です。
各科目で10問ないし15問程度が出題され、各科目いずれも30点満点とされています。
法律基本科目の試験は、「憲法と行政法」で1時間、「民法・商法と民事訴訟法」で1時間30分、「刑法と刑事訴訟法」で1時間の時間が割かれています。
対して、一般教養科目は、全部で40問程度出題され、そのうちの20問を受験者が選択して解答していきます。
主に、「人文科学、社会科学、自然科学、英語」の分野から、大学卒業程度の一般教養の知識が試される内容の問題が出題されます。試験時間は1時間30分で、1問につき3点が充てられており、満点は60点です。
点数を全て合計すると、予備試験は、270点満点の試験ということになります。
・法律基本科目:7科目×30点=210点
・一般教養科目:60点
合否判定方法
短答式試験の各科目の合計点をもって判定を行う。
ただし、短答式試験において受験をしていない科目が1科目でもある場合は、それだけで不合格とする。
(引用 司法試験予備試験の方式・内容等について 令和4年11月29日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項より)
ここで注目すべきことは、各科目ごとに最低得点(足きりライン)が設定されているわけではなく、すべての科目の合計得点で、合否が決まることです。
そのため、仮に一般教養科目が0点だったとしても、法律基本科目の合計得点で合格点(合格ライン)を超えていれば、合格できます。
令和4年度の短答式試験の合格点は、「各科目の合計得点159点以上」なので、仮に、「一般教養科目が0点」だったとしても、「法律基本科目で各科目23点」、得点できていれば、合計161点となり、合格点(合格ライン)を突破できるということです。
各科目23点と言うのは、割合で言えば、各科目7~8割です。
ちなみに、過去の予備試験短答式試験の合格点(合格ライン)は次のようになっています。
予備試験短答式試験の合格点(合格ライン)
年度 | 合格点 |
2011年(平成23年) | 165点 |
2012年(平成24年) | 165点 |
2013年(平成25年) | 170点 |
2014年(平成26年) | 170点 |
2015年(平成27年) | 170点 |
2016年(平成28年) | 165点 |
2017年(平成29年) | 160点 |
2018年(平成30年) | 160点 |
2019年(令和元年) | 162点 |
2020年(令和2年) | 156点 |
2021年(令和3年) | 162点 |
2022年(令和4年) | 159点 |
2023年(令和5年) | 168点 |
平成の間に行われた予備試験短答式試験では、合格点が比較的高かったため、法律基本科目で高得点を狙って、一般教養科目は捨てると言った対策は通用しにくかったでしょう。
しかし、ここ数年は、合格点が下がっており、160点以下が合格点(合格ライン)となる年も出ています。
こうした傾向から、予備試験短答式試験では、法律基本科目で各科目8割(各24点、合計168点)獲得するだけでも、ほぼ合格点(合格ライン)を超えることになり、合格する確率はかなり高くなるのではないでしょうか。
なお、令和5年の合格点は158点でした。平成25年から平成27年の170点に次ぐ高い点数となっています。
短答式試験の点数は「論文・口述試験」にも影響するのか?
・予備試験の最終的な合否は、短答・論文・口述試験の合計点で決まる?
・短答式試験でぎりぎり合格点(合格ライン)を超えているようでは、最終合格はおぼつかない?
・そんな全振りして大丈夫なの?
その様に考える方も、いらっしゃるかもしれません。
実際の合否は、短答式試験と論文式試験、口述試験の合計点で決まるわけではないため、それぞれの試験で合格していけば、予備試験を合格することができます。
短答式試験で合格点(合格ライン)がギリギリでも、問題なく、予備試験の合格を狙うことができます。
その証拠に、予備試験考査委員は、短答式試験の次の試験である論文式試験の合否判定方法について、次のように示しています。
論文式試験の各科目の合計点をもって判定を行う。
ただし、論文式試験において受験をしていない科目が1科目でもある場合は、それだけで不合格とする。
(引用 司法試験予備試験の方式・内容等について 令和4年11月29日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項より)
つまり、論文式試験は、論文式試験の得点だけで合否が決まるということです。
短答式試験と論文式試験の合計点で、合格者(口述試験に進める人)を決めているわけではありません。
論文式試験の次の試験である口述試験でも、合否判定方法は、次のように示されています。
法律実務基礎科目の民事及び刑事の合計点をもって判定を行う。
口述試験において法律実務基礎科目の民事及び刑事のいずれかを受験していない場合は、それだけで不合格とする。
(引用 司法試験予備試験の方式・内容等について 令和4年11月29日司法試験予備試験考査委員会議申合せ事項より)
口述試験も、口述試験の得点だけで合否を決めており、短答式試験、論文式試験、口述試験の得点の合計で、最終合格者を決めているわけではないということです。
以上の点を踏まえると、予備試験短答式試験では、合格点(合格ライン)を確実に超えれば足りるわけで、それ以上の高得点を狙う必要はないと言えるでしょう。
一般教養科目を捨てる戦略は本当に有効なのか?
