「南九州税理士会事件の概要とポイントは?」
「南九州税理士会事件の問題意識と結論は?」
「群馬司法書士会事件との違いは?」
「南九州税理士会政治献金事件」は、「税理士会のような強制加入団体では、団体の政治的活動の自由に関しては目的の範囲を狭く解釈し、構成員個人の思想・信条の自由を尊重しなければならない」ことを示した判例として知られています。
「八幡製鉄事件」のような「民間企業の政治的活動が問題となった事例との違い」を押さえましょう。
また、強制加入団体の目的の範囲が問題となった、その他の事例についても併せて押さえておきましょう。
かもっち
「法人の人権享有主体性」の判例として、以下の理解は必須だ!
・八幡製鉄所事件
・南九州税理士会事件
・群馬司法書士会事件
逆に言うと、この3つの判例を正しく理解し、違いを意識しながら論述できれば、この論点は上出来だ!
目次
「南九州税理士会事件」の概要
初めに、概要をご紹介いたします。
「南九州税理士会事件」の概要
1978年、南九州税理士会は、定期総会において、税理士にとって有利な税理士法改正を働きかけるための運動資金を集める目的で、5000円の特別会費を徴収して、各県税理士政治連盟に収める決議を行いました。
これに対して、会員税理士であるXが、政治献金は税理士会の目的外の行為であることや会員の協力義務の限界を超えるものであることから、当該決議が無効であると主張して、訴えを提起しました。
なお、税理士Xは、特別会費の納入を拒否したことから、会費の滞納に当たると認定されて、税理士会の役員選挙における選挙権、被選挙権を行使できなくなったという弊害も被っています。
「南九州税理士会事件」の問題意識と結論は、以下です。
◆「南九州税理士会事件」の問題意識と結論
問題意識:強制加入団体である税理士会が、政治献金を行うことは「当該政治団体に対して寄付をしたくない」という構成員の思想・良心の自由を侵害しないか?
結論:政治献金は、税理士会の目的外とした
「法人・団体の政治的活動」の自由と目的の範囲
「南九州税理士会政治献金事件」を考えるにあたって、「『法人・団体の政治的活動』の自由と目的の範囲」について、理解する必要があります。
法人に「基本的人権」は認められるのか?(法人の人権享有主体性)
憲法第三章「国民の権利及び義務」の規定が、自然人にも適用されるのは当然として「法人にも適用されるのか?」という問題があります。
この点については、「八幡製鉄事件」の最高裁判決において「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用される」との判断が下されています。(最大判昭和45年6月24日)
「八幡製鉄事件」の最高裁判決:憲法第三章は法人にも適用されるのか?
憲法第三章に定める「国民の権利および義務」の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用される
「政治資金を寄附する行為」を法人はできないのか?
先ほどの点を指摘したうえで、「会社」も、国や政党の特定の政策を支持、推進、または反対するといった「政治的活動の自由」を有しており、その一環として、特定の政党に政治資金を寄附することも認められるとしています。
「南九州税理士会事件」も「八幡製鉄事件」を引用し、性質上可能な限り、法人にも人権が認められることを前提としています。
民間企業であれ、公的な団体であれ、「法人」は定款などにより「目的の範囲」が定められています。法人に「政治的活動の自由」が認められるにしても、「特定の政党に政治資金を寄附する行為」が、法人の「目的の範囲外」の行為であれば、無効になります。
その点「八幡製鉄事件」の最高裁判決では「客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為である」と解してよいとしています。(最大判昭和45年6月24日)
「八幡製鉄事件」の最高裁判決
客観的、抽象的に観察して「会社の社会的役割を果たすためになされたもの」と認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為である
「税理士会」の場合「政治資金を寄付する行為」は目的の範囲内と言えるか?
では、本件の「南九州税理士会」はどうでしょうか?
「南九州税理士会」も会社と同じ法人ですし、「政治的活動の自由を有している」と解することができます。しかし「目的の範囲内」であれば、「政党に政治資金を寄附する行為も可能」と考えられます。
ところが最高裁は「南九州税理士会(政治献金)事件」では、「目的の範囲」を狭く解釈しています。
すなわち、「税理士会が政党に政治資金を寄付する行為」は「税理士法で定められた税理士会の目的の範囲外の行為である」と認定しました。
最高裁の考え方
「税理士会が政党に政治資金を寄付する行為」は「税理士法で定められた税理士会の目的の範囲外の行為である
たとえ税理士にとって、有利な法改正を求めるためのものであっても、結論に変わりがなく「寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべき」と述べました。(最判平成8年3月19日)
「八幡製鉄事件」の最高裁判決と結論が異なったのは、八幡製鉄は民間企業であり「任意加入団体」だから、一方、税理士会は税理士が活動するには加入が強制される「強制加入団体」だからという違いが挙げられます。
「八幡製鉄事件」の最高裁判決と結論が異なった理由
八幡製鉄:民間企業であり「任意加入団体」
税理士会:税理士が活動するには加入が強制される「強制加入団体」
「任意加入団体」と「強制加入団体」の違い
「任意加入団体」と「強制加入団体」の違いは、「組織を離脱する自由があるかどうか?」という点にあります。
法人などの「任意加入団体」について
「自然人が集まって構成される組織」ですが、自然人も各々の政治的な思想を有しており、必ずしも、法人の政治的な思想と一致するとは限りません。
「法人」の政治的な思想に賛成できない場合は、その構成員である自然人は、法人を離脱することもできます。
例えば、民間企業であれば、入社するのも退職するのも、個人の自由ですから、民間企業による特定の政党への政治献金が、自分の政治的な思想と異なるものであれば、それを理由に退職することもできます。
税理士会などの「強制加入団体」について
「税理士会」に加入しなければ、税理士として活動することができず、「税理士会」の政治的な思想に賛成できない場合でも、会員である税理士には離脱の自由はありません。
そのため、「税理士会」のような強制加入団体については、構成員である個人の思想・信条の自由を尊重しなければならないため、「目的の範囲」を狭く解釈する必要があるわけです。
◆理解のポイント
①税理士会の目的は法定されている(目的の法定)
②税理士会は強制加入団体(=脱退の自由が保障されていない)であること
③設立後も所管大臣の監督に服する団体(事後的な監督)
→団体の目的の範囲は制限的に解すべき
南九州税理士会事件をベースとした出題がされた場合は、上記3点について、南九州税理士会事件との違いに着目して論証すると論述に厚みが増すぞ!
