【起案実況中継②】司法試験受験生のリアルな答案と起案後雑感【平成27年刑法】
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司法試験・予備試験の学習において、最も参考になるのは、「模範解答」ではなく、実は「合格に向けて日々研鑽を積み、真剣に課題と向き合う受験生の生の軌跡」ではないでしょうか。
本企画は、令和8年司法試験合格を目指す、ある受験生の起案をシリーズで公開するドキュメンタリー・コンテンツです。
飾られた「正解」ではなく、制限時間内に何を考え、どこで迷い、どう書き切ったのか。その「リアルな起案」と、直後の「痛切な自己分析(雑感)」をセットでお届けします。
本企画は、「過去問の研究不足・演習不足」という自身の課題を直視し、自らへの戒め、そして同じ悩みを持つ他の受験生の力になりたいという、一人の受験生の尊い決意とご協力によって実現しました。
第2回となる今回は「平成27年刑法」。
窃盗と横領の区別、誤想過剰防衛の成否、共謀の射程といった刑法の重要論点に食らいつきながらも、刻一刻と迫る制限時間に焦り、丙の罪責にわずか15分しか残せなかったという「起案のリアル」が赤裸々に綴られています。
同じ目標に向かって懸命に綴られたこの答案から、時には刺激を受け、時には深く共感し、ご自身の答案と徹底的に比較してみてください。 合格を勝ち取ろうとする司法試験受験生の「思考の熱量」を追体験することが、自らの学習をアップデートするヒントとなるはずです。
問題文はこちら:平成27年 司法試験 論文式試験 刑事系科目
◆起案のルール
・本番のCBT形式をご自身で再現した環境で起案
・法スタ事務局は、協力受験生に対して「科目」のみを事前に伝達
・起案対象(過去問の年度)は、起案開始の5分前に告知
・起案終了後、直ちに起案した答案を法スタ事務局に提出
目次
平成27年司法試験 刑法 受験生のリアルな答案
第1 甲の罪責
1 甲がA社新薬開発部の占有する新薬の書類をA社から持ち出した行為のA社に対する窃盗罪の成否(235条)
(1)「他人の財物」とは、他人の占有する他人の財産的価値のある有体物をいう。占有が認められるか否かは、占有の意思をもってその者の管理支配が当該物に及んでいるかによって判断する。
上記書類は、A社の新薬開発部において部長職にある者が、その席の後方にある金庫に入れて保管しているものであって部長の管理支配状態にある上、当該部長が金庫の番号を知っていることから占有の意思を有するとして、新薬開発部の部長の占有下にある。
そして、甲は12月15日の上記行為時点において新薬開発部の部長ではなく、後任の部長に引き継ぎとして金庫の番号を伝えたことから、甲に上記書類の占有は認められず、当該後任の占有が認められる。
また、当該書類は、A社において新薬の製造方法が記載された書類であって当該新薬についての商品としての財産的価値が化体された有体物である。
したがって、当該書類は「他人の財物」にあたる。
(2)「窃取」とは、占有者の意思に反して財物の占有を移転させることをいうところ、甲は、上記の持ち出し行為において甲のかばんに当該書類を入れることで占有を確保し、A社の本社ビルを出たことで占有の移転をさせているから、「窃取」にあたり、かかる時点で既遂に達する。
(3)甲は、当該書類を乙に交付して対価として300万円を得る目的であったから、不法領得の意思および故意が認められる。
(4)よって、甲の上記行為に窃盗罪が成立する。
2 上記行為の業務上横領罪の成否(253条)
甲につき当該書類が「自己の占有する他人の物」として、甲の占有が認められると、業務上横領罪が成立する。もっとも、上記の通り、当該書類の占有は甲ではなくA社新薬開発部の後任の部長に認められるから、「自己の占有する他人の物」にあたらない。
3 甲がCのかばんを取り上げた行為の強盗致傷罪の成否(240条前段)
Cは甲の上記行為の弾みで通路に手を付いたことで手のひらをすりむくという傷害結果を負い、「負傷」をしている。
