「モリテックス事件は論点が複雑で難しそう。事案の概要を理解したい」
「株主の指示に反して議決権を行使するって、そんなことが許されるの?」
「株主総会における議決権の行使の方法って、具体的にどんな方法があるのかな?」
前回までの会社法の判例論点解説記事
前回までの連載
・【会社法】株式の準共有をわかりやく解説【初学者向け】
・蛇の目ミシン株主代表訴訟事件の分かりやすい解説と論述のポイント
・モリテックス事件の分かりやすい解説と論述のポイント前編
・モリテックス事件の分かりやすい解説と論述のポイント後編←イマココ
前回の記事では、モリテックス事件(東京地判平19年12月6日、会社法判例百選31事件)について、利益供与(会社法120条1項)違法性阻却事由を中心に解説しました。
この記事でもモリテックス事件を扱います。
同判決は、株主総会において代理人が委任状による議決権行使をしたにもかかわらず(310条1項)、会社(株主総会の議長)が委任状記載の賛否の指示に反して欠席として扱うことで成立した決議は、決議方法の法令違反(831条1項1号)として取消しの対象となることも判示しています。
そこで、この記事では後編として、株主本人の指示に反する議決権の代理行使の適法性と決議取消事由について解説していきます。
目次
モリテックス事件の事案
モリテックス事件は、①株主本人の指示に反する議決権の代理行使の適法性(310条1項、民法113条1項)と決議取消事由(831条1項1号)、②例外的に利益供与(会社法120条1項)の違法性が阻却される場合を判示しています。
この2点を踏まえて事案を簡略化すると、少し長くなりますが、以下のようになります。
Y株式会社(被告)は上場会社であり、Y社の定款では、取締役の員数は8名以内、監査役の員数は4名以内である旨が定められ、任期が満了する取締役8名・監査役3名については、本件株主総会で後任者を選任することが予定されていました。
Xは株主提案権を行使し、A1~A8を候補者とする取締役選任の件、およびBI~B3を候補者とする監査役選任の件を本件株主総会の目的とすることを請求し、Y社の全株主に対して、議決権の代理行使のために本件委任状を送付しました。本件委任状には、委任事項として「原案に対し修正案が提出された場合(Y社から原案と同一の議題について議案が提出された場合も含む)…はいずれも白紙委任とします。」と記載されていました。
Y社は、全株主に対し、招集通知・議決権行使書面等(本件書面)を発送しました。そこには会社提案としてC1~C8を候補者とする取締役選任の件(第2号議案)、B1・D1・D2を候補者とする監査役選任の件(第3号議案)が、そして前述の株主提案が第4号議案・第5号議案として記載されていました。
また、Y社の送付した招集通知・議決権行使書には、有効に議決権行使をした株主1名につきQuoカード1枚(500円分)を贈呈する旨等が記載されるとともに、「各議案に賛成された方も、反対された方も、また委任状により議決権を行使された株主様にも同様に贈呈いたします。」との記載がされていました。
その後も、Y社は、Y社株主に対し、「『議決権行使書』ご返送のお願い」と題するはがき(本件はがき)を送付しました。本件はがきには、以下のような文言が記載されていました。
(本件はがきのイメージ) 今次株主総会は、当社の将来に係わる重要な総会でございますので、当日ご出席願えない方で、まだ議決権行使書をご返送頂いていない場合には、誠にお手数ですが招集ご通知同封の議決権行使書に賛否を誤表示頂き、お早めにご返送頂きたく重ねてお願い申し上げます。議決権を行使(委任状による行使を含む)して頂いた株主様には、Quoカードを進呈致します。 【重要】 本年6月開催の株主総会は、当社の将来に係わる重要な株主総会となります。是非とも、会社提案にご賛同のうえ、議決権を行使して頂きたくお願い申し上げます。 |
本件株主総会において、議長は、Xの委任状に基づく代理行使分について、株主提案である4号・5号議案の集計の際には、出席議決権に加え、賛成票として扱いました。
しかし、4号・5号議案と対立する会社提案の2号・3号議案の集計の際には、代理行使分が4号・5号議案への賛成票であって、両立しないことを理由に、反対票ではなく出席しなかったものと扱い、この代理行使分を出席議決権数から除外しました(本件集計方法)。
その結果、会社提案の候補者が全て過半数を獲得し、株主提案の候補者は過半数を獲得しなかったと集計して、第2・3号議案が可決承認された旨を宜言した。
また、Y社は、本件株主総会に関して、議決権を行使した株主に対して、1人当たり500円分(合計額452万円)のQuoカードを送付しました。
Xは、
①Quoカードの贈呈は違法な利益供与に当たることから(120条1項)、決議方法に法令違反(831条1項1号)がある、
②会社提案の2号・3号議案に対する委任状に基づく議決権行使は、反対票と解する趣旨である。会社提案に対して代理人が委任状による議決権行使をしたにもかかわらず(310条1項)、会社(株主総会の議長)が委任状記載の指示に反して欠席と扱っており、これにより成立した決議は、決議方法に法令違反(831条1項1号)がある、
ことを理由に、第2・3号議案にかかる総会決議の取消訴訟を提起しました。
本記事では、争点②株主本人の指示に反する議決権の代理行使の適法性(310条1項、民法113条1項)と決議取消事由(831条1項1号)について解説します。
議決権の代理行使(310条1項)についての確認
争点②についての本判決の判断に入る前に、議決権の代理行使について確認しておきましょう。
会社法上、株主総会における議決権の行使の方法は、株主が出席して自ら行使する方法(309条1項)の他、委任状により代理権を授与された代理人が出席して行使する方法(310条)、出席しない株主による書面投票(298条1項3号、311条)、出席しない株主による電子投票(298条1項4号、312条)が規定されています。