「南九州税理士会事件」の最高裁の考え方
最高裁の考え方を、まとめておきましょう。
◆重要ポイント①
「税理士会」は強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には、脱退の自由が保障されていない。
◆重要ポイント②
「税理士会」の「目的の範囲」を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
・税理士会の会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが予定されているため、税理士会の活動方法を多数決により決定したにしても会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。
・政党に金員を寄付するかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すもので、会員各人が個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。
◆重要な判決の結論
「税理士会」が政党に金員を寄付することを、多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできない。
よって、「税理士会」が政党に金員を寄付することは、税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、「税理士会」の目的の範囲外の行為であり、特別会費を徴収する決議は無効である。(最判平成8年3月19日)
南九州税理士会事件のコアキーワード
・税理士会は「強制加入団体」であって、実質的には「脱退の自由が保障されていない」
・「政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏をなす」
コアキーワードをストックしておいて、答案作成時に使うと、それっぽい答案になりそう!
あひるっぺ。「コアキーワード」は便利だけど、当然、判例を理解して使わないといけないぞ!
「強制加入団体」の「目的の範囲」に関するその後の最高裁判例
「南九州税理士会事件」は「強制加入団体」の活動が、「構成員の基本的人権と、どのように調和するべきか?」を示した重要な判例です。
「税理士会」のような「強制加入団体の目的の範囲」は、その後も争点となったことがあります。
群馬県司法書士会事件(最判平成14年4月25日)は代表例です。
「南九州税理士会(政治献金)事件」とは、最高裁が出した結論が異なるため、混同しないように合わせて押さえておきましょう。
群馬県司法書士会事件(最判平成14年4月25日)
この事件は、以下のような内容でした。
「群馬県司法書士会事件」の概要
「群馬県司法書士会」が、阪神・淡路大震災により被災した「兵庫県司法書士会」に、3000万円の復興支援拠出金を寄付するために、会員司法書士の「登記申請事件1件当たり50円」の復興支援特別負担金を徴収することを総会決議で決定しました。
これに対して、同会会員の司法書士が「復興支援拠出金を寄付することが目的の範囲外の行為」であること、「強制加入団体であるから会員に負担を強制することはできない」として、総会決議が無効であることの確認を求めた訴えです。
最高裁は、次のように判断しました。
最高裁の考え方
①阪神・淡路大震災からの復興支援のために、兵庫県司法書士会に復興支援拠出金を寄付することは「司法書士会の目的の範囲」を逸脱するものではない。
②「会員司法書士から復興支援特別負担金を徴収」することは、会員司法書士の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、負担額も平均報酬の0.2%強であり、徴収期間も3年間に限られており、会員司法書士に社会通念上過大な負担を課するものではない。
③「復興支援特別負担金の徴収」について、公序良俗に反するなど「会員の協力義務」を否定すべき、特段の事情はない。
④よって「総会決議は有効」であり、反対している同会会員の司法書士にも、効力が及ぶ。
南九州税理士会事件と群馬司法書士会事件の違い
どのポイントが、2つの事件を分けたのでしょうか?
南九州税理士会事件と群馬司法書士会事件の違い
①問題となった行為の違い
南九州税理士会事件:政治献金
群馬司法書士会事件:被災した司法書士会の復興支援のための拠出
②強制の態様
南九州税理士会事件は:選挙権の停止等
群馬司法書士会事件:登記申請1件あたり50円の拠出の義務付け
③目的の性質
南九州税理士会事件:政治目的
群馬司法書士会事件:政治目的はない
「南九州税理士会事件」のまとめ
「南九州税理士会(政治献金)事件」では、「会員個人の思想、信条の自由」と関係する決議だったため、無効とされました。
一方「群馬県司法書士会事件」では、「被災地の復興支援のための寄付」であって、「会員個人の思想、信条の自由」との関係は希薄なので、決議を有効と解釈したわけです。
どちらも「強制加入団体の目的の範囲」が問題となった事例ですが、結論が異なるため、試験では狙われやすいです。あわせて押さえておきましょう。
今回のまとめ
①法人の人権享有主体性の論点は「八幡製鉄所事件」「南九州税理士会事件」「群馬司法書士会事件」を理解すれば十分
②南九州税理士会事件において、最高裁が税理士会の目的の範囲を制限的に解釈したロジックを理解する(目的の法定、設立義務、強制加入団体、事後的な監督等)
③南九州税理士会事件と群馬司法書士会事件は、強制加入団体という団体としての性質は類似するが、問題となった行為、行為の目的、強制の態様が異なる。それぞれどのように違うのかを理解する。
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