本記事では、刑事裁判の公判における裁判長、検察官、弁護人、被告人のセリフを通じて、刑事裁判における公判手続の流れを解説したいと思います。
セリフを追いかけるだけでも、刑事裁判の公判の流れがよく分かるかと思います。
第一審の公判手続は、審理手続及び判決宣告手続によって構成されます。審理手続は、まず冒頭手続から始まり、証拠調べ手続を経て、最後に検察官の論告・求刑、弁護人の弁論、被告人の最終陳述等によって終了するのが通常です。その後、裁判所による判決の宣告手続がなされます。これが第一審手続の一般的な流れとなります。
※セリフは、刑事裁判の流れを理解しやすくするために作成したもので、実際の刑事裁判とは異なります。
目次
冒頭手続
まずは、いわゆる冒頭手続から見ていきましょう。
冒頭手続とは?
冒頭手続の流れはおおまかにいうと、次のとおり進められる。
①人定質問
↓
②起訴状の朗読
↓
③黙秘権の告知当
↓
④被告事件に対する陳述
人定質問(規196条)
それでは、開廷します。
被告人は、証言台に移動して、座ってください。
まず、確認しますが、名前は何と言いますか?
法書太郎です。
生年月日はいつですか?
平成○年○月○日です。
本籍はどちらですか?
〇〇です。
住所はどちらですか?
〇〇です。
職業は何ですか?
無職です。
それでは、被告人に対する窃盗被告事件について審理を行います
起訴状の朗読(法291条1項
検察官からの起訴状の朗読がありますから、被告人は、その場で、聞いてください。
検察官:起訴状を読み上げます。公訴事実、被告人は、平成〇〇年○月○日、…
罪名及び罰条 刑法○条
以上について、審理をお願いします。
黙秘権の告知等(法291条4項、規197条1項)
ここで、被告人に対して説明しておくことがあります。まず、被告人には、黙秘権という権利があります。これは、言いたくないことを言わなくても良いという権利です。質問があっても、最初から最後まで黙っていることもできれば、答えたくない質問に対してだけ、拒絶するということもできます。
また、法廷で発言することもできますが、その場合には、被告人に対して有利であれ、不利であれ、証拠になりますから、注意してください。
わかりましたか。
わかりました。
被告事件に対する陳述(法291条4
そこで、今説明したことを前提に聞いていきますが、検察官が読み上げた起訴状の事実について何か言いたいこと、間違っている点はありますか?
〇〇さんのカバンを持っていたのは事実です。お金に困りカバンを盗んでしまいました。
弁護人の意見は、いかがですか?
被告人が述べたとおりです。
被告人は、自分の席に戻ってください。
証拠調べ手続き
証拠調べ手続きの基本
冒頭手続きの後は、証拠調べ手続きに移行します。
証拠調べ手続きでは、主に、証拠の採否と証拠調べが行われます。
基本的には、検察官からの証拠請求→弁護人の意見→採否の決定、弁護人からの証拠請求→検察官の意見→採否の決定を増え、証拠の採否を確定します。
証拠には、①供述証拠と非供述証拠、②書証、物証、認証、③直接証拠、間接証拠など様々な分類がされます。
冒頭陳述(法296条本文)
それでは、ここから証拠調べの手続きに入ります。
まず、検察官は、冒頭陳述をしてください。
検察官証拠調べ請求(法298条1項、2項、規193条1項)
検察官が立証しようとする事実は次のとおりです。
被告人は、・・・
以上の事実を立証するため、ただいま提出した証拠等関係カード記載の各証拠の取調べを請求します。
証拠調べ請求に対する弁護人の意見
検察官請求の証拠に対する弁護人の意見はいかがですか?
甲第○号証は不同意。その他の書証については同意します。
甲の〇号証の証拠物の採用については異議はありません。
検察官請求証拠の決定
(提出された証拠等関係カードの様式に検察官が記載した各証拠の標目や立証趣旨等を確認した後)それでは、弁護人が不同意とした甲第○号証を除く、書証全部及び証拠物を採用します。
甲第○号証の供述調書を弁護人は、不同意としましたが、これに関してはどうしますか?
ただいま提出します証拠調べ請求書のとおり、甲第○号証の供述者である〇〇さんを証人として請求します。
弁護人は、ただいまの証人請求についてご意見は?
異議ありません。
反対尋問は15分頂きたいと思います。
検察官請求証拠の取調べ
それでは、検察官請求証拠の取り調べを行います。検察官、お願いします。
弁護人証拠調べ請求
続いて、弁護人、証拠調べ請求をしてください。
反省文の証拠調べと情状証人の尋問を請求委致します。
弁護人請求証拠に対して、検察官ご意見はいかがですか?