310条1項は、「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。」と定めており、「代理権を証明する書面」すなわち委任状を会社に提出することを求めています。
ここでは、株主が会社に対して議決権を代理行使する方法という株主・会社間の関係が規定されているにすぎず、代理行使された議決権の効力や株主・代理人間の内部関係については規定されていません。
代理行使された議決権の効力は、代理等の民法の原則が適用されます(東京高判令和元年10月17日〔会社法判例百選A9事件〕参照)。
そうすると、株主本人の指示に反して議決権の代理行使がなされた場合、無権代理として無効(民法113条1項)になります(田中亘『会社法〔第4版〕』190頁、田中亘「会社法施行5年 理論と実務の現状と課題『株主総会における議決権行使・委任状勧誘』」9-11頁)。
そして、株主本人の指示に反するか否かは、本人の代理権授与の趣旨に反するか否かによって判断します。
モリテックス判決における判断
本判決の事案に戻ってみましょう。
本判決の事案では、取締役および監査役の選任という議題について、株主X提案の4号・5号議案と、会社提案の2号・3号議案が提出されています。
Xは、株主から本件委任状により授与された代理権に基づき、4号・5号議案に対して、賛成票を投じています。そして、本件委任状は、Y社から同一の議題について議案が提出された場合には、白紙委任とする記載が存在します。
本件委任状に基づいてXが2号・3号議案に対して議決権を行使したときに、どのように扱われることが、本人の代理権授与の趣旨に合致し、株主本人の指示に反しないといえるでしょうか。
これについて判示した部分を見てみましょう。
「本件においては、XらとY社経営陣との間で経営権の獲得を巡って紛争が生じている…。また、Y社の定款に定められた員数の関係から、本件株主総会において選任できる取締役の員数は最大で8名、監査役の員数は最大で3名であって、本件株主提案に賛成し、Xに議決権行使の代理権を授与した株主は、本件会社提案に係る候補者については賛成の議決権行使をする余地がない。」
つまり、候補者の数だけ議案が存在するところ、Xに代理権を授与した株主は、4号・5号議案(取締役8名にA1~8・監査役3名にB1~3を選任すること)に賛成の議決権を行使した以上、これと両立しない2号・3号議案(取締役8名にC1~8・監査役3名にB1·D1·D2)に賛成の議決権を行使することはありません。
そして、「このような状況下においては、本件株主提案に賛成して本件委任状をXに提出した株主は、委任事項における『白紙委任』との記載にかかわらず、本件委任状によって、本件会社提案については賛成しない趣旨で、Xに対して議決権行使の代理権の授与を行ったと解するのが相当である。」
つまり、Xに代理権を授与した株主は、2号・3号議案に対して賛成しない趣旨であったから、反対の議決権を行使することが株主本人の指示であったといえます。
そうすると、Xが本件委任状に基づき2号・3号議案に対して反対の議決権を行使した、と扱われない限り、Xに代理権を授与した株主本人の代理権授与の趣旨に反し、無権代理として無効となります(民法107条)。
しかし、本判決の事案では、Xに代理権を授与した4号・5号議案と対立する会社提案の2号・3号議案の集計の際には、反対票ではなく出席しなかったものと扱い、この代理行使分を出席議決権数から除外して2号・3号議案が成立したとしています(本件集計方法)。
本件集計方法によると、2号・3号議案におけるXの議決権の代理行使は無効と扱われ、会社法310条1項に反すると考えられます。
本判決によれば、「本件株主総会の議長…は、…本件集計方法により本件会社提案(2号・3号議案)が出席議決権数の過半数の賛成を得たものとして可決承認された旨宣言したのであるから、本件各決議は、その方法が法令に違反したものとして決議取消事由を有する」と判断しています。
つまり、株主本人の指示に反する議決権の代理行使は、民法107条および会社法310条1項に反して違法であり、これにより成立した決議は決議方法の法令違反となります(831以上1項1号)。
モリテックス事件の論述のポイント
あひるっぺ
ポイント:民法の代理の考え方に立ち返る
民法において、代理人の行為が代理行為として有効(民法99条1項)となる要件の1つに、その行為を行う代理権が存在することを要します。代理権の範囲は、委任事項の記載などからどのような趣旨で代理権を授与したのかを明らかにします。
議決権の代理行使も、上記と同様です。
議決権の代理行使の違法性は、株主本人がどのような趣旨で代理権を授与したか、という代理権授与の趣旨や目的を明らかにし、その趣旨や目的に沿った指示を確定します。
そして、その指示に反する議決権行使があれば、無権代理であり(民法107条)、会社法310条1項に反して違法となります。
会社法は民法の特則です、会社法で規定されていない事柄は、民法の考え方を用いて判断できるようにしましょう。
おわりに
前回の記事と今回の記事では、モリテックス事件を通じて、争点①利益供与(会社法120条1項)の違法性阻却事由と、争点①株主本人の指示に反する議決権の代理行使の適法性(310条1項、民法113条1項)と決議取消事由(831条1項1号)について、学習しました。
いずれも難しい論点ですが、これらの記事で示したポイントを意識すると、理解が進むと思います。
ぜひ、これらの論点を押さえて、会社法を得意科目にしていきましょう。
本稿が、少しでも受験者の一助になれば幸いです。
▽参考文献▽
・会社法判例百選〔第4版〕別冊ジュリスト第254号(2021)
・久保田ほか『会社法判例40!』(有斐閣、2019)
・田中亘『会社法〔第4版〕』(東京大学出版会、2023)
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