しかし、強盗罪には財物の奪取に向けられた手段としての「暴行又は脅迫」を要し、その程度は犯行を抑圧するに足りる程度を要する。甲は、Cに対して「私のかばんを盗んだな。返してくれ。」「待て。」と申し向けているものの、Cに対する害悪の告知として脅迫にあたらず、また、Cのかばんの持ち手を引っ張っているだけであり、占有を排除するためにCの身体に向けた有形力の行使としての暴行ではなく、さらに、いずれも犯行を抑圧するに足りるものではないから、「暴行又は脅迫」が認められない。
そして、傷害結果が、強盗における財物奪取に向けられた手段たる暴行ではなく、財物奪取行為そのものから生じたときは、窃盗罪と傷害罪の併合罪の成立可能性があるにとどまり、強盗致傷罪は成立しない。
したがって、甲の上記行為に強盗致傷罪は成立しない。
4 上記行為の窃盗罪の成否(235条)
(1) 甲は、Cが所持して占有するCのかばんを取り上げて電車に乗ったことで、Cの意思に反して占有を排除して、自己の下に占有を確保し移転させたとして、「窃取」したといえる。
(2)甲は、自己のかばんを取り返す目的であったところ、Cが占有する事実および自己の下に占有を移転させることについて認識していたから故意および不法領得の意思も認められる。
したがって、上記行為に構成要件該当性が認められ、違法性阻却事由も存在しない。
(3)甲は、上記の目的を有していたことから、違法性阻却事由該当事実の認識があるとして、犯罪事実の認識を欠くとして責任故意が否定されるか。
甲の認識事実が違法性阻却事由に該当するか。甲は、Cが甲のかばんと同じブランド、色、大きさのかばんを所持していたことをもって、Cが甲のかばんを盗んだと誤信している。かかる認識事実は、甲の占有侵害の事実が現在するものとして「急迫不正の侵害」にあたる。さらに、甲は、占有につき回復するためという防衛の意思をもって「自己…の権利を防衛するため」に上記行為をしている。
上記行為は、「やむを得ずにした」といえるか、手段として相当性を有する行為かによって判断する。甲の認識事実では、窃盗犯人のCが自分の呼びかけを無視してホームに向かおうとしていた状況であるが、Cがとりわけ逃げようとしていた状況であったともいえ
ず、有形力を行使して取り上げる必要があったとはいえない。
そうすると、上記行為は手段としての相当性を欠き、「やむを得ずにした」といえない。
したがって、甲の認識事実に正当防衛が成立せず過剰防衛が成立し(36条1項、2項)、責任故意が認められる。
(4)よって、甲の上記行為に窃盗罪が成立する。なお、甲の認識事実に過剰防衛が成立するところ、過剰防衛の制度趣旨たる緊急状況下における責任減少が妥当するため、刑の任意的減免が生じる。
5 甲の上記行為の傷害罪の成否(204条)
甲は、Cのかばんを取り上げた行為によってCに手のひらの擦過傷という「傷害」を負わせたことから傷害罪が成立する。
6 甲にA社に対する窃盗罪、Cに対する窃盗罪と傷害罪の併合罪が成立する。
第2 乙の罪責
1 甲がA社の新薬の書類を持ち出した行為についての、窃盗罪の共同正犯の成否(60条、235条)。
(1) 共同正犯の成立要件は、正犯意思を有する者同士の犯罪共同遂行の意思連絡(共謀)および共謀に基づく実行である。
ア 甲乙間の意思連絡について、12月1日時点では、甲は「私は、新薬開発部の部長だから、新薬の書類を自分で保管している」旨告げており、乙は「その書類を私に下さい。」と申し向け300万円を甲に支払い甲の転職について告げていることから、甲が業務上占有する新薬の書類についての横領行為を行うことの意思連絡があり、甲乙間の報酬の合意があることから両者に正犯意思も認められる。したがって、かかる時点では業務上横領罪の共謀が成立する。
イ 甲は、上記の共謀通りに新薬の書類を持ち出している。
甲の実行行為時点で甲は業務上占有者としての身分を喪失しており、かかる行為は上述の通り窃盗罪の実行行為であるから、甲乙間の共謀に基づくか、共謀の射程が問題となり得る。
共謀の射程が認められるかは、共同正犯の処罰根拠たる共犯者が構成要件的結果に対する因果性を有する点にかんがみ、共謀内容の犯罪と実行行為の犯罪の行為態様および保護法益の共通性を考慮して、因果性が認められるかによって判断する。
業務上横領罪と窃盗罪の行為態様については、占有の移転という結果の発生を惹起する点で共通性が認められるものの、保護法益については、他人の占有と自己の占有として異なっている。
