法書ログライター様執筆記事です。
▽これからの行政法の判例論点解説記事▽
・【難解判例】土地区画整理事業と処分性をわかりやすく解説(前編)←イマココ
・土地区画整理事業事件(最高裁平成20年9月10日大法廷判決)を分かりやすく解説(後編)
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今回は、前編と後編に分けて、浜松市土地区画整理事業事件(最高裁平成20年9月10日大法廷判決)について、初学者の方でもわかりやすいように、丁寧に解説していきます。
この判例を理解するために、重要な3つのポイントと簡単な結論について説明していきます。
【判例理解の重要ポイント】
①土地区画整理事業とは?
要するに「ぐちゃぐちゃだった街を整理しよう!」ということです。
②「処分性」とは?その判断基準は?
「処分性」は取消訴訟を適法に提起するのに必要な訴訟要件です。
「処分性」は公権力性+個別具体的法効果性(+αの実効的権利救済の観点)で判断されます。
③本判決の意義と理由は?
最高裁は青写真判決を変更し、土地区画整理事業計画の決定に処分性を認めた点に意義があります。
理由は、①同決定が法効果を有すること(個別具体的法効果性)②実効的な権利救済を図る必要があること(実効的権利救済の観点)です。
以上の3つのポイントを中心に、この判例について詳しく解説していきます。
この前編記事では、ポイント①とポイント②を扱い前提知識を確認します。
次の後編記事では、ポイント③を扱い裁判所の判断について踏み込んで解説します。
・【難解判例】土地区画整理事業と処分性をわかりやすく解説(前編)←イマココ
・土地区画整理事業事件を分かりやすく解説(後編)
それではさっそく始めよう!
目次
浜松市土地区画整理事業事件なぜ重要?
浜松市土地区画整理事業事件は「土地区画整理事業計画の決定に処分性を認めた判例」のため重要です
詳細は後半で説明しますので、ココではこのくらいの説明にとどめておきます。
浜松市土地区画整理事業事件を、ものすごく単純化して説明すると次のようになります。
≪浜松市土地区画整理事業事件を単純化すると…≫
・浜松市が『土地区画整理事業』をしようとして『土地区画整理事業計画決定』を行いました。
・施行地区内のXさん達は『土地区画整理事業』を阻止しようと考えました。
・そこでXさん達は『土地区画整理事業計画決定』の取消訴訟を提起しました。
いくら単純化したところで「何を言っているのかよくわからない」という方もいると思います。それはおそらく『土地区画整理事業』や『土地区画整理事業計画決定』という言葉の意味が分からないからではないでしょうか?
『土地区画整理事業』や『土地区画整理事業計画決定』って言葉が、いまいちピンと来ないかも…
あれ…『処分性』もちょっと分かりづらいかも!
今から、それらの言葉や意味を説明していくぞ!
理解するために、そもそも『土地区画整理事業』がどのような事業なのか?ということを理解することが必要です。説明に早速移ります。
①土地区画整理事業の具体的な流れを解説
①-1.土地区画整理事業とは?
『土地区画整理事業』を簡単に言うと「ぐちゃぐちゃだった街を整理しよう!」ということです。
具体的に、次は図を使って説明をしていきます。イメージしながら読んでみてください。
下の図は土地区画整理事業についてのものです。さしあたり図の左側に注目して整理前と整理後の街を比べてみましょう。
(https://www.mlit.go.jp/toshi/city/sigaiti/toshi_urbanmainte_tk_000020.html)
【整理前】土地がいびつな形をしていて、無駄が多いです。
【整理後】きちっと整理されていて見栄えがいいですね。新しい道路や公園などの公共施設が整備され、より住みやすい街になっています。
整理後の土地はきちっと整理されていて見栄えが良いだけでなく、新しい道路や公園などの公共施設が整備され、より住みやすい街になっています。
このように「ぐちゃぐちゃだった街を整理しよう!」という事業が土地区画整理事業です。イメージが持てたでしょうか?
おぉ!『土地区画整理事業』って街を整理することなんだ!
①-2.土地区画整理事業の具体的な4ステップ
次に土地区画整理事業がどのように行われるのかを概観します。土地区画整理事業がおおまかにどのような流れで行われるのかを把握してください。
≪土地区画整理事業の4ステップ≫
ステップ1:土地区画整理事業計画の決定
ステップ2:仮換地の指定
ステップ3:工事
ステップ4:換地処分
詳細を説明していきます。
ステップ1:土地区画整理事業計画の決定
街をきれいに整備したいわけですから、まずはしっかりと計画を練らなければいけません。この計画が『土地区画整理事業計画』です。
浜松市はこの計画について、静岡県知事から認可を受けたうえで、土地区画整理事業計画の決定を行いました。さらに、事業計画の決定の後、浜松市長はその公告を行いました。「土地区画整理事業やるよー」ということをお知らせするわけです。
そして、公告がなされると施行地区内では勝手に建築工事などをすることができないという規制がかかります。(土地区画整理法76条1項)
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ステップ2:仮換地の指定
その後、仮換地の指定などが行われます。紙面の都合上仮換地の詳しい説明は割愛します。
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ステップ3:工事
そしていよいよ工事が行われます。建物を移転したり、道路を築造したり、公園を整備したりします。
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ステップ4:換地処分
最後に換地処分が行われます。換地処分により整理前の土地上の権利が整理後の土地(換地)上に移行します。
重要なポイントは、「基本的には換地処分は工事の後に行われる」ということです。
このように土地区画整理事業は複数の手続きが組み合わさって、段階的に実行されていく事業です。
土地区画整理事業の単語と流れは、大まかに理解できたでしょうか?
