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(挨拶おわり)
この記事では、宝塚市パチンコ条例事件(最判平成14年7月9日)について、初学者の方でも分かりやすいように、丁寧に解説していきます。
まず初めに本判決を理解するための3つのポイントと簡単な結論を以下に示しておきます。
1 本判決はどのような事案か
宝塚市(X)がパチンコ店(Y)に対し、同市の条例に基づきパチンコ店の建築工事中止命令を発しました。
しかし、Yが建築工事を続行したため、XはYを被告として建築工事の続行禁止を求める民事訴訟を提起しました。
2 本判決の論点と判断
本判決はXの訴訟は法律上の争訟ではない、として本件訴えを却下しました。
3 本判決への批判(応用)
このような却下判決は学説により厳しい批判にさらされました。



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Ⅰ 宝塚市(X)は「宝塚市パチンコ店等、ゲームセンター及びラブホテルの建築等の規制に関する条例」という条例(以下本件条例という)を置いていました。そして、本件条例では一定の場合に市長は建築工事中止命令を発することができる事になっていました。(8条)
Ⅱ Xはパチンコ店の建築に着手したYに対し中止命令を発しました。
Ⅲ しかし、Yは建築工事を続行しました。
Ⅳ そこで、XはYを相手に、工事の続行禁止を求める仮処分を申し立て、申立てを認容する決定を得たうえで、工事の続行禁止を求める訴えを提起しました。
初学者の皆さんは普通に事案の概要を眺めると「あー、そうですか」という感じで特に違和感を感じないかもしれません(私もそうでした)。
しかし、行政法の勉強が進んでくるとⅢの後に通常ならあるべきものがないことに気が付くでしょう。なにがないのかわかりますか?
それは行政刑罰や行政上の強制執行です。
行政上の義務履行確保などと言われたりもします。通常ならば行政はこれらの手段を通じて自力救済、自力執行することが可能です。
しかし、Xはそれらを行うことができませんでした。
例えば当時本件条例には罰金(行政刑罰の一種)の制度がありませんでした。
命令違反に罰金を科すという条例はよくあります。実際、改正を経た現在の本件条例には罰金の条文があります。命令違反に罰金が科されるとなればYは建築工事を中止したかもしれません。しかし、当時の本件条例には罰金等の規定はありませんでした。
さらに命令違反に対する、行政上の直接強制もできません。なぜなら、直接強制は個別の法律の定めがなければ行うことはできず、本件のような条例限りで定めることはできないからです。
このように、Xは自力で義務の履行確保をはかれない状態にあったのです。そこで一般人と同じように裁判所を通じて強制執行をしようと考え、訴えを提起したわけです。
(参考:現在の条例) 当時とは異なり罰金が規定されている。
第22条 第12条の規定による命令に違反した者は、6月以下の拘禁刑又は300,000円以下の罰金に処する。
まず、本判決の本件の第1審と第2審の判断を簡単に説明します。
1審及び2審では本件条例は無効であるとの判断がされました。なぜかといえば、本件条例が法律や兵庫県の条例の許容しない規制を定めていると判断されたからです。そこでXの請求は棄却されました。
「棄却」ですので、わかりやすく言えばXの言い分の中身に立ち入った判断をしたわけです。
しかし、最高裁はそれとはまったくレベルの違う判断をしました。
最高裁は本件訴訟は司法審査の対象ではないとして訴えを却下したのです。
「却下」ですので、Xの言い分の中身には立ち入らない門前払い的な判断になります。
では、どういう理由で門前払い的な判断になったのでしょうか。
それは本件訴訟が「法律上の争訟」にあたらないという理由です。
そこで、まず「法律上の争訟」とは何かについてから説明します。
「法律上の争訟」という言葉は裁判所法3条1項に規定されています。
裁判所法3条1項
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
同条によれば裁判所は「法律上の争訟」について裁判をする権限を有します。
逆に法律上の争訟に当たらない場合には裁判所の権限外ということになります。
そして「法律上の争訟」とは、判例上
①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、②それが法令の適用により終局的に解決することができるもの
を言うとされています。(最判昭和56年4月7日「板まんだら事件」)
本判決はこのうち①を否定して訴えを却下しました。どういう理屈なのでしょうか?
判決文を見てみましょう。
「国又は地方公共団体が提起した訴訟であって,財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には,法律上の争訟に当たるというべきであるが,
国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではなく,法律に特別の規定がある場合に限り,提起することが許されるものと解される。」(太字化、改行は筆者による)。
ここで注目されるのは本判決が「財産権の主体」としての行政と「行政権の主体」としての行政を峻別している点です。
前者による訴訟は法律上の争訟だが、後者による訴訟は基本的に法律上の争訟に当たらない、という訳です。
しかし、この判決は学説からの厳しい批判にさらされることになります。
そこで、以下代表的な批判を見ていきながら、本判決に潜む問題点を探ってみましょう。
本判決に対する批判として次のようなものが挙げられます。(なおここに掲載しているものは批判の内のほんの一部にすぎません)。
仮に私人が行政側の中止命令に対して取消訴訟を提起した場合には、当該取消訴訟は法律上の争訟に当たります(この点については争いがないでしょう。そうでなければ行政事件訴訟法上の取消訴訟が提起できなくなってしまいます)。
それにもかかわらず同じ命令を逆の側から争うと法律上の争訟でなくなるのはおかしいという批判です。


同じ中止命令なのにXから争うと法律上の争訟ではなく、Yから争うと法律上の争訟となるというのはおかしいのではないか?ということ。
本件のように義務の履行確保を自力で行えない状況にある行政から、裁判を通しての執行の可能性も奪ってしまっては実効性確保の可能性が大きく削がれてしまうとの批判があります。
今回の記事もお読みくださりありがとうございました。
参考文献
行政判例百選II〔第8版〕 別冊ジュリスト 第261号.
櫻井敬子,橋本博之(2019)『行政法[第6版]』弘文堂.
下山憲治,友岡史仁,筑紫圭一(2017)『行政法』日本評論社.
海道俊明,須田守,巽智彦,土井翼,西上治,堀澤明生(2023)『精読行政法判例』弘文堂
橋本博之(2023)『行政判例ノート <第5版>』弘文堂
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法律記事を書いております犬橋です。現在は国立大学法科大学院に在籍しながら、行政法の判例の解説記事を主に執筆しています。令和7年司法試験合格者。
初学者の方にもわかりやすく、興味を持ってもらえるような記事を書くことを目指しています。

