しかし、甲は、上記行為による窃盗の実行行為後に乙に対して、持ち出しに成功したことおよび財務部に所属が変わったことを伝え、乙も所属が変わったことを認識したことから、この時点で新薬の書類についての「他人の財物」について認識し、窃盗罪の構成要件的事実の共通の認識がある。さらに、具体的な行為態様についても、甲がA社から新薬の書類を持ち出し、乙に交付するという点で共通するから、当初の共謀と実行行為との間に大きなそごは無く、因果性が認められる。
したがって、共謀に基づく実行が認められる。
(2)よって、乙に窃盗罪の共同正犯が成立する。
第3 丙の罪責
1 丙が甲のかばんを持ち出し、交番で警察官にかばんを渡した行為の窃盗罪の成否(235条)
(1) 「窃取」とは、他人の占有する財物につき、占有者の意思に反して占有を移転させる行為をいう。
甲のかばんにつき、甲の占有が認められるか、管理支配状態および占有の意思により判断する。
甲のかばんは、待合室のベンチに置かれており、甲は20m先の券売機に向かっている。券売機と待合室の位置関係として20m離れており、甲の管理支配が及んでいない、また、券売機に向かって立つと待合室が見えず、待合室内にある甲のかばんにつき甲の占有の意思が及んでいない、とも思える。
しかし、20mの距離があるとはいえ、甲は切符を買うために一時的に離れたに過ぎず放棄したわけではないから、甲のかばんに対する管理支配状況はなお及ぶ。また、甲としてもこのことを認識しているから、占有の意思が認められる。
したがって、甲のかばんは、甲の占有が認められるから、丙の上記行為は、甲の意思に反して占有を排除して丙の占有に移転させる行為として、「窃取」にあたり、待合室から50m離れた交番にいった時点で占有を確保して既遂に達する。
(2)丙は甲の様子を見ていたことから、甲のかばんが甲の占有にあることを認識しており、故意および不法領得の意思も認められる。
(3)よって、丙の上記行為に窃盗罪が成立する。
平成27年司法試験 刑法 起案後の自己分析、雑感
1 検討段階として、全体を一読して行為と検討する犯罪の成否にあたりをつける→各犯罪の構成要件該当性、違法性、共同正犯の成立要件等の該当性を意識して読むことを最初に行った。比較的単純な事例であったことから、それぞれ5分ずつという短時間で終えることができた。CBTの加除訂正が容易なメリットを活かそうと、検討事項を意識し続けるのみで、メモを使用しなかった。手書きとCBTの比較として、手書きの場合は問題文の該当箇所に書き込んだりするなどで答案構成に替えることができたが、CBTのメモ機能の使い勝手に慣れておらず、未だ良い方法を見つけられていない。
2 検討段階では、①書類の持ち出し行為の窃盗罪・業務上横領罪における占有の帰属、②Cのかばんを取り上げた行為の強盗致傷罪・窃盗罪・傷害罪における暴行の手段性と誤想過剰防衛、③乙の窃盗罪の共同正犯における共謀の射程、④甲の窃盗罪における占有の帰属が問題となることを把握することができた。
もっとも、a書類の占有が甲に無いことを意識しつつも答案上どこで書くべきか、b強盗致傷罪の暴行の手段性を否定して「財物奪取行為そのものから傷害が生じた場合に窃盗罪と傷害罪の併合罪となる」ことを答案上どう書くべきか、cCのかばんを取り上げた行為について防衛手段の相当性を認めて誤想防衛とするか誤想過剰防衛とするかの結論、d乙の共謀の射程について実行行為後に行為に対応する意思連絡が存在することを共謀の射程として書くべきか、e各要件のあてはめ等については、この段階で決定できなかった。
刑法が得意な人は、おそらくこの段階でa~eについて決定できていると考えるため、この部分を伸ばしていきたい。
3 答案作成段階について、検討段階で把握した問題となる事項を意識しつつ、甲の罪責から書き始めた。検討事項が多いと感じつつも時間をある程度確保できていたことから、タイプミスがあっても少しは落ち着いて答案を書くことができた。
しかし、乙の罪責を書き始めたのが残り38分時点、丙の罪責を書き始めたのが残り15分時点であり、甲の罪責に57分、乙の罪責に23分、丙の罪責に15分という時間配分に失敗している。検討段階で上記a~eについて決定できていると、甲の罪責でそこまで時間がかからなかったと思えるため、事案を読んで検討事項を把握し、その検討事項をどのように書くか、という決定を早める練習が必要と感じる。