土地区画整理事業は、4ステップで進んでいくんだね!
②処分性とは?その判断基準は?
さっき分からなかった「処分性」。うまく理解できるかなぁ?
取消訴訟で訴えを適法ならしめる要件の一つが『処分性』です。
Xさん達は土地区画整理事業を阻止するため上記【Ⅰ】の土地区画整理事業計画の決定について取消訴訟という裁判で争うことにしました。ここで越えなければいけないハードルが登場します。
それは訴訟要件です。
訴訟要件とは、「訴えを適法ならしめる要件」のことです。訴訟要件を満たしていなければ訴えは不適法として却下されてしまいます。
以下で説明する「処分性」は取消訴訟のもっとも重要な訴訟要件の一つです。
次の章では、取消訴訟について規定した行政事件訴訟法の条文を確認していきます。『処分性』が訴訟要件であるということを見ていきましょう。
条文を使って『処分性』の意味を見ていくぞ!
②-1.処分性とは?処分性の条文の確認
まず、取消訴訟については行政事件訴訟法3条2項に規定があります。超重要条文なので引用しておきます。
【行政事件訴訟法3条2項】
この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
この条文によると、ある行政の活動が「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」である場合、取消訴訟によって取消しを求めて争うことができます。そして「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」のことを処分性がある行為といいます。
処分性がある行為=行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
言い換えると、取消訴訟を適法に提起するにはある行政の活動が「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(=処分性がある行為)であることが必要なのです。
このように処分性は取消訴訟を適法に提起するために必要な訴訟要件の一つであり、処分性がなければ取消訴訟は不適法却下となってしまいます。
『処分性がある行為』って「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」かどうかを見ているんだね!
②-2.処分性の有無の判断基準
では処分性の有無はいかなる基準で判定されるのでしょうか。以下はその判断基準について説明していきます。
これについては極めて重要で有名な判断基準が判例(最一小判昭和39年10月29日)により確立されています。
【処分性の有無の判断基準】
その行政活動が「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」に当たるか否か(丸暗記推奨)
この文章はとても重要だ!丸暗記を推奨するぞ!
処分性の有無は…えっと…公権力の主体たる国…。あー!長くて覚えられないよぉ!
今日以外にも何度も復習して、ちょっとずつでいいから記憶に定着させるんだ!
処分性の有無は、その行政活動が、「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」に当たるか否かで判断されます。
前半の「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為」の部分は『公権力性』といいます。
後半の「その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」の部分は『直接具体的法効果性』といいます。
『処分性』は『公権力性』と『直接具体的法効果性」がともに認められる場合に『処分性がある』と判断されます。それぞれどのような場合に認められるのでしょうか?
【処分性があるとは?】
『公権力性』と『直接具体的法効果性」がともに認められる場合のことを言う
【処分性の判断基準の見方】
その行政活動が「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているもの」に当たるか否か
青文字→公権力性
赤文字→直接具体的法効果性
②-3.公権力性と直接具体的法効果性が認められる場合
『公権力性』は典型的には行政庁が優越的な地位に基づいて一方的に法律関係を変更させるような場合に認められます。本事案では公権力性が認められることについては特に争いがありません。
『直接具体的法効果性』はその行為が特定の国民の個別具体的な法的地位を変動させる法効果があるような場合に認められます。本判決ではこの部分について重要な判断がなされています。(詳しくは後編で扱います)
『処分性』は『公権力性』と『直接具体的法効果性」がともに認められる場合に『処分性がある』と判断されます。
【『公権力性』や『直接具体的法効果性」が認められる場合とは?】
公権力性:典型的には行政庁が優越的な地位に基づいて一方的に法律関係を変更させるような場合
直接具体的法効果性:その行為が特定の国民の個別具体的な法的地位を変動させる法効果があるような場合
基本的には「処分性の有無は公権力性+直接具体的法効果性で判断されます。」という認識で良いのですが、判例の中には処分性について原告の実効的な権利救済を図ることに言及するものがあります。本判決もこの実効的権利救済の観点に言及しています。
これはある行政の活動について取消訴訟で争うことを認めないと原告の権利が十分に救済されないという場合に処分性を認めようという議論です。
「うーん、なんて分かりにくいんだ!」と思われた方、安心して下さい。
頭がパンクしそうです…
抽象的な説明だと煙に巻かれたような感じがすると思いますが、後編で具体的な事案とともに考えていけばしっくりと理解できるはずです。
さしあたり、前編では取消訴訟を適法に提起するには処分性が必要であること、『処分性』は公権力性+個別具体的法効果性(+α実効的権利救済の観点)で判断されることを把握できれば問題ありません。
今は完全に理解できていなくで大丈夫だ!後半記事で具体的な事案を説明し、理解を深めていくぞ!
(後編へ続く)
まとめ
今回は、浜松市土地区画整理事業事件(最高裁平成20年9月10日大法廷判決)で出てくる重要な言葉の理解をするために、解説をしていきました。次は、判決について詳しく説明していくので、次の記事を読んでみてください。
▼参考文献▼
行政判例百選II〔第8版〕 別冊ジュリスト 第261号
櫻井敬子,橋本博之(2019)『行政法[第6版]』弘文堂.
下山憲治,友岡史仁,筑紫圭一(2017)『行政法』日本評論社