予備試験短答式試験の科目の中で、一般教養科目は厄介な科目とされています。
というのも、一般教養科目は、大学卒業程度の一般教養の知識が試されます。大学卒業程度の一般教養の知識というのは、大学入試と同程度の試験の難しさだと言われています。
言い換えれば、「法律系の勉強を行いながら、大学入試対策と同じ勉強をすればよい。」ということになります。
しかし、実際は、予備試験の短答式試験の得点のうち、法律基本科目が占める割合が約78%あるのに対して、一般教養科目は約22%に過ぎません。
法律基本科目が点数のかなりの割合を占めるにも関わらず、一般教養科目対策として大学入試と同程度の勉強をすることは、コストパフォーマンス悪いと言わざるを得ないでしょう。
また、一般教養科目は、40問程度の中から、自分が答えられる問題を20問選出して答えればよいという特殊な出題形式となっています。中には時事問題や社会常識を問う問題も含まれており、このような問題を中心に解いていけば、ある程度の得点は見込めるでしょう。
そのため、一般教養科目対策は、ある程度やっておけばよく、本腰を入れて対策を講じることは、受験戦略上、推奨されていません。
多くの資格スクールが推奨している、「法律基本科目に力を入れて、一般教養科目はある程度やっておけばよい」という受験戦略はよく聞く話です。
一般教養科目は得点できれば儲けものと考えて、法律基本科目だけで合格点(合格ライン)を突破することが、受験戦略上、有効と考えられます。
法律基本科目で各科目8割、24点、合計168点を得点するのは現実的なのか
先ほど合格点のところで話した通り、ここ数年は、合格点が下がっており、160点以下が合格点(合格ライン)となる年も出ています。
こうした傾向から、予備試験短答式試験では、法律基本科目で各科目8割(各24点、合計168点)獲得するだけでも、ほぼ合格点(合格ライン)を超えることになり、そのことを踏まえて一般教養科目を捨てる戦略を成り立たせるためには、法律基本科目で各科目8割、24点、合計168点を取るつもりで対策を講じる必要があります。
では、本当に、法律基本科目だけで8割の得点を狙うことは現実的なのでしょうか?
結論から言うと、法律基本科目だけで8割の得点を狙うことは難しいです。
上記で紹介した過去の予備試験短答式試験の合格点(合格ライン)とは別に、短答式試験合格者の平均点のデータがありますが、次のとおりです。
予備試験短答式試験合格者の平均点
年度 | 短答式試験合格者の平均点 |
2011年(平成23年) | 184.1点 |
2012年(平成24年) | 185.3点 |
2013年(平成25年) | 185.3点 |
2014年(平成26年) | 185.7点 |
2015年(平成27年) | 187.5点 |
2016年(平成28年) | 181.5点 |
2017年(平成29年) | 174.9点 |
2018年(平成30年) | 177.7点 |
2019年(令和元年) | 177.0点 |
2020年(令和2年) | 173.7点 |
2021年(令和3年) | 178.7点 |
2022年(令和4年) | 175.0点 |
2023年(令和5年) | 183.4点 |
このうち、一般教養科目でどれだけ得点しているのかは、正確には分かりませんが、一般的には、0点ということはなく、21点以上は得点できると言われています。
仮に2022年(令和4年)に、合計得点175点中、一般教養科目で21点得点しているものと仮定すると、法律基本科目では、154点得点していることになります。
平均して、各科目7割3分の22点得点していたと推測できるわけですね。
実際には、一般教養科目で、21点以上得点できると言われていることから、法律基本科目の得点もその分少なくなると推測されます。
つまり、短答式試験合格者でさえ、各科目8割、24点を狙うことは難しいということになります。
もっとも、口述試験まで突破して最終合格する人は、短答式試験の得点も、平均点より高いと思われますので、最終合格できる実力が備わっていれば、各科目8割、24点を狙うことも不可能ではないでしょう。
ただ、一般教養科目を捨てる戦略が今後も通用するかは分からない
現時点では、予備試験短答式試験において、一般教養科目を捨てて、法律基本科目で合格点(合格ライン)を超えるという対策も有効です。
ただ、司法試験委員会は次の様な実施方針を示していることに留意しておいてください。
合否判定の在り方
短答式試験,論文式試験,口述試験のいずれの段階においても,合計得点で合否判定を行う。
法律基本科目,選択科目,法律実務基礎科目,一般教養科目のそれぞれについて,最低ライン点を定めるかどうかは,予備試験の実施状況を踏まえつつ,検討することとする。
(引用 司法試験予備試験の実施方針について 令和3年6月2日 司法試験委員会決定 改正 令和4年11月16日)
つまり、一般教養科目について、最低ライン点が設定されることがあるかもしれないということです。
もっとも、この記述は、平成年間の実施方針から載せられています。「検討する」としているだけで、実際に、最低ライン点が設定されたことはありません。
もしも、最低ライン点が設定されることがあれば、資格スクールからもアナウンスがあると思いますので、その時は、一般教養科目対策にも力を入れるしかありません。
いずれにしても、そのような方針変更がなされる前に、合格してしまうべきでしょう。
まとめ
司法試験予備試験の短答式試験の合格点を突破するためには、多くの資格スクールが推奨しているように、「法律基本科目に力を入れて、一般教養科目はある程度やっておけばよい」という受験戦略は有効ということになります。
ただ、今後試験制度が変わる可能性があることから、できる限り、早い段階で合格することが必要となるかと思います。
予備試験の短答式試験は、1問あたりにかけられる時間は2分から3分とされています。
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