さらに、振り返って思うことは、検討事項を意識し続けることにも限界があるから、答案用紙に簡単にメモをして最後に消す等が必要ではないか、と感じた。
⑴ 甲の罪責について、書類の占有の帰属がA社新薬開発部の部長にあり、甲に無いことが前提であり、法定刑の重い窃盗罪から検討して「他人の財物」該当性で占有の帰属と財物性を検討し、窃盗罪の検討が終わってから一応業務上横領罪を否定することにした。何度か入力して、消して…と繰り返したから、時間がかかったと思える。
窃盗罪における占有の帰属の検討内容としても、ここで「甲の占有にないこと」までを論じる必要は無いと判断し、抽象的に部長に占有が認められ、実際にも甲が後任に引き継いだことから後任の者に占有があるとして、「他人」の占有にあることを意識して論じたことは、自分にとって良くできたと感じる。
ただ、A社に対する罪責として検討している以上、占有者を上位者のA社として認定するべきだった。
業務上横領罪の検討は、窃盗罪が成立する以上検討する必要は無いのでは、と感じつつも、「甲の占有にないこと」を認定することで問題の所在に気付いていることを示すために記載した。具体的な書き方として、これで良かったかは不安が残る。
Cに対する犯罪の検討として、窃盗罪と傷害罪を認定したあとに、個別で強盗致傷罪を論じるか、それとも強盗致傷罪から検討して否定した後にそれぞれ論じるかに迷い、同じように何度か入力して、…消してと繰り返したから、時間がかかった。最終的に重い罪である強盗致傷罪から論じ、「財物奪取行為そのものから傷害が生じた場合に窃盗罪と傷害罪の併合罪となる」可能性があることを、強盗致傷罪が成立しない理由の一つとして最後に記載することにした。これも自信がない。
窃盗罪の検討において、財物取り返し目的を責任故意だけでなく、故意および不法領得の意思でも問題となり得るとして、少し丁寧に書いたが、欠く必要があったのか。
また、甲の行為に防衛手段の相当性が認められるのかについては、当初は相当性を肯定する結論で書いたが、Cの占有侵害について罪責を負わないことに引っ掛かりを感じたため、消して、相当性を否定する結論で書きなおした。そのため、時間がかかってしまった。
さらに、傷害罪について窃盗罪と同様に誤想過剰防衛の問題が生じるにもかかわらず、検討を忘れてしまった。
⑵ 乙の罪責について、残り時間が38分であり、焦りながら書き進めていった。
共謀に基づく実行後に、実行した犯罪に対応する共謀が成立したことについて、どう処理して良いか、窃盗と業務上横領との間に抽象的な行為態様・保護法益の共通性が見出しづらく、実行後に共謀しても後の共謀が先に行われた実行に因果性を及ぼすことは無いのでは…、とかなり悩んだ。とりあえず、実行行為が当初の共謀の射程として因果性が及ぶか、という大枠で、具体的な行為態様が共謀通りの内容なこと、行為後に実行行為に対応する意思連絡があったことを、因果性を肯定する要素として位置付けることにした。その場で考え付いた構成としては、比較的上手くできたと感じる。
⑶ 丙の罪責について、残り15分しかなく、大したことは書けないと思いながらも、占有の帰属についての事実を拾ってあてはめることが唯一問われていると感じ、否定しる事情と肯定し得る事情を拾って評価することを心がけた。
⑷ また、既遂時期の検討が抜けがちなため、全体として強く意識しながら忘れず認定した。
4 個人的には、刑法が苦手な割に比較的書けた方と感じたため、少し成長していると実感した。
司法試験合格者の皆様へ:コメントのお願い
この受験生の答案および自己分析をご覧いただき、添削にご協力いただける司法試験合格者の方がいらっしゃいましたら、お気軽にご連絡ください。
謝礼の有無や金額、添削の方法・進め方については、個別にご相談させていただきます。
「この事実の指摘が漏れている」「あてはめを強化できる」「規範の書き方を整理すると良い」など、実戦に役立つフィードバックをいただけますと大変ありがたく存じます。
























