他の株主に対する招集通知の瑕疵――それでも、株主は訴えを提起できるか?
株主総会決議取消しの訴えを提起できるのは、「自分の利益が害されたとき」だけだと考えていませんか?本稿で扱う最高裁昭和42年9月28日判決は、この素朴な発想に鋭く切り込む重要判例です。
本件では、株主Xが自己の株式の一部を他人に譲渡した後、その譲受人が株主総会の招集通知を受け取らなかったことを理由として、X自身が株主総会決議取消しの訴えを提起したという事案が問題となりました。ここで問われるのは、他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由に、自分が訴えを起こせるのかという点です。
本判決は、この問いに明確な判断を示しました。本稿では、論文対策として押さえておくべき学説状況や関連判例についても整理します。
目次
最高裁昭和42年9月28日判決の事案
(1)Y株式会社(被告・控訴人・上告人)の株主X(原告・被控訴人・被上告人)は、自分が所有していたY社の株式のうち7700株を、Aら20名に裏書譲渡しました。そして、Aらは、Y社に対し、譲渡された各株券を提出し、その名義書換を請求しました。
(2)これに対し、Y社は、株券を預かりながら正当な理由なく名義書換請求を拒絶した上、その後に開催された3回の株主総会において、Aらに対して招集通知を出しませんでした。
(3)そこで、Xは、これらの株主総会の決議はその招集手続に違法があるとして、株主総会決議取消しの訴え(会社法831条1項1号)を提起しました。
➡簡単にまとめると、自分の株式のうち一部をAに対して譲渡した株主Xが、それにより株主となったはずのAに対して招集通知がなされなかったことを理由として、Y社に対して株主総会決議取消しの訴えを提起したという事案です。
◆関係条文◆
(株主総会等の決議の取消しの訴え)
第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。
最高裁昭和42年9月28日判決の争点
では、今回の事案の争点を見てきましょう!
まず、正当な理由なく株式の名義書換を拒絶した会社は、名義書換がないことを理由として株式譲渡の効力を否定できません(最高裁昭和41年7月28日第一小法廷判決、会社百選13事件[第4版])。
そのため、Y社は、XのAに対する株式の譲渡の効力を否定できないことになり、株主総会の招集にあたりAに対して招集通知を出す必要があります(会社法299条1項)。それにもかかわらず、Y社はAに対して招集通知をしていないため、これは株主総会決議の取消事由(会社法831条1項1号)となります。本稿では扱いませんが、名義書換の不当拒絶の論点も非常に重要ですので、学びたい方は最高裁昭和41年7月28日第一小法廷判決(会社百選13事件)などを参照しましょう!
話を戻しますと、本件においてはAに対する招集手続の瑕疵があり、これが決議取消事由となるわけです。しかし、株主総会決議取消しの訴えを提起しているのはXであり、Aではありません。
そのため、他の株主Aに対する招集手続の瑕疵があった場合に、株主Xがそれを理由として株主総会決議取消しの訴えを提起することができるかということが問題となりました。
学説
このような問題に対し、自分に対する瑕疵のみを主張できるという反対説もあります。これは、招集通知は各株主の利益を保護するためのものであって、決議取消しの訴えも株主の利益を保護する目的から認められるものであるから、もっぱら会社の利益のために決議取消しの訴えを提起しなければならないものではない以上、各株主は自分に対する招集通知の瑕疵を主張することしかできないということを理由とします[1]。
これに対し、通説は肯定説です。これは、招集手続の瑕疵が決議取消事由とされるのは、その瑕疵によって公正な決議の成立が妨げられたかもしれないことを是正するためであるということや、決議取消しの訴えが株主によるコーポレート・ガバナンスを実現する重要な措置として位置づけられるということを理由とします[2]。つまり、株主総会決議取消しの訴えは株主総会決議の公正を確保するためのものであるから、他の株主に対する瑕疵も主張できるというわけです。
最高裁昭和42年9月28日判決の判旨
それでは、本判決がどのような判示をしたのか見ていきましょう!本判決は、以下のように判示し、Yによる上告を棄却しました。
最高裁昭和42年9月28日の結論
「株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴を提起し得るのであるから、被上告人が株主…に対する招集手続の瑕疵を理由として本件決議取消の訴を提起したのは正当であり、何等所論の違法はない。しかして、原審認定の事実関係の下においては」、Aらが「総会招集の通知を受けず議決権を行使し得なかつたことが、本件総会の決議に影響を及ぼさないとのことを認めるべき証拠はないとした原審の判断も正当である。もつとも裁判所は諸般の事情を斟酌して株主総会の決議取消を不適当とするときは取消の訴を棄却することを要するが、原審認定の事実関係の下においてはかかる事情も認められない。」
このように、本判決は肯定説の立場に立つことを明らかにしました。さらに、Aが招集通知を受けることができず、議決権を行使できなかったことは、株主総会決議に影響を及ぼさないものとはいえないとし、諸般の事情を考慮しても裁量棄却(831条2項)を認めることはできないとしました。
決議取消の理由が「株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反」の場合は、会社法831条2項の裁量棄却の検討は忘れないようにしましょう!
最高裁昭和42年9月28日の結論を導いた理由は?
本判決自体は、株主が自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくても他の株主に対する招集手続に瑕疵があれば決議取消しの訴えを提起できるとする理由を述べてはいません。
理由を明示してくれないのは
受験生としては困るなあ。
同様の見解に立つと思われる「最高裁平成9年9月9日判決」を紹介するぞ。ここで示された理由や学説の肯定説の見解を押さえておけば、受験生としては、十分だ!
もっとも、同様に肯定説の立場に立つと思われるものとして、最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決があります。これは、特定の株主に対する招集手続の瑕疵に関連して取締役の任務懈怠責任を追及するという事案ではありますが、以下のように判示しています。
「株主総会開催に当たり株主に招集の通知を行うことが必要とされるのは、会社の最高の意思決定機関である株主総会における公正な意思形成を保障するとの目的に出るものであるから、同上告人に対する右通知の欠如は、すべての株主に対する関係において取締役である被上告人らの職務上の義務違反を構成するものというべきである。」
このように、平成9年判決は、招集通知の目的は株主総会における公正な意思形成を保障することにあるから、招集手続の瑕疵は、すべての株主に対する関係において取締役の職務上の義務違反となるとしました。これは、招集通知の目的は株主総会の公正の確保であるという点を明らかにするものであり、本判決の判示を補強するものといえそうです。
この平成9年判決が述べる「株主総会の招集通知の目的」は答案で表現できるようにキーワードとしてストックしておきたい!
最後にポイントをまとめると、①株主総会決議取消しの訴えは、株主総会決議の公正を確保・保障するためのものであるから、②すべての株主は、他の株主に対する招集手続の瑕疵を理由として決議取消しの訴えを提起することができる、ということになります。理由付けも含めてよく学習しておきましょう!
おわりに
今回は、最高裁昭和42年9月28日第一小法廷判決を題材に、他の株主に対する招集手続の瑕疵と決議取消しの訴えについて見ていきました!
この論点は、論文問題において見落とされがちではありますが(筆者自身もよく忘れます笑)、新司法試験において過去に複数の出題があり、重要な論点です。
この論点について詳しく学びたい方は、「会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)」のp70~の解説がおすすめです!
参考文献
・岩原紳作「会社法コンメンタール19 外国会社・雑則(1)」(2021)
・会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)
[1][1] 岩原紳作「会社法コンメンタール19 外国会社・雑則(1)」(2021)278頁。
[2] 周劍龍「他の株主に対する招集手続の瑕疵と決議取消しの訴え」会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)71頁。