いずれもしかるべく
それでは、弁護人が請求した書証全部及び証人尋問を採用します。
裁判長:それでは、弁護人、要旨の告知をお願いします。
証拠調べの実施
ここから、証拠調べの中身に入っていきます。まず、採用済みの証拠書類を取調べます。
物証の取調べ
裁判長:次に、証拠物を取調べます。
証人尋問
裁判長:ここで、証人である〇〇さんのお話を伺います。では、証人は、証言台に移動してください。座ってください。
(ア)人定質問
名前は何といますか?
〇〇といいます。
(イ)宣誓等
それでは、宣誓をしていただくので、お渡しした紙を声を出して読んでください。
宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います。
裁判長:証言席に座ってください。今、誓われたとおり、真実を語るということでよろしくお願いします。
宣誓の上で、偽証をすると、罰がありますから注意してください。
なお、証言すると、証人自身や近親者が起訴されたり、有罪判決を受けるというような事項については、その理由を告げて証言を拒むことができますので、そのような場合には申し出ください。
わかりました。
(ウ)主尋問←請求した側が先に尋問
裁判長:それでは、弁護人から質問してください。
それでは、弁護人の〇〇からお伺いします。
…
(エ)反対尋問
それでは、検察官、反対尋問をしてください
それでは、検察官からお伺いします。
・・・
(オ)補充尋問
それでは、私からも補充的に質問をします。
(裁判長が補充的に質問をする)
これで〇〇さんに対する証人尋問は終了します。〇〇さんは、元の席に戻ってください。
被告人質問
それでは、被告人質問を行います。検察官、お願いします。
証拠調べの終了
双方、立証は以上ということでよろしいですか?
それでは、証拠調べを終わります。
論告、弁論、最終陳述
論告・求刑
裁判長:結審に先立って、本件に対する検察官及び弁護人側の最終的な御意見を伺うことにします。
まず、検察官からどうぞ。
本件に関する検察官の意見を申し述べます。…
したがって、関係法令を適用し、被告人を懲役○年に処するのが相当です。
論告とは?
検察官は、証拠調べが終わった後、証拠調べについての裁判官の記憶が鮮明なうちに、事実及び法律の適用について意見を述べる必要があります。
これを、論告といいます。
弁論
裁判長:続いて弁護人どうぞ。
弁護人の意見を申し述べます。…
最終弁論
弁護人は、検察官の論告・求刑に対して、意見を述べることができます。これを最終弁論といいます。これに対して、被告人の陳述は、最終陳述と呼ばれます。
最終陳述
被告人は、証言台に立ってください。
これで本件の審理を終わりますが、最後に何か言っておきたいことはありますか?
〇〇さんに本当に申し訳ないことをしたと反省しております。
申し訳ありませんでした。
判決
(ここからは、判決手続です。もう少しで終わりです。)
判決宣告
裁判長:被告人は、証言台のところに立ってください。これから、被告人に対する〇〇被告事件についての判決を言い渡します。
まず、判決の結論である「主文」です。
主文、判決の結論である「主文」です。
「主文、被告人を懲役〇〇年に処する。」
「この裁判確定の日から、3年間刑の執行を猶予する。」
「押収してある〇〇を没収する」
次に理由について述べます…
執行猶予の説明
裁判長:先ほど、懲役○年、執行猶予△年という主文を言い渡しましたので、執行猶予という制度について説明しておきたいと思います。
執行猶予というのは、もしも、この判決が確定した場合には、△年の猶予の期間内にそれが取り消されなければ、懲役○年の服役をしなくても良いという制度です。
逆言うと、執行猶予が取消になれば、実際に懲役○年の服役をしなければならないということです。では、どのような場合に取消しになるかというと、△年の猶予の期間中にさらに罪を犯して禁錮以上の実刑に処せられた場合がまずあげられます。
この判決が確定する前の余罪でもそれが実刑になると、今回の執行猶予が取消しとなります。
執行猶予が取消しになると、その時の実刑と、今回の懲役○年が足されて、長期期間の服役になってしまいます。
さらに、△年の猶予の期間中にさらに罪を犯して罰金刑が処せられただけでも、執行猶予が取消になる場合があります。
したがって、猶予の期間中は十分注意する必要があります。
説明は分かりましたか?
わかりました。
上訴権の告知
この判決に不服がある場合には、控訴の申立てをすることができます。
その場合には、明日から数えて14日以内に、〇〇高等裁判所宛ての控訴申立書を、この〇〇地方裁判所に提出してください。
○有罪判決の構成
主文 | 主刑(法333条1項、刑法9条) |
刑の執行猶予(法333条2項、刑法25条) | |
付加刑(法333条1項、刑法9条、19条等) | |
理由 | 罪となるべき事実(法335条1項) |
証拠の標目(法335条1項) | |
事実認定の補足説明 | |
法令の適用(法335条1項) | |
法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実の主張に対する判断(法335条2項) | |
量刑の